東日本電信電話 東京武蔵野支店(以下、NTT東日本)は2023年6月から9月上旬にかけて、ドルトン東京学園 中等部において再生可能エネルギーに関する学習環境をコーディネートする。

6月5日には京都大学 助教 博士(農学)大土井克明氏が中等部の1年生に向けて「メタン発酵技術」の特別授業を実施。7月上旬には、生徒が家庭から持ち寄った一般ごみを発酵させてメタンガス(=熱エネルギー)と液体肥料を生成する体験学習などを予定している。

  • NTT東日本がドルトン東京学園の中等部の「再生可能エネルギー」の授業に協力 提供:NTT東日本

生徒たちから積極的な反応

本取り組みは、ドルトン東京学園 中等部の1年生約100名に向けて行われるもの。京都大学が学習指導し、NTT東日本グループ企業として脱炭素・資源循環事業を手掛けるビオストックが実験などで協力する。

初回の特別授業は6月5日に実施され、京都大学 助教 大土井克明氏が生徒たちに分かりやすくメタン発酵技術を解説した。

  • 京都大学 農学研究科 地域環境科学分野 農業システム工学分野 助教 博士(農学)の大土井克明氏による特別授業

授業は生徒たちに身近な話題を織り交ぜながらスタート。

  • 生徒たちからも、積極的な反応があった

「再生可能エネルギーには、どんなものがありますか」という生徒たちへの問いかけには、教室のあちらこちらで手があがり、テンポよく「風力」「太陽光」「地熱」「水力」「バイオマス」といったキーワードが飛び出した。かねてより環境問題について学び、必要な知識を身に付けていることがうかがえる。

授業は地球本来の機能である(食物連鎖を含む)物質循環の話に始まり、有機廃棄物の効果的な処理方法の話へと発展。

そして、京都府南丹市にある八木バイオエコロジーセンターをはじめとする全国のメタン発酵プラントでは、メタン発酵により有機廃棄物を処理してバイオガスを生産できる、エネルギーを生み出せるとともに有機物由来の液体肥料を生産できる、と締めくくられた。

このあと生徒たちは6月中旬に、NTTe-CityLabo内の「超小型バイオガスプラント」を実際に見学し、メタン発酵に関する理解をさらに深める予定だ。

そして授業の集大成として、各家庭から持ち寄った一般ごみを1ケ月かけてメタン発酵させ、燃焼実験をして有機由来の液体肥料(メタン発酵消化液)と再生可能エネルギーであるメタンガスを創出する体験学習が行われる。

  • NTTe-CityLabo内の「超小型バイオガスプラント」のイメージ 提供:NTT東日本

授業の手応えは?

授業に参加した1年生の女子生徒5名に話を聞いた。

どの生徒も明るい表情で「難しかったけれど面白かったです」「メタン発酵について自分で調べたとき、よく分からなかったけれど、授業に出たら理解できました」「地球温暖化、温室効果ガスなど、言葉は知っていても具体的なことを知りませんでした。今日の授業で詳しく知れたので納得できました」などと話す。

  • 休み時間にも積極的に質問する生徒たちの姿があった

休み時間に大土井氏へ個別に話を聞きに行った子も多く、「微生物がいないと世界が回らない、そんな話をしてくれました」「現在、世界では化石燃料を使って無理やり循環型社会を推し進めているような感じだけれど、メタン発酵を利用すれば資源も枯渇しないし、地球本来の物質循環に近づけるのではないかと思いました」と充実感をにじませる。

「地球環境」について、普段から気をつけていることを聞くと「シャワーを出しっぱなしにしないでお湯を大事に使う」「脂分の多い料理を食べたあとは、お皿の油を拭き取ってから洗う」「生ごみを減らすため、食べ残しをしないように心がけています」「料理をするときも、食材に無駄がでないように気をつけています」など日々の取り組みを明かす。

地球環境を良くするため、家庭でもできる取り組みを見つけていきたい、そんな感想も聞けたり、なかには中学校3年生になったときに、修了研究で環境について学んでみたい、そんな意欲を見せたりする生徒も。

講義を終えて大土井氏は「資源循環の仕組みについては小学校でも学習事例が増えていますが、今日の授業はそれより少し踏み込んだ内容です。でも今回は、高校で習うレベルのことも知っている生徒もいて、個人的にも驚きました」とホッとした表情。

  • 普段と勝手が違い、最初は不安だったと言う大土井氏

普段は大学生に向けて講義をしており、中学生に授業を行うのは初めてだったと明かしたうえで「研究者としては、生徒に反応がないと『ちゃんと伝わっているのかな』と不安になりますが、今日の授業では生徒たちの反応が良かったのが嬉しかった。たくさん質問ももらいました」と口元をほころばせた。

ドルトン東京学園とNTT東日本の連携

ドルトン東京学園で総務部長 家庭科主任・情報科の酒井春名氏、理科主任 和田達典氏にも話を聞いた。

ドルトン東京学園とNTT東日本は2022年10月に連携協定を締結している。両者を引き合わせたきっかけは、NTT東日本が運営するNTTe-CityLaboをドルトン東京学園の教職員が見学したことだった。

  • ドルトン東京学園 総務部長 家庭科主任・情報科 酒井春名氏

酒井氏は「そのとき、こんな素晴らしい施設が近隣にあるんだ、ということを知ったんです。その後、無人運営店舗の『スマートストア』も学内に導入できる運びになりました。NTTe-CityLaboには、まだまだ連携できそうなソリューションがそろっており、一方でNTT東日本さんでも地域の課題解決に取り組んでいた。そこで連携協定を締結し、さまざまな分野でコラボレーションを加速させるに至りました。現在もNTT東さんとは月1回の定例会を開いています」。

  • 学内に導入されたスマートストアの運営も生徒が行っている

授業を見守った和田氏は「生徒たちの反応は期待以上でした」と振り返る。

「アカデミックな内容でしたが、どんどん生徒から質問も出ていたので良かったと思います。今後もNTTe-CityLaboを通じて、社会で使われている最先端技術などを授業に取り込んでいけたら」。

  • ドルトン東京学園 理科主任 和田達典氏

これに酒井氏も「学校が持っているリソースは限られたものです。私たちが持っていないリソースを持つ外部の企業さんとコラボレーションすることは、本当に価値のあることだと実感しています」と応じた。

「メタン発酵技術」の特別授業について、和田氏は「今後ペットボトルを活用し、家庭から持ち寄った生ごみをメタン発酵させるわけですが、燃やすモノによって発生するメタンの量が違うだとか、液体肥料の成分が変わったとか、そのあたりまで比較してしっかりサイエンスとして学んでほしい。そこを当面の目標にしています。

これからの地球環境は、個人のちょっとした意識改善や我慢も大切ですが,それだけでは大きな改善が望めないようです。もっと大胆で常識を覆すような、社会のルールが大きく変わるようなブレイクスルーが必要になってくる。そこで、頑張って勉強して将来の地球環境を大きく変えていくんだ、という生徒が1人でも生まれてくれたら嬉しいな、という思いです」と期待をこめる。

  • 放課後に自主的に集まり、和田氏の指導を受けて科学実験に取り組む生徒を見かけた

今後の展望は?

このあとNTT東日本、およびビオストックの担当者にも話を聞いた。

NTT東日本 東京武蔵野支店 副支店長の百瀬久清氏は、今回の取り組みに関して「エネルギー生産型資源循環学習を目的として『生徒自らが再生可能エネルギーの創出・活用を体験しよう』という新たな試みです。京都大学大土井助教の座学、NTTe-CityLaboに設置されている『超小型バイオガスプラント』の見学、その仕組みを用いたメタンガスの生成~燃焼実験もプログラムに含まれており、この一連の学びを通じて生徒たちが資源循環を実体験し、自然環境保護への一層の理解醸成を図っていくことを狙います」とあらためて説明する。

  • 学びをさらに深めてほしいと百瀬氏は期待する

そして、ドルトン東京学園との連携協定について「近年の教育現場においては、生徒1人ひとりの関心に沿って課題の発見と解決に取り組む探究学習が重要視されておりますが、取り扱うテーマが多岐にわたることから、学校単独で十分な教育機会を提供することが難しくなっていると認識しています。こうした課題に対して、ICTに関するノウハウや幅広い分野におけるアセットを持つNTT東日本グループと、先進的な探究学習に取り組むドルトン東京学園が双方の知見を結集し、産学連携による新たな探究学習モデルを創出・実践するため、協定の締結により連携を強化していくことで一致いたしました」と連携の経緯を説明する。

「また、NTT東日本が運営する『NTTe-CityLabo』とドルトン東京学園とが隣接していることから、密な関係性で実験的な取り組みにチャレンジしやすく、新たな教育モデルの創出における理想的なパートナーであると捉えております」とさらなる期待を寄せていた。

続いて、ビオストックの米木津孝輝氏に話を聞いた。今回は「再生可能エネルギー」をテーマに授業が行われたが、検討の段階でほかの取り組み、テーマなども選択肢にあったのだろうか。

そんな問いかけに米木津氏は「NTT東日本グループの『学校給食調理残菜再資源化と環境学習の取り組み(都市型循環モデル)』に関心を示した大土井先生より『環境学習での連携』についてご提案をいただき、生徒自ら再生可能エネルギーを創出・利用し、資源循環を体験する特別授業をドルトン東京学園さんで実施することとなりました。ですから、検討段階の当初から、再生可能エネルギーに焦点をあてた環境学習をプランに企画は進みましたね」と回答する。

  • 特別授業の内容調整に苦慮したと米木津氏は話す

その上で、「環境・資源循環について高い関心を持つ学生が増えてきているなか、どのような学習内容にすれば、より生徒が自ら考え理解し、探究的に学習できるのかという点について腐心しました。普段、大土井先生が授業する大学生向けの内容を単に簡素化するのではなく、バイオガスプラントという設備を中心として、どのようにエネルギーが循環していくのか? この設備が抱えている課題は何か? "身近にある循環可能な資源とはどんなものがあるのか?"など、受講した生徒それぞれが、今回のテーマに関する深い理解・気付きを得られるようにしたのが、一番心を砕いたところです」と特別授業の実施までの舞台裏を明かしてくれた。

NTT東日本による地域社会との関わり

最後に、NTT東日本の百瀬氏に今後の展望を改めて聞いた。ICTを活用した特別授業は第2回目の実施、そして他校での実施なども検討しているのだろうか。

「我々NTT東日本は持続可能な循環型の地域社会を実現してきたいという思いを持っており、今回のような取り組みの継続・展開については、地域の皆さまとともに検討していきたいです。

授業を聴講しましたが、生徒の皆さんの授業に対する積極的な姿勢や、環境や農業、資源循環等への興味関心の高さに驚きました。今後、NTTe-City Laboに設置されている『超小型バイオガスプラント』の見学や、メタンガスの生成~燃焼実験とプログラムが続きますので、資源循環・環境問題について理解をさらに深めていただきたいです。そして、本取り組みをきっかけにして、さまざまな社会問題に今まで以上に目を向けてもらえればと期待しています」。