日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント’23』(毎週日曜24:55~)では、『行き場なき残土~違法盛り土への“抜け穴”~』(静岡第一テレビ制作)を、きょう2日に放送する。

  • 母と弟を亡くした酒井真理乃さん

2年前の7月、静岡・熱海市を襲った大規模な土石流を引き起こしたのは、違法に積み上げられた“盛り土”だった。東京・日野市に住む酒井真理乃さん(67)は熱海で暮らす母・佐江子さん(当時93)と弟・幸義さん(同64)を亡くした。酒井さん「時計の針は止まったまま…」と、怒りと悲しみを抱えながら毎月、片道2時間以上かけてふるさとに通い、母と弟が眠る墓に手を合わせている。

この土石流を教訓に国は5月、全国一律の基準で規制を強化する「盛り土規制法」を施行した。しかし「盛り土規制法」には“抜け穴”があった。それは「残土の追跡管理が義務付けられなかった」ことだ。残土処分は複数の下請け業者にまたがるケースがほとんどで、その過程で悪質な業者が入りこんでいる。10年以上、残土の違法処分を繰り返してきた伊豆の業者は「処分費用を抑えるため、これからも残土の違法処分を行う業者はなくならない」と打ち明ける。

土石流で母と弟を亡くした酒井真理乃さんは昨年5月、“盛り土”を主導したとみられる土地所有者や業者などを相手取り裁判を起こした。静岡地裁沼津支部で開かれた裁判を傍聴した酒井さんは「謝罪が一切なかったことがとても悔しい」といい、責任をなすりつけあう業者らに対する怒りをあらわにした。

悪質な業者による違法な盛り土の造成を行政も黙認してきた。番組では、静岡市内の業者から「公共工事で出た残土が違法に運び込まれていた」という証言を得た。その背景を探ると、行政が公共工事で出た残土の処分先を最後までチェックしてこなかったという構造的な問題が浮かび上がってきた。

専門家は「残土が最終処分されるまで行政が責任をもって追跡すべき」と指摘しているが、新たに施行された盛り土規制法では「残土の追跡」が義務付けられていない。建設残土は、「公共工事が大部分を占める」とも言われているだけに、不法投棄の根絶には疑問が残る。

土石流で母と弟を亡くした酒井真理乃さんは、流された実家があった場所を眺めて「ふるさとがなくなった気がする」とつぶやいた。どこにもぶつけることができない怒りと悲しみの裏で、今も全国各地で違法な残土処分が横行している。番組では“法の抜け穴“と”処分の現状”を浮き彫りにし、全国に広がる残土問題の本質に迫る。