俳優の船越英一郎が主演を務める東海テレビ・フジテレビ系ドラマ『テイオーの長い休日』(毎週土曜23:40~ 全8話)。同作で芸能事務所・オリプロ所属の俳優・萩原匠役を演じる今井悠貴と、オリプロのデスク・藤本千春役を演じる久保田磨希が、7月1日放送の第5話の見どころ、同話のテーマである“事務所移籍”について語った。

  • 今井悠貴、久保田磨希

――芸能事務所「オリプロ」に居る “同僚”同士ということでお二人にお集まりいただきました。

久保田:私はオリプロにデスクとして勤務する千春を演じています。デスクというのはお仕事の電話を受けたり、経理みたいなこともするんですが、中でも、千春は基本的に「いつも必ず事務所に居て、俳優さんの世話を焼いてくれたり、おしゃべりの相手になってくれる」というオバチャンです。私の今の事務所のデスクさんがまさにそういう人なので、その“居心地のよさ”みたいな感じを目指して演じています。今井くんとこも、そういう感じじゃない?

今井:僕の今の事務所も、そうですね。居心地がいい感じで、ありがたく思っています。

久保田:第4話は、ゆかりさんちの家族みんなが最終的にほっこりする、すごくいいホームドラマな回だったけど、次の5話は、オリプロに激震が走る回なんですよね。

今井:そう、すでに4話の最後で匂わせていましたけど、ライバル事務所・トレランスの寿彰(前川泰之)さんが、うちのオリプロにいろいろと“仕掛けて”きて、僕が演じる匠が、巻き込まれていくんです。芸能事務所というところの裏側がずいぶん見えちゃう回になります。

――「事務所移籍」というキーワードが、物語の核心になってくるんですよね。

久保田:そうですね、「移籍」される方もいらっしゃいますよね。

――久保田さんの事務所移籍のお話、聞かせてください。

久保田:私、29歳まで大阪のローカルな事務所にいたんです。あるとき、東京のドラマが決まりかけていたのに、スケジュール 調整がうまくできず事務所が断ってしまったんです。その一件で、私はつくづく、「……これは東京の事務所に行かなくちゃ だめだな」と思いまして……。他にもいろんな理由はあったんですけど、「東京の事務所に行きたい」と心を決めたんです。で、そのことを、大阪の事務所に……

私、もう、ほんとに礼儀を尽くして、尽くして、尽くしぬいて、29歳の自分としてできる限りの丁寧さで伝えたんです。ところが、結局、そこの社長に嫌味を言われたり、担当マ ネージャーさんに突然キレられたり、ひどい言われようをして……それはもう、ドラマなんかには描けないような修羅場でしたね。

今井:それ、今、この対談で出しちゃっていいんですか。

久保田:あ、それは大丈夫です。その大阪の事務所の方は、のちのち、あのときは悪かった、って連絡くださって……その後、年賀状もやりとりしたりして(笑)。

今井:あっけらかんと、笑って話してるし……(笑)。

久保田:今井くんも、事務所移籍は経験あるよね。

今井:僕はもともと子役の事務所でしたからね。年齢が上がって、子役としての契約が一旦終了するタイミングで、更新するか、しないか、と考える時があったわけです。僕が中学に入ったくらいの時でした。結局、僕は子役の事務所を継続するんじゃなく、大人の俳優さんがいる“普通の”事務所に行こうかな、という気持ちになって、今の事務所に移籍したんです。久保田さんのように苦労したことは何もありませんでしたね。

久保田:その、今の事務所はどうやって選んだの?」

今井:それがね、僕自身の意思じゃなかったんです。お世話になっていた、ある人が「ここの事務所に行きなさい」とピンポイントにアドバイスをくれて……。でも、僕、ぶっちゃけ、その事務所を全然知らなくて(笑)。僕も自分なりにいろいろ事務所を調べて、選択リストを作っていたんですけど、そのリストに全然入っていない事務所だったんです。でも「行け」って言われるものですから、とりあえず行ってみて……。ところが、事務所の側としても、「この子は、なんでウチに来たんだろう」って思っていたんです。お互いに困り顔を見合わせながら面談したんですね、「どうしましょか」って(笑)。

――間に立ってくれた人が、そこまでは説明してくれてなかったんですね。

今井:結果として、そういうことでした。まあ、事務所の社長さん、いまのウチの社長ですけど……と話をして「何カ月か、“預かり”みたいな形でお仕事して、その期間のなかで決めてもらうことでいいですよ」と言ってもらえたんです。それで数カ月の間、お仕事させてもらううちに、「あ、マネージャーさんたち、いい人かも」とだんだん分かってきて(笑)。預かり期間終了後、そのまま、正式にお願いしますということになったんです。

久保田:社長さんといえば、このドラマでの私たちの会社、オリプロの城戸太一社長(木場勝己)が、セリフ でまた深いことを言うんですよね。第5話で城戸社長が匠くんに言う言葉とか、熱護さんと交わすセリフ が、自分が俳優として歩いてきた今までのいろいろなことを思い出してしまいました。さすが、『テイオーの長い休日』、“業界アルアルさらけだしドラマ”です。リアル!

今井:それ、僕もわかります! ちなみに、久保田さんはどのへんが刺さりました?

久保田:「事務所を辞めた俳優に、仕事が来ないように圧力をかけるとか、私がそういうことが嫌で大手事務所から独立したのは分かっているだろう」というセリフですね。

今井:あ! あれね!

久保田:それを見て、私は過去に、自分や自分の周りに起きたことをすごく思い出しちゃいました! そこだけ見ても、城戸さんの心意気ってすごいなぁ、などとも思いつつ、それを堂々と言わせちゃう、このドラマの脚本に驚きました。

――ドラマ業界とか、芸能界の実像って、どんなものですか?

久保田:芸能界って、華やかに思われがちなんですけど、とくに俳優さんやその周囲の人たちは“華やかではない人”の方が圧倒的に多いです。ドラマ、映画、舞台をやっている人は、ほんとうに「日々オーディションの繰り返し」。受かれば仕事だけど、受からなければ仕事はない。私自身もそうなんですけど、“明日はどうなるかわからない”という感じですね。

あと、今、AI が何かする、とか、テクノロジーがなんかとか、あるじゃないですか。でも、俳優って、60 年くらい前にテレビドラマ が始まったときから、まったく同じことをやっているんですね。セリフを覚え、誰かになって、演技をする。ほんとに、“変わらない職業”なんだな、ってすごく思います。

今井:でも、その華やかでない人たちがいっぱい居て、それが全体のほとんどを占めているというのが、逆にカッコいい部分だなと思うんですよ。そういう、普段めちゃくちゃ華やかじゃない世界で、久保田さんも おっしゃるような、“明日食べるご飯のことも不安”という状況の人たちが、1本の映画が好きだから、とか、1人の俳優さんが好きだから、といった憧れの気持ちだけで、この世界で頑張っている……それってカッコいいな、と僕は思いますし、そういう人たちのことが大好きです。

久保田:おお! カッコよくまとめるね!

今井:へへへ(笑)。

久保田:この『テイオーの長い休日』は、テレビ業界や芸能界の裏舞台も描いているドラマです。さきほどの城戸社長の、男気のあるセリフも含めて、“あ、これは、本当かもしれないなぁ”などと思いながら見て、 楽しんでいただけたらと思います。

あと、さっきお話ししたように、第5話は匠くんの“選択”が問われる回です。匠くんが、果たしてどっちを選ぶのか。私としては、どっちを選んでも、本人がちゃんとしていたら、「いい方」に行くと思うんですけどね(笑)。

今井:人間はたぶん、二択で迷った時に、どっちを選んでも「あ、この選択でよかったんだな」と考えることができる生き物だと思っています。そうポジティブに思うためには、ケジメだったり、自分なりの過去の清算だったり、が必要なんですけどね。

5話は、まさに匠がそういうケジメや清算に、向き合う話になります。何かケジメをひとつきちんとつけたら、どの道へ進んでも大丈夫なんだよ……と、ドラマをご覧のみなさまの背中を押してあげられるような話になったらいいな、と思いますし、ドラマ全体もそういうメッセージを打ち出している ように思います。

久保田:これが、ドラマとして脚色されたストーリーじゃなくて、実際の俳優さんのリアルな姿がそこにあるかもしれない、と思って見ていただけると、今井くんが言ったことも、より味わい深く感じていただけると思います。私自身、千春としてセリフを口にしていて、俳優の久保田として耳や心が痛いことがたくさんありました。

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