北海道新聞電子版は6月17日、「JR北海道、42無人駅の廃止検討 道内全駅の1割強、4駅は来春にも」と報じた。まずは来年春までに4駅を廃止する意向だという。この件についてJR北海道からの公式発表はなく、北海道新聞のスクープ報道といえる。
廃止の理由は経営効率化。JR北海道はこれまでも「地域交通を持続的に維持するため」として、利用客数の少ない路線の廃止・バス転換を進めてきた。当面は廃止対象としない路線についても、列車の運行本数の削減、駅の廃止、駅の管理を自治体に移すなどの施策を続けている。駅の廃止は2016年の8駅から始まり、2023年3月までに合計101駅が廃止された。
駅は利用者の数にかかわらず維持管理費コストがかかり、とくに除雪の費用と人材確保が問題になるという。乗客がいなくても、駅の機能を維持するためにホームや待合室の除雪が必要になる。線路は除雪列車を運行すれば除雪できるが、駅の設備は重機や手作業となる。
JR北海道は駅周辺の人々を冬季に臨時雇用してきたが、高齢化で確保が難しくなっている。昨年12月、80代男性が運転する除雪作業車が駅構内に入ってしまい、特急列車と衝突した事故もあった。
北海道新聞によると、廃止を検討する駅は過去5年間の利用実態調査で1日平均の乗車数が3人以下だったという。ただし、報道されたリストと、北海道が公開している「2017(平成29)年から2021(令和3年)の駅別乗車人員」を比較すると、いくつか差異がある。
例を挙げると、「鹿討(富良野線)」「昆布盛(根室本線)」はJR北海道の公開資料で「3人以上10人以下」となっているが、報道された廃止対象リストに入っている。北海道新聞が最新の資料を入手していると思われる。一方、「安足間(石北本線)」「塩狩(宗谷線)」「野花南(根室線)」などの駅は3人以下でも廃止対象リストに入っていない。これらの駅は運行上の理由等で、乗車人数とは関係なく維持する必要があるかもしれない。
ここからは、廃止対象駅を路線ごとに挙げていこう。
■宗谷本線
廃止対象駅は「瑞穂」「日進」「智北」「初野」「恩根内」「天塩川温泉」「咲来」「筬島」「佐久」「問寒別」「糠南」「雄信内」「南幌延」「下沼」「兜沼」「抜海」の16駅。瑞穂駅以外は名寄駅以北の駅だった。このうち初野駅が2024年春に廃止となりそうだ。北海道新聞6月15日朝刊「宗谷線の初野駅 来年廃止を検討」によると、JR北海道は美深町へ廃止の意向を示し、7月末までの回答を求めているという。
抜海駅は「日本最北の木造駅舎」として愛好家に親しまれている。2019年にJR北海道が廃止の意向を稚内市に伝えたところ、地元住民らから反対の声が上がり、稚内市が維持管理することで決着した。2021年には、有志による利用促進事業として、開業100周年記念事業の資金をクラウドファンディングで調達した。
しかし利用者は増えず、2022年に稚内市が維持費負担を終了する方針となった。そこで住民有志のサポーターズクラブは、年間100万円の維持費を調達するため、再びクラウドファンディングを実施した。JR北海道の廃止意向は変わらず、稚内市の負担は見込めない。サポータークラブの継続的な活動が存続に結びつくだろう。
対象駅がすべて廃止されてしまうと、名寄~稚内間で残る駅は「名寄」「智恵文」「美深」「音威子府」「天塩中川」「幌延」「豊富」「勇知」「南稚内」「稚内」の10駅になる。このうち「智恵文」「勇知」以外は特急停車駅である。特急列車と普通列車の差は車両の居住性と特急料金の有無だけになる。JR北海道としては、全列車を特急列車とすることで、少しでも増収したいと思っているかもしれない。
■石北本線
廃止対象駅は「愛山」「瀬戸瀬」「緋牛内」の3駅で、いずれも1日平均の乗車人員が3人以下。このうち愛山駅は2024年春に廃止と分類されていたが、JR北海道と愛別町の交渉についてのニュース記事は見当たらなかった。一方、瀬戸瀬駅は2021年に自治体管理駅へ移行している。自治体管理はJR北海道が存廃を打診した結果だろうから、自治体の管理費予算がなくなれば廃止される。存続は自治体の予算次第となる。
緋牛内駅はJR北海道の北見駅が管理している。ここも自治体と交渉したという情報が見当たらない。自治体管理を北見市が受け入れるか、あるいは廃止となる可能性がある。
■釧網本線
廃止対象駅は「緑」「美留和」「茅沼」の3駅。すべてJR北海道が管理している。乗車人員は各駅とも3人以下。このうち美留和駅と茅沼駅は、北海道新聞電子版の6月20日付「JR花咲線3駅、JR釧網線2駅廃止検討 沿線住民『駅残して』 通学や通院、観光打撃」で利用者と自治体のコメントを紹介している。駅がなくなれば困るという意見で共通しており、自治体管理に移行できるか注目したい。なお、駅の維持管理費は1駅につき年間100万円前後とされている。
■根室本線
廃止対象駅は「東滝川」「厚内」「尾幌」「別当賀」「昆布盛」の5駅。すべてJR北海道管理駅で、自治体移管で決着すれば、当面の廃止は免れられる。
北海道新聞6月20日朝刊「滝ノ上駅など廃止検討 列車少なく住民冷静 新たな地元負担も困難 東滝川駅は市に連絡なし」によると、東滝川駅は並行する国道にバス路線があり、運行本数も多いという。滝川市の担当者の「JRから連絡がない」、東滝川連合町内会長の「利用が少ないのに残してほしいとは言えない」との談話を紹介していた。
厚内駅の1日平均乗車人員は1人以下。花咲線(釧路~根室間)の尾幌駅、別当賀駅、昆布盛駅について、釧網本線の項で紹介した記事によると、バス路線が不便で高校生や高齢者が利用しているという。そうは言っても、尾幌駅と昆布盛駅の利用者数は10人以下、別当賀は3人以下である。
■富良野線
廃止対象駅は「鹿討」のみ。存廃に関する報道は見当たらなかった。鹿討駅はJR北海道管理駅で、1日平均乗車人員は10人以下に分類されているものの、実態としては3人を少し上回る程度。富良野線では最も少ない。
■石勝線
廃止対象駅は「滝ノ上」のみ。JR北海道は2024年春の廃止をめざすと報じられている。前出の北海道新聞記事によると、5月にJR北海道から夕張市へ廃止方針が伝えられ、住民説明会も開かれたという。現在の利用者は、週末に近隣の高校生が帰省のために利用する程度。運行本数が少ないため、買い物や通学で気軽に使える路線ではないとのこと。夕張市は高齢者を対象に、タクシーを格安で提供している。駅の廃止が濃厚と言えそうだ。
■室蘭本線
廃止対象駅は「静狩」「礼文」「大岸」の3駅で、すべてJR北海道の管理駅。礼文駅の1日平均乗車人員は3人以下、静狩駅と大岸駅は10人以下となっている。3駅とも長万部~洞爺間にあり、北海道新幹線の札幌延伸時に向けて利活用の取組みも期待できそうだが、逆に長万部に近いからこそマイカーを使う人が多いとも言える。自治体側が管理費を捻出してでも残したいと判断するだろうか。
■函館本線
廃止対象駅は「仁山」「赤井川」「山越」「山崎」「黒岩」「中ノ沢」「二股」「目名」「比羅夫」の9駅。路線別では宗谷本線の16駅に次いで多い。
このうち中ノ沢駅は2024年春に廃止する方針と報じられた。北海道新聞電子版の6月10日付「長万部・中ノ沢駅の廃止検討 JR北海道、24年春ダイヤ改正で」によると、すでにJR北海道が長万部町に意向を伝えたという。6月17日に説明会を開催したようだ。
函館本線の函館~小樽間は北海道新幹線の並行在来線となっており、長万部駅以北の区間は在来線廃止・バス転換が決まっている。そのときが来れば、すべての駅が廃止されるが、JR北海道としては少しでも早く廃止して、コストを削減したいのだろう。とくに反対意見もなく、自治体も廃止を了承すると思われる。
長万部駅以南は、貨物列車を運行するために鉄道を存続する方針とされている。しかし沿線自治体はバス転換を選び、並行在来線の経営には関与しない。函館~新函館北斗間は鉄道で残すものの、新函館北斗~長万部間はバス転換の方針であり、したがって駅も不要となる。
仁山駅は新函館北斗駅の1駅隣で、駅前に温泉施設があり、スキー場も近い。並行在来線分離の前倒し廃止となるにはもったいない。並行在来線はせめて大沼公園駅まで残し、北海道新幹線との連携を考えてほしい。
■冬季閉鎖してでも駅は残したい
いままで、JR北海道の駅廃止方針は1日平均乗車人員1人以下だった。それが今回は3人以下となった。次は5人以下、10人以下となっていくかもしれない。駅を存続するための維持費を100万円とすれば、42駅で4,200万円。JR北海道の赤字全体から見れば、これだけで大きな節約にはならない。なんとか自治体も協力して、存続の方向を探ってほしい。
駅設備の除雪が困難なら冬季通過でもいいし、いっそバスのように車内に降車ボタンを付け、駅に乗車を知らせるしくみを作って、乗降客のいない駅を通過できるようにしてはどうだろうか。鉄道会社にとって、駅は「お客様の出入口」である。それを減らす施策は得策ではないと思う。