2023年4月から「給与(賃金)のデジタル払い」が可能となりました。これまで給与は銀行口座に振り込まれるのが一般的でしたが、今後はデジタルマネー(電子マネー)で受け取ることができるようになります。そこで、「○○Pay使っていない人はどうするの?」「セキュリティ面が心配」などなど、出てくる疑問や質問にQ&A形式でわかりやすく回答します。
■給与のデジタル払いが始まりました
2023年4月から、資金移動業者を利用した賃金の支払いが可能となりました。「資金移動業者」とは、銀行口座などを介さずに送金できるサービスを提供している事業者のことで、代表例として「○○Pay」と呼ばれるスマートフォンのアプリを使用したキャッシュレス決済があげられます。給与の振込先となる資金移動業者は厚生労働省の指定を受ける必要があります。
現在指定を受けている業者数は83あり、金融庁のHPで確認することができます。
※参照:金融庁「資金移動業者登録一覧」
実際にデジタルマネーでの支払いが開始されるには、以下の手順を踏む必要があります。
- 資金移動業者が申請(2023年4月~)、厚生労働省が審査・指定する
- 各会社で労使協定を締結
- 個々の労働者に説明、労働者が同意した場合にデジタル払い開始
デジタルマネーによる給与の支払いは、労使協定を締結のうえ、労働者が希望した場合に限られます。
■デジタル払いの疑問をQ&Aで解決
Q1:「○○Payを使っていない人はどうするの?」
A: 給与のデジタル払いは、希望した人だけです。
会社がデジタル払いに対応しても、希望しなければこれまでどおりに銀行口座などへの振り込みとなります。給与のデジタル払いはあくまでも選択肢の一つです。
Q2:「銀行振り込みとデジタル払いの両方を選択することはできるの?」
A: 両方選択することができます。
給与のデジタル払いを希望する際に作成する同意書に、デジタルで受け取る範囲や金額を自身で設定できます。たとえば、「普段の給与は銀行振り込み、ボーナスのうち○万円をデジタル払いにする」といった具合に自由に設定できます。
Q3:「不正利用などセキュリティ面が心配です」
A: 口座所有者に過失がない時は、全額補償されます。
個人情報の窃取や不正取引などのリスクはキャッシュレス決済に限ったことではありません。給与の振込先となる資金移動業者は、厚生労働省が指定した業者に限るためセキュリティ対策は強化されているはずですが、それでも絶対とはいえません。万が一、口座から不正に出金された場合、口座所有者に過失がない時は、全額補償されます。本人に過失があった場合の補償については個別のケースによります。
Q4:「業者が破綻した場合、口座の残高はどうなるの?」
A: 保証機関から口座残高が速やかに弁済されます。
具体的な弁済方法は、資金移動業者ごとに異なります。
Q5:「デジタル払いの労働者にとってのメリットを知りたい」
A: デジタル払いの労働者側の主なメリットは次の2つです。
①銀行口座からキャッシュレス決済にチャージする手間が省ける
②一部をデジタル払い、残金を銀行振り込みなど、給与の受け取り方の細かい設計ができる
Q6:「デジタル払いの労働者にとってのデメリットを知りたい」
A: デジタル払いの労働者側の主なデメリットは次の3つです。
①デジタル払い用の口座は100万円を超えて入金できない
②希望したキャッシュレス決済が利用できるとは限らない
③家賃の引き落としなど、キャッシュレス決済では対応できない場合がある
資金移動業者の口座は、入金できる金額の上限が100万円と定められています。そのためそれを超える入金があった場合は、事前に指定した銀行口座に自動的に移動されます。その際、送金手数料の負担を求められる場合があります。資金移動業者の口座は預金として使うものではなく、支払いおよび送金するためのものと考えて、毎月の利用実績を踏まえて、受け取り額の設定をするといいでしょう。
Q7:「仮想通貨で支払われることはあるの?」
A: 現金化できないポイントや仮想通貨での支払いは認められません。
Q8:「デジタル払いによってポイントは付くの?」
A: 資金移動業者の口座に給与が直接振り込まれるため、チャージによるポイントは付きません。
キャッシュレス決済では、チャージすることでポイントを獲得できるサービスがあります。このようなキャッシュレス決済を利用する場合は、銀行口座からチャージすればポイントを獲得できるので、デジタル払いによる直接入金は損のように思われます。しかし、今後、資金移動業者がデジタル払いの利用推進のために、ポイント還元やキャッシュバックなどのキャンペーンを展開する可能性があります。どちらが得かは今後の動向を見て判断していきましょう。
■デジタル払いを希望する人は約1割
mitorizが実施した「消費者購買行動データサービス(POB)会員調査」によると、給与のデジタル払いを「希望する」、「おそらく希望する」と回答した人は合わせて10.7%となり、約1割という結果でした。
一方、「希望しない」、「おそらく希望しない」を合わせると65.1%にのぼり、6割以上の人が給与のデジタル払いに否定的な回答となりました。この結果からもわかるように現状、給与のデジタル払いに抵抗がある人が多いようです。
ですが、今後さらにキャッシュレス化・デジタル化が加速していくことは間違いないといえるので、企業と労働者双方のメリットが明確になれば、デジタル払いのニーズも高まっていくでしょう。