埼玉県所沢の角川武蔵野ミュージアムで、7月1日から「体感型古代エジプト展 ツタンカーメンの青春」が始まります。イギリス人考古学者のハワード・カーターが、ツタンカーメンの王墓を発掘した「世紀の大発見」から101年。あまりにも有名な若きファラオの短い生涯を、超複製品の展示と高精細デジタル映像で追体験する、“体感型”の展覧会となっています。
最初に言うと、本展に本物の発掘品や美術品はありません。展示されているのは、世界に3セットしかない、超複製品(スーパーレプリカ)。“101年目のツタンカーメン展”ということで、まったく新しい視点から古代エジプト文明展を構築すべく、気鋭のエジプト考古学者で名古屋大学 高等研究院 准教授の河江肖剰さんが監修に加わり、“レプリカだからこそできた”創意あふれる展示を実現しています。
かの有名な「黄金のマスク」や玉座、王墓に収められていた副葬品のうち、約130点を超精巧に再現。さらに壁と床にプロジェクションマッピングが投影された大空間で、観客は目で耳で全身で3000年前の古代エジプトを体感し、若きファラオの青春を追体験するのです。
古代エジプトへの旅の始まりは、1922年の王家の谷での現場から。カーターが壁に穴をあけて中を覗くと、そこにはツタンカーメンの副葬品が。パトロンのカーナヴォン卿から「何か見えるかね?」と訊ねられたカーターは、「はい、すばらしいものが」と発するのが精一杯だったそう。その“すばらしいもの”を発見した瞬間のカーターの視点で、「世紀の大発見」を追体験します。
近親婚の結果から生まれつき病弱で、左足が内側に曲がった「内反足」だったと言われるツタンカーメンは、しかし戦車に乗り戦場に出ていたという説もあるそう。ここでは、埋葬品から発見されたさまざまな日用品から想起される「ツタンカーメンの部屋」を、多彩なレプリカで再現。ファラオであり、夫であり、そして戦士であったツタンカーメンの姿を浮き彫りにしています。
展示室の中央には、広々とした大空間が広がっています。巨大なスクリーンに映し出されるプロジェクションコンテンツの映像では、エジプト神話の原初から神々の誕生、荘厳な神殿や王墓、宗教改革の混乱、そして王位を継いだツタンカーメンの人生が描かれ、この映像を浴びながら、古代エジプトを全身で体感することに。
スクリーンの前には「黄金のマスク」が輝き、その後ろに配置されたツタンカーメンのミイラが納められていた3つの棺と、その外側にあった3つの厨子が圧倒的な存在感を放ちます。
よく知られているように、古代エジプトでは死は終わりではなく、地上の生活から来世への移行でした。そんな死生観から生まれたのが「ミイラ」。本展では、ツタンカーメンのミイラがどのように埋葬されていたのかも詳しく解説。発見当時に身につけていた首飾りや胸飾りなどの装飾品を、レプリカならではの展示手法と、カーターが描いた詳細なスケッチで紹介しています。
また、象形文字「ヒエログリフ」の基礎知識や解読方法を詳しく解説するコーナーでは、壁と床を埋め尽くすヒエログリフの映像に包まれ、古代エジプト人が刻んだ言葉に想いをはせるひとときに。
ツタンカーメンの父・アクエンアテンは、自然や動物の化身、太陽や空や星、鳥や虫など1,500柱にものぼる神々を崇拝する「多神教」に背をむけて、太陽円盤の神アテンのみを崇める「一神教」へと宗教改革を断行した、“異端の王”でした。ところが大衆からの支持は得られず、宗教的な大混乱の中で、幼くして即位したのがツタンカーメン。父王の跡を継いだツタンカーメンは、父が断行した「一神教」から「多神教」に戻すことに。
父の死により8~9歳でファラオに即位し、19歳で亡くなったとされるツタンカーメン。彼がファラオであった期間は、人の一生の“青春”と呼ばれる期間に重なります。歴史と最新デジタル技術を融合させた体感型展示によって古代エジプトにタイムスリップし、若きファラオの青春時代に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
■information
「体感型古代エジプト展 ツタンカーメンの青春」
会場:角川武蔵野ミュージアム1階 グランドギャラリー
期間:2023年7月1日~11月20日(日~木は10:00~18:00、金・土は~21:00/第1・3・5火曜休)
観覧料:一般2,400円/中高生1,800円/小学生1,000円/未就学児無料