次に、磁束管が浮上して黒点を作る際の、時間に沿った変化の様子が確認された。ねじれゼロのほか、弱いねじれ、強いねじれの3例の磁束管での比較が行われた。ねじれありの2例では、フレア黒点として実際に観測される程度のねじれ強度が与えられた。その結果、3例とも太陽表面に出現する磁束量に大きな差は見られず、いずれも同程度の大きさの黒点が形成された。

  • 太陽表面に出現した磁束量(上)とコロナへ供給された磁気ヘリシティ(下)の時間変化の様子。初期条件がねじれゼロ(赤)、ねじれ弱(青)、ねじれ強(黒)で比較。ねじれゼロの磁束管についても、有限の磁気ヘリシティが供給されたこと、その量はねじれありの場合の数十%に及ぶことがわかる。

    太陽表面に出現した磁束量(上)とコロナへ供給された磁気ヘリシティ(下)の時間変化の様子。初期条件がねじれゼロ(赤)、ねじれ弱(青)、ねじれ強(黒)で比較。ねじれゼロの磁束管についても、有限の磁気ヘリシティが供給されたこと、その量はねじれありの場合の数十%に及ぶことがわかる。(c)Toriumi et al. (2023)(出所:JAXA ISAS Webサイト)

これまでのフレアの観測からは、磁気ヘリシティの大きな黒点領域ほど、強いフレアが起きる傾向にあることが知られていた。太陽表面に出現した黒点が、上空へと広がる磁力線を通して供給したの時間変化を調べたところ、磁気ヘリシティの供給が、ねじれありだけでなく、ねじれゼロの磁束管についても生じていることが確認された。これは、ねじれゼロの磁束管でも、太陽表面に達した時には有限の(ゼロではない)磁場のねじれを持っていることを意味するという。そしてその量は、ねじれありの磁束管の20%~50%に達していることが確かめられたとする。

  • (左)ねじれゼロの磁束管浮上の例について、回転する2つの黒点の直下を3次元的に示した図。黄色は磁力線を、赤い立体的な表示は磁場強度を表す。(右)黒点回転・磁気ヘリシティ供給のメカニズムを説明したイラスト。

    (左)ねじれゼロの磁束管浮上の例について、回転する2つの黒点の直下を3次元的に示した図。黄色は磁力線を、赤い立体的な表示は磁場強度を表す。(右)黒点回転・磁気ヘリシティ供給のメカニズムを説明したイラスト。(c)Toriumi et al. (2023)(出所:JAXA ISAS Webサイト)

続いて、このような磁場のねじれがどこからもたらされたのかを調査。その結果、ねじれゼロの場合については、黒点から下方に磁力線が柱状に伸びている様子が観察され、さらにそれが渦状の熱対流によってよじられていることも突き止められた。すなわち、初期の磁束管はねじれがゼロだったにも関わらず、浮上中・黒点形成中に、熱対流の効果によってねじれが与えられたとする。そのため、太陽表面では黒点も渦と同じ向きに回転し、その結果、磁気ヘリシティが上空のコロナへと供給されたとしている。

なお渦の回転方向は、太陽内部の熱対流が速度や向きが不規則に変化する乱流状態のため、ランダムに決まるとされる。今回のシミュレーションでは、渦の向きが偶然、磁気ヘリシティを強化するように働いたが、熱対流の様子が異なる別のシミュレーションでは磁気ヘリシティが減少する可能性もあるという。

さらに研究チームは、ねじれゼロの磁束管が作った黒点の磁場分布を解析したとのこと。すると、小規模の太陽フレアを引き起こす能力があることが判明。フレアは磁場のねじれの解放により生じる現象であるため、この結果は、熱対流の効果だけでもフレアを説明するだけの磁気ヘリシティが供給されうることを意味しているとする。

研究チームは、今回の研究のような数値シミュレーションや、太陽内部を探査する手段である日震学を用いた研究を進めることで、磁場と熱対流がどのように黒点形成やフレア発生に関わっているのかを明らかにすることが期待されるとしている。