デノンは、フルサイズのネットワークプレーヤー「DNP-2000NE」を6月中旬に発売する。価格は27万5,000円。カラーは、同社の高級オーディオ“1700シリーズ”にマッチするプレミアムシルバーと、創立110周年記念モデル「A110シリーズ」に合わせたグラファイトシルバーの2色展開。

  • DNP-2000NE

    DNP-2000NE(プレミアムシルバー)

  • グラファイトシルバー(上)とプレミアムシルバー(下)を重ねたところ。本体カラーだけでなく、LEDの発光色も通常カラーのシルバー系とは異なることが分かる

蓄音機に始まり、レコードプレーヤーやカートリッジの名機「DL-103」、黎明期のCDプレーヤーに至るまで、オーディオ史に名を残すプレーヤーを送り出してきたプレーヤーメーカーが手がける、本格的な“ネットワークオーディオプレーヤー専用機”。

2016年発売の「DNP-2500NE」(生産終了)以来、久々となるフルサイズのネットワークプレーヤーで、「新時代の音楽体験を創造するHi-Fiデジタルミュージック・ハブ」と位置づけ、「専用機だからこそ実現できる高音質と信頼性を、オーディオ愛好家に提供したい」との想いを込めたのがDNP-2000NEだ。音作りについては、デノン製品の音質チューニングを手がけるサウンドマスター山内慎一氏が担当。単品オーディオ製品のため、別途プリアンプやスピーカーなどと組み合わせて再生環境を構築する必要がある。

  • 前機種のDNP-2500NE(2016年発売)

  • デノンのサウンドマスター山内慎一氏

独自のネットワークオーディオ「HEOS」に対応し、Amazon Music HDやSpotifyなどの音楽ストリーミングサービスや、インターネットラジオを再生可能。USBメモリーやNASなどに保存したハイレゾ音源(DSD 5.6MHz、PCM 192kHz/24bitなど)も聞ける。CDプレーヤーなどをつなぐ外部音声入力や、AirPlay 2、Bluetooth受信機能(SBCコーデック対応)も装備する。

  • 音楽ストリーミングサービスや、インターネットラジオ、ハイレゾ音源を再生可能。AirPlay 2やBluetoothにも対応する

DNP-2000NEは、ネットワークプレーヤーながらHDMI端子を備え、HDMI ARC経由で対応テレビの音声を入力して再生できるのも大きな特徴だ。「お父さんが持っている(リビングの)オーディオシステムを、家族がテレビやネット動画を見るときにも高音質で楽しめる“家族のオーディオ”に変える」ことをねらいとしている。なお、デノンのHi-Fiオーディオ製品でHDMI端子を装備するのは2000NEが初めて。

  • テレビと2000NEをHDMI接続して、テレビのリモコンで2000NEを操作。オーディオシステムでひとりで音楽を聴くだけでなく、家族がテレビ音声を高音質で楽しむことができる製品としても訴求する

  • テレビとの組み合わせイメージ

デノンは2020年、創立110周年記念モデルとして同社が持つ技術とノウハウのすべてを投入した高級オーディオ製品群「A110シリーズ」(AVアンプ、プリメインアンプ、SACDプレーヤー)を発売しており、今回の2000NEには同シリーズで培った技術を多数投入している。

2000NEはA110シリーズに連なる製品ではないが、下位クラスから上位クラスへの橋渡し的な存在と位置づけていることから、A110と同じグラファイトシルバーのカラーバリエーションを用意。同シリーズの製品を並べて置いても違和感がなく、組み合わせやすくなっている。こういった扱いは「通常のレギュラーモデルでは許されない」そうで、単純なカラバリではなく、デノンの思い入れがこもった仕上げとなっている。

  • A110と同じグラファイトシルバーのカラバリを用意。左奥がA110シリーズのプリメインアンプ「PMA-A110」

  • 2000NEの製造は、同社プレミアムモデルの生産を手がける福島・白河オーディオワークスで行われる

  • デノンの試聴室で、2000NEのサウンドをハイエンドスピーカーと組み合わせて聴いた。ボーカルや楽器ひとつひとつの音が、何もない無音の空間からスッと立ち現れては立体的な音像を描いてフッと消え、情報量の多い楽曲も生々しく鮮やかに描き出す。もっと時間をかけて、じっくり耳を傾けて聴きたくなる。聴く者の心をグッとつかんで離さない、上質なサウンドが印象的だった

DNP-2000NEの詳細

  • DNP-2000NEの分解展示

「デノンのデジタルHi-Fi技術の集大成」として、同社が持つさまざまなデジタルオーディオ技術を投入。110周年記念モデルA110シリーズにあわせて開発した、アナログ波形再現技術の最新かつ最上位バージョンである「Ultra AL32 Processing」を搭載し、デジタル録音時に失われたデータを高い精度で復元することで、歪みのない繊細な描写や、正確な音の定位、豊かな低域など原音に忠実な再生を実現するという。

Ultra AL32 ProcessingではFPGAを使い、デジタル入力されたPCM信号を、前世代の2倍となる最大1.536MHzへのアップサンプリングと32bitへのビット拡張処理を実施。独自のビット拡張とデータ補間アルゴリズムによって、前後のデータの離散値からあるべき点を導き出し、本来のアナログ波形を再現する理想的な補間処理を実施。デジタル化される前の本来のアナログ波形に復元して、後段のアンプ回路へと送り出す。

  • Ultra AL32 Processingの概要

DAC部分には、110周年記念モデルのSACDプレーヤー「DCD-A110」と同様に、クアッドDAC構成を採用。ただし、DCD-A110で使っていたTI製DACチップ「PCM1795」ではなく、ESSの32bit対応DAC「ES9018K2M」に置き換わっており、これを左右チャンネルに各2基(4ch)ずつ、合計4基(8ch)使用。Ultra AL32 Processingでアップサンプリングされた1.536MHzの信号を半分の768kHzに分割して、2基(4ch)の差動電流出力型DACに入力する。片チャンネルあたり4chのDACを用いる並列構成で、4倍の電流出力を得られるようになっており、6dBのSN比向上とさらにエネルギッシュなサウンドを追求したという。

ちなみに、前機種のDNP-2500NEはUltra AL32 Processingではなく、前世代の「Advanced AL32 Processing Plus」を採用しており、最大768kHzまでのオーバーサンプリングとなっていた。Ultra AL32ではオーバーサンプリング比を2倍に引き上げたことで、理論上は-3dBのSN改善が見込めるとのこと。

また、DACチップについては、デノンはPCM1795を使い慣れているということもあって現行製品で長らく採用してきたが、昨今の半導体の入手状況もふまえて、2500NEからは「同等以上の性能を持ち合わせている」というES9018K2Mに変更。現在確保できるPCM1795は既存製品のために使うという。

サウンドマスターの山内慎一氏はこのDACチップ変更に関して、「個人的な見方だがファミリーとしてわりと近く、どちらを使っても(音質的に)あまり違和感はない。ESSもTIも中庸どころを抑えていてキャラクターも強めに出ることはない。性能面では若干、新しいデバイスであるESS(のES9018K2M)のほうが上だが、音の印象としてはそんなに大きくは変わらず、使いやすい」と話している。

  • Ultra AL32 ProcessingからDACチップへのデータの流れ

デジタルオーディオ再生においては、回路の動作の基準となるクロック信号の精度と低ジッターがパフォーマンスの鍵を握る。2000NEでは、DACに供給するクロックの精度を最優先するため、DACの近くにクロック発振器を配置してDA変換の精度を高める「DACマスタークロックデザイン」を採用。DACをマスター、周辺回路をスレーブとしてクロック供給を行い、さらに44.1kHz系と48kHz系の2つの超低位相雑音クロック発振器をソースのサンプリング周波数に応じて切り替え、ジッターリデューサーも用いてジッターを抑え込んでいる。

  • DACマスタークロックデザインの役割

DACの出力を受けるI/V変換アンプ回路には、OPアンプを使わず、サウンドマスターが厳選した高音質パーツや、過去機種のSX1 LIMITED EDITIONゆずりのカスタムパーツを搭載したフルディスクリート回路を採用。ディスクリート構成としたことで、回路構成の自由度が高まり、個々のパーツに至るまで徹底したサウンドチューニングを可能にした。その結果、サウンドマスター山内氏の理想とする「Vivid&Spaciousなサウンド」を実現できたとしている。

  • 内部基板

DNP-2000NEをデノンの理想的なサウンドに仕上げるために、ハイエンドモデルゆずりの高音質パーツを盛り込んでいるのも特徴で、音質担当エンジニアとサウンドマスターが部品メーカーの協力の下、長い期間をかけて作り上げてきたデノン独自のカスタムパーツも多数採用。カーボン被膜抵抗やMELF(メルフ)抵抗、導電性高分子コンデンサーといった高品位なパーツを随所に用いることで、「圧倒的な高解像度とどこまでも広がるサウンドステージの両立」を実現している。

  • ハイエンドモデルゆずりの高音質パーツを盛り込んだ

  • 端子やケーブルにもこだわる

  • 製品版になるまえの、開発段階の各種基板

  • 左が開発段階の基板で、右が製品版。FPGAや音質を左右する各種パーツに違いがあり、最終製品版になるまで試行錯誤があったことがうかがえる

PCやテレビなどのソース機器から音声信号と共に流入するノイズ成分や、2000NE自身のデジタルオーディオ回路から発生する高周波ノイズを、アナログオーディオ回路へと流入するのを排除するアイソレーション回路も搭載。デジタル回路とアナログ回路の電気的な結合をデジタル・アイソレーターによって遮断し、ノイズを含まないクリーンな音声信号のみが伝送される回路構成とした。

電源トランスには、前機種の2500NEで実績のある高出力EIコアトランスをベースに、新型の2000NEにあわせてカスタマイズした専用品を搭載。デジタル回路とアナログ回路で1つずつ、電源を独立させた2トランス構成とすることで、相互干渉とノイズの回り込みを防ぐ。さらに強固なスチール製トランスベースを介してシャーシに取り付けることで、周辺回路に不要な振動が伝わらないようにした。

本体には、音質に悪影響を及ぼす内外の不要振動を排除し、音質を向上させるダイレクト・メカニカル・グラウンド・コンストラクションを採用。スチール製のメインシャーシの下にボトムプレートを加えることで低重心化と高剛性化を図っており、トップカバーも2500NEより天面のネジを減らし、4本のエンボス加工で剛性を確保する設計とした。

  • トップカバー。天面のネジを減らし、4本のエンボス加工で剛性を確保した

2000NEは前述の通りHDMI端子を備えており、最大192kHz/24bitまでのリニアPCM信号(2ch)を再生できる。HDMI CECにも対応しており、テレビとの電源連動や入力ソースの自動切り替え、テレビのリモコンでの可変出力の音量操作などが行える。また、IRコントロール端子を備えるデノンのプリメインアンプと2000NEを組み合わせると、アンプの電源や入力ソース、音量も同様に連携できる(組み合わせによっては音量調整できない場合もある)。

アナログ音声出力は、通常のボリューム固定出力に加えて、HEOSアプリや2000NEに付属するリモコン、テレビのリモコンでボリュームを調節できる可変出力を装備。プリアンプを使わず、可変出力にパワーアンプを直接接続することもできるという。固定出力には真鍮削り出しのハイグレードな出力端子を装備。また、固定出力、可変出力共に高級ケーブルの大型プラグの接続が容易に行えるよう、十分な間隔を空けて配置しており、経年劣化を防止する金メッキ処理も施した。

  • 通常のボリューム固定出力と、ボリューム調節可能な可変出力の2系統を用意し、環境に合わせた使い方ができるようにした

  • 付属のリモコン

HDMIとアナログ音声出力以外のインタフェースは、USB-B×1、光デジタル×2、同軸デジタル×1、フロントUSB-A×1。ヘッドホン出力も備えており、高品位なパーツを使ったヘッドホンアンプ内蔵で、高インピーダンスなヘッドホンでも最適な音量が得られるように3段階のゲイン切り替え機能を備える。

消費電力は38W(待機時最小0.2W)。本体サイズは、アンテナを寝かせた状態で434×421×107mm(幅×奥行き×高さ)、重さは9.7kg。リモコン用単4形電池×2、オーディオケーブル、Wi-Fi/Bluetoothアンテナ×2などを同梱する。

  • DNP-2000NE(プレミアムシルバー)

  • DNP-2000NE(グラファイトシルバー)

  • 背面

  • DNP-2000NE

    DNP-2000NEやヘッドホンなどを組み合わせたイメージ