東京・上野の国立西洋美術館で、企画展「スペインのイメージ:版画を通じて写し伝わるすがた」が始まりました。フラメンコや闘牛、ドン・キホーテにアルハンブラ。そんな“スペインらしい”イメージが、どのように形作られ伝えられていったのかを、版画を通して探るという日本初の試みとして、ピカソやダリ、ミロなどの巨匠たちの作品を含むスペイン版画の傑作、約240点が集結しています。
「スペインといえば?」と聞かれて、何を思い浮かべるでしょうか。サッカー強豪国であり、ファッションブランドのZARAも人気。ガウディの建築を見るために、バルセロナには世界中から観光客が訪れる。そんな多彩な魅力を持つスペインも、実は19世紀までは「ピレネー山脈の向こうはアフリカ」と言われるほど、フランスやイギリスなど他のヨーロッパ諸国にとっては未知で、なじみの薄い異国でした。
「日本の浮世絵が西洋世界に知られたのと同じようなことが、そのひと世代前のヨーロッパでおきました」と、本展を企画した同館 主任研究員の川瀬佑介さんは解説します。19世紀にヒトとモノの本格的な往来が始まり、スペインにもヨーロッパ諸国から多くの旅行者が訪れるようになると、彼らはこの地に“異国情緒”を見出しました。アルハンブラやアルカサルのようなイスラム様式に基づく建築は、あたかもスペインらしさとしてとらえられ、西ヨーロッパでブームに。それは当時のヨーロッパ人にとって“最もエキゾチック”なイメージだったのです。
現代のようにインターネットも、自動車も飛行機もない時代、そうしたイメージの情報伝達に大きな役割を果たしたのが、大量に刷ることができ、簡単に持ち運ぶことができた「版画」でした。
本展のメインビジュアルになっているのは、19世紀後半のポスター。「これはカタルーニャでアニス酒を作っている会社が、自社のポスターを作るためにコンクールを開催し、公募で一等になった作品です。スペイン語でmono(=猿)とmona(=かわいい女)が一緒に出てくる駄洒落でもありますが、女性は“典型的なスペイン女性”として描かれ、伝統的なフラメンコの衣装を纏っていますが、カタルーニャ人のために作ったならばこうした衣装にはなりません」(川瀬さん)。
これが“タンバリンのスペイン”と呼ばれる、外国から見たステレオタイプなスペインのイメージのひとつなのだそう。
また今回は特別出展として、スペインの画家ホアキン・ソローリャの油彩《水飲み壺》も本邦初公開。バレンシアに生まれたスペインの国民的画家、ソローリャは、地中海の陽光輝く風土や人々の姿を描きました。この作品では、浜辺の掘立小屋で少女が小さな子供に水を飲ませている愛らしい場面で、日常的に使われていた「水壺」が、一種のスペイン的なモチーフとして選ばれています。
17世紀のリベーラから、ゴヤを経て、ピカソ、ミロ、ダリ、タピエスと受け継がれるスペイン版画。さらに、ドラクロワやマネといった19世紀イギリスやフランスの画家による“スペイン趣味”の作品も、本展では多数紹介されています。特筆すべきは、今回の出展作品が、すべて日本国内から集められているということ。書籍、写真、ポスターなどを含む約240点の作品は、国立西洋美術館の所蔵作品をメインに、全国約40カ所の国内所蔵先から借用。日本におけるスペイン版画の豊かなコレクションが一堂に会する貴重な機会となっています。
■information
「スペインのイメージ:版画を通じて写し伝わるすがた」
会場:国立西洋美術館 企画展示室
期間:7月4日~9月3日(9:30~17:30 ※金土は20:00まで)/月曜休、7/18休、ただし7/17・8/14は開館
観覧料:一般1,700円、大学生1,300円、高校生以下及び18歳未満、心身に障害のある方及び付添者1名は無料