ヤギ除草をはじめたきっかけ
沖縄県西表島でパイナップルやカボチャを栽培するTokiファーム。園主の伊藤傑(いとう・たかし)さんは19歳の時、在学していた東京農業大学を休学して地元の埼玉県から単身、西表島に移り住んだ。島の農家に住み込みでアルバイトし、2021年に約80アールの畑を借り受けて独立就農を果たす。現在は2ヘクタールにまで規模を広げ、主にパイナップルやカボチャの栽培に力を注いでいる。
「規模を拡大する中で悩みのタネだったのが、雑草の存在でした。温暖な気候の沖縄県では1年中雑草が生えるため、常に雑草との闘い。忙しい時期は除草剤の散布や草刈り機での除草に手が回らず、畑が雑草だらけになってしまうことがしばしばありました」
こう語る伊藤さんはこれまで、年間約40リットルの除草剤(原液)を使用して除草に当たってきた。また、草刈り機を使った作業でも半日以上の作業を数日間要することも多かったという。省力化する手段はないか考えていたところ、知人から譲り受ける形でヤギが農園にやってきた。
恐るべき、ヤギの除草効果
多くの市町村で実験がなされ、高い除草効果が明らかにされているヤギ除草だが、Tokiファームにおいてもヤギを飼い始めてからというもの、草刈り作業に追われることがほとんどなくなり、除草剤の使用量も抑えることができたと伊藤さんは言う。
「現在、うちでは3頭のヤギを飼っており、主に作付けが終わった畑や次年度に植え付け予定の畑に1頭ずつヤギを置いています。こうしたオフシーズンの畑はあまり回ることができない中、ヤギが自発的に雑草を食べてくれ、その家畜ふんも作物にとってのいい栄養になっています。まさに一石二鳥ですね」
Tokiファームでは、あらかじめ除草したい畑をエリアに分け、そのエリアの近くにある木に、ヤギの首輪をつないだひもをくくり付けて飼育している。ヤギを置いたエリア周辺の雑草がなくなると、次に除草したいエリアに移動させるという。
ヤギ除草のメリット
ヤギを活用した除草のメリットについて、伊藤さんは大きく分けて三つあると話す。
コスト削減&省力化
上述の通り、除草剤などのコストや草刈りに要していた作業時間を大幅にカットできたという。これまで3カ月に1回ほどのペースでまいていた除草剤は年1回の散布に抑えられ、「一日がかりでも終わらなかった」という草刈り作業も、ヤギが食べ残した雑草を刈り取る程度に収まったという。
草刈り機を利用する場合は周囲の騒音にも気を配る必要があるほか、刈り取った雑草の処分に要する労力もばかにならないが、一方のヤギは基本的におとなしく、草の処分方法を考える必要がない点もメリットの一つだろう。
ヤギのふんが堆肥(たいひ)代わりに
土壌改良のために用いられる堆肥。牛や豚などの家畜ふん堆肥を土に混ぜ込む方法などが一般的だが、伊藤さんの先輩農家らによると、ヤギのふんはほかの家畜ふんと比べても土中の微生物の繁殖に一役買う効果が高いといい、よりよい土壌改良効果が期待できるという話だ。
仕事場が癒やしの空間に
「仕事場が癒やしの空間になることも大きいですね。農作業を終えると、毎日1時間くらいはヤギと触れ合っています(笑)。先日ちょうど、ヤギの子供も生まれて、成長するのが楽しみです」と伊藤さん。
無機質になりがちな畑が憩いの場に様変わりすることも嬉しい点だという。
ヤギ除草の注意点5選
生き物であるヤギを畑に迎え、飼育していくうえでは気を付けるポイントが多数存在する。それぞれ、伊藤さんに解説してもらった。
除草エリアを分ける
このためウチでは、ヤギを放つ畑は今年度の作付けを終え、次の作まで期間が空いてしまう場所で主に飼育するようにしています。
脱走の防止
ヤギが脱走してしまうと、畑の葉や農産物が食べられてしまう可能性があります。ヤギは飼育環境が合わないと、その場から離れようとして勢いよく走るため、首輪が外れて脱走してしまうケースが多いようです。
特に気を付けたいのが雨の日。ヤギは雨や水辺を嫌う習性があり、雨が体に当たってしまうような日は脱走の可能性が高いといえます。そのため小屋やテントといった屋根付きの場所を用意するなど、可能な限りヤギにとって快適で、脱走を試みない環境を用意することが、脱走を防ぐ最善策になるでしょう。
健康管理
エサやりなどの基本的な世話が大切なことは言うまでもありませんが、これ以外にもヤギの特性を理解して対策を考えるべき場面があります。
言葉は悪いですが、実はヤギってあまり賢くない生き物なんです。首輪をひもでつなぐ場合、例えばヤギの脚にひもが絡まってしまうと、これを抜け出そうとして動き回るも、どんどん絡まってしまう状況に陥ってしまうことがあります。また、寒さにも弱いため、雨や雪が続く寒い時期にこうして身動きが取れなくなってしまうと、2~3日ほどで死んでしまうかもしれません。毎日ヤギをつないでいる場所へ様子を見に行くなどして、健康状態を管理することが大切だと思います。
飼料の与え過ぎに注意
私の経験談なのですが、以前はJAで購入した動物用飼料を子ヤギに与えていました。ところが、いざ除草しようと思った時、なかなか雑草を食べてくれなくなったことがあります。これは、ヤギが飼料の味を覚えてしまったことが原因で、その飼料しか食べようとしなくなったことにありました。
以降は飼料をあげる頻度を3日に1回くらいに減らし、下痢をするなど健康状態の悪い時に食欲を回復させる目的であげるようにしています。
食べる雑草、食べない雑草がある
私の飼っているヤギたちはイネ科の雑草を好んでよく食べる一方、臭いのある雑草は基本的に食べません。このため、ドクダミなど臭いを発する雑草は自分で抜いたり、草刈り機で定期的に刈ることにしています。
ヤギのほかにも。除草してくれる動物は?
ヤギのほかにも、除草で活躍する動物はいる。特に農業現場で取り入れられている動物について、紹介したい。
アイガモ
水田の雑草を食べてくれる動物の象徴といえばアイガモだろう。日本では古くから、水田の除草や害虫の駆除を行う「アイガモ農法」が知られ、アイガモのヒナが雑草を食べたり、水田を泳ぎ回る際、地表面に生えた雑草を脚で浮き上がらせたりすることで除草の効果がある。ただし、アイガモは元来、水の中で生活している生物であるため、陸地での生育は困難だという。
ガチョウ
ガチョウも除草に役立つ家畜として知られる。Tokiファームでも最近になってガチョウによる除草を試しているといい、1カ月強ほど、畑で放し飼いしているとのこと。期待通りの除草効果が得られていると、伊藤さんは話してくれた。
七面鳥
下記の関連記事で紹介している生産者が、ビニールハウス内の除草などを目的に、七面鳥を活用した循環型農業を営んでいる。
Tokiファームでもこの生産者に師事し、七面鳥を飼い始めて除草効果を試しているとのことだ。
近年はヤギの高い除草能力に目をつけ、ヤギをレンタルするサービスなども多く生まれている。
まずは一定期間借り受けて、自分の畑での除草効果を試してみるのもよいだろう。