日本テレビは6月1日、社長室に「宇宙ビジネス事務局」を新設し、宇宙事業へ本格的に乗り出した。テレビ局と宇宙との関わりと言えば、1990年にTBS社員(当時)の秋山豊寛氏が日本人初の宇宙飛行士となり、98年にフジテレビのキャラクター・ガチャピンも宇宙へ行ったこともかつて話題になったが、こちらは長期的な視点で日本の宇宙産業に貢献することを目指しているという。

なぜ今、日テレはこの宇宙事業に本腰を入れるのか。宇宙ビジネス事務局の加藤友規氏に話を聞いた――。

  • 日本橋で開催された宇宙イベント「宙フェス」に参加した日本テレビのキャラクター・そらジローの宇宙服ver.「宙(そら)ジロー」 (C)NTV

    日本橋で開催された宇宙イベント「宙フェス」に参加した日本テレビのキャラクター・そらジローの宇宙服ver.「宙(そら)ジロー」 (C)日テレ

■テレビ局が入ることによって活性化を

この源流は、2020年にさかのぼる。社内で宇宙ビジネスに関する勉強会を開催したところ、たくさんの参加者が集まり、宇宙に関心のある人が多くいることが判明。社内のコミュニケーションツールで「宇宙ビジネスチーム」のグループを作って呼びかけたところ、グループ会社の社員も含めて次々に参加した。

現在、グループの登録者数は約180人にまで拡大しているといい、加藤氏は「日本テレビには『見たいが、世界を変えていく。』というコーポレートメッセージがありますが、みんながそのDNAを持って、“見たことのないものをお伝えしたい”という思いが強いなと感じました」と、好奇心旺盛な社員が多くいることに、改めて気づかされたという。

並行して、宇宙関連の団体に加盟するなどしてリサーチを進めると、宇宙ビジネスのポテンシャルの高さを実感。「いろいろな方とお話をする中で、テレビ局が入っていくことによって宇宙ビジネスが活性化するのではないか、と肌で感じ取りました」といい、成長分野である外部環境と、“宇宙好き”を多く抱える内部環境が見えてきたことで、宇宙ビジネスの検討を推進していくことになった。

21年には、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙飛行士候補者に、「宇宙ビジネスチーム」メンバーの辻岡義堂アナと弘竜太郎アナが応募。残念ながら2人は不合格で、念願の宇宙飛行士になることはかなわなかったが、13年ぶりに行われたこの募集は、従来の応募条件が大幅に緩和して門戸が開かれる形で実施されたもので、2人が試験に挑む模様などをYouTubeチャンネル『ソラテレ』で発信することで、その周知広報に協力するという側面もあった。

辻岡アナの挑戦は、当時出演していた情報番組『スッキリ』でも追っており、番組内で合否結果を発表。サプライズで妻からの手紙が読み上げられると、生放送で思わず涙する姿に反響が集まったのも記憶に新しい。

そのほか、情報番組『ZIP!』で水卜麻美アナが、当時国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中の野口聡一氏と中継をつないで“ランチ会”をする企画なども実施してきた。

  • 辻岡義堂アナ(左)と弘竜太郎アナ (C)日テレ

■チョモランマ頂上の世界初衛星生中継から35年での挑戦

こうして有志で活動していく中で、日テレが募集した開局70年企画に、加藤氏が代表者となって「日テレ★宇宙ビジネス準備室を作ろう!」を提案。こうした動きもきっかけとなり、6月1日付の組織改編で「宇宙ビジネス事務局」が正式に部署として新設されることになった。加藤氏を含め全員が他部署と兼務する形だが、4人体制でスタートしている。

70年企画の提案メンバーは22人で、「役員やグループ会社の社長から、新入社員まで幅広い面々が集まりました。なかでも入社5年目以内の社員が7人も参加してくれたんです。10年、20年先に紡いでいくようなビジネスの種を作るにあたって、若い世代が考えていくことの期待値をアピールしました」とのこと。また、“70年”という数字も、提案にあたって意味のあるタイミングだったという。

「日本テレビは開局35年特番で、チョモランマ(エベレスト)頂上からの世界初の衛星生中継を実現していて、これはテレビ中継のイノベーションだったんです。それからまた35年が経って開局70年になったときに何ができるのかと考えたときに、やっぱり“宇宙”というのをテーマに映像の届け方を含めて感動体験のイノベーションが起こせるんじゃないかという話をして、提案しました」