永瀬拓矢王座への挑戦権を争う第71期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は、挑戦者決定トーナメント準決勝の藤井聡太竜王・名人―羽生善治九段戦が6月28日(水)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、123手で勝利した藤井竜王・名人が挑戦者決定戦にコマを進めました。

羽生九段の早繰り銀

振り駒が行われた本局、先手となった藤井竜王・名人が角換わりの戦型を注文したのに対して後手の羽生九段は早繰り銀の積極策で応えます。両者の間で今年3月に戦われたタイトル戦では相早繰り銀を用いていた藤井竜王・名人ですが、本局では腰掛け銀を採用。7筋で歩をぶつける常用の仕掛けには柔らかい銀引きで丁寧に受けに回ります。

羽生九段は繰り出した右銀を細かく動かして歩得の戦果を挙げますが、藤井竜王・名人もこの間に自陣を銀立ち矢倉の好形に組み替えて戦いの時を待ちます。対局が午後に入ったころ、藤井竜王・名人は飛車先の歩を突き捨てて本格的な戦いを開始。後手の銀をおびき寄せたのを見て勢いよく右桂を跳ね出し、薄くなった後手陣中央を狙います。

藤井流の大局観が光る

盤面全体を使ったジリジリとした押し引きが続きます。藤井竜王・名人が後手陣に角を打ち込んだのは自陣に馬を引き付けて態勢勝ちを目指す狙いですが、黙っていては作戦負けと見た後手の羽生九段も角切りの猛攻を決断。直後の飛車金両取りの銀打ちは部分的には痛打ですが藤井竜王・名人もここは読み筋。手厚い銀打ちの守りで簡単に土俵を割りません。

手番を握った藤井竜王・名人はここから手厚い受けを基調にペースをつかみます。働きの弱かった馬をサッと4筋に転換したのが大局観に基づく一手で、後手の飛車を押さえ込めば自玉が安全なのを見越しています。角を切ってから駒損の時間が続く羽生九段は小駒を駆使して最後の猛攻に出ますが、藤井竜王・名人の受けに抜かりはありませんでした。

終局時刻は21時21分、自玉を安全な右辺に逃げ出して攻めをかわし切った藤井竜王・名人が勝勢を築いて盤石の白星を飾りました。これで勝った藤井竜王・名人は挑戦者決定戦に進出。前人未到の八冠同時制覇を目指して渡辺明九段―豊島将之九段戦の勝者と対戦します。

  • 藤井竜王・名人は局後、八冠制覇について「(他タイトルの)防衛戦もあるのでまったく意識はしていない」と語った(写真は第48期棋王戦コナミグループ杯五番勝負第2局のもの 提供:日本将棋連盟)

    藤井竜王・名人は局後、八冠制覇について「(他タイトルの)防衛戦もあるのでまったく意識はしていない」と語った(写真は第48期棋王戦コナミグループ杯五番勝負第2局のもの 提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)

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