「ThinkPad X1 Carbon Gen 11」は、14型ディスプレイを搭載したクラムシェルスタイルノートPCだ。ThinkPad X1系列ではフリップタイプの2-in-1 PC「ThinkPad X1 Yoga」、13型ディスプレイを搭載して1kgを切る軽量化を図った「ThinkPad X1 Nano」と派生モデルも登場している。また、同じ14型ディスプレイを搭載したモバイル志向のThinkPadとしては、ThinkPad T14、ThinkPad T14sもある(モバイルワークステーションまで広げるとThinkPad P14sも入ってくる)。

このように、ThinkPadのラインアップはThinkPad X1系列にしてもモバイル志向モデルにしても“多種多様”な状況にある。ここでは、ThinkPad X1 Carbon Gen11を他のモデルと比べながら「今、ThinkPad X1 Carbonを選ぶべき理由」を考えてみたい。

  • 世代を重ねて11代目。ThinkPadブランドのフラグシップを務める「ThinkPad X1 Carbon Gen11」

モバイル志向のThinkPadということで、とにもかくにも本体のサイズと重さを確認していこう。ThinkPad X1 Carbon Gen11のサイズは幅315.6×奥行き222.5×高さ15.4mmで本体の重さは最軽量構成で約1.12kgだ。

これをThinkPad X1系列で比べてみると、画面サイズが同じThinkPad X1 Yoga Gen8は幅で1.2mm、奥行きで0.2mmそれぞれ少なく、高さで0.1mm、重さで260gの増加となる。ThinkPad X1 Nano Gen3になると(画面サイズがひと回り小さいので当然ながら)幅で22.4mm、奥行きで14,5mm、高さで1mm、重さで153.5gのそれぞれ減少となる。

  • カーボン繊維を思わせる格子状のパターンを施した天面デザインは健在だ

画面サイズが同じ14型のモバイル志向ThinkPadラインアップとの比較では、ThinkPad T14 Gen4が幅で2.1mm、奥行きで4.4mm、高さで2.5mm、重さで200gの増加となり、ThinkPad T14s Gen4は幅で1.9mm、奥行きで4.4mm、高さで1.5mm、重さで130gの増加だ。

  • 評価機材本体の重さは実測で1,192gだった

モバイルノートPCは、コンパクトで軽量であればそちらを選ぶのが自然な流れだ。それゆえにThinkPad X1 CarbonとThinkPad X1 Nanoの選択で迷う指標は「ディスプレイサイズが13型でも許容できるか否か」と明確だ。

また、ThinkPad X1 CarbonとThinkPad X1 Yogaの選択は「ThinkPadシリーズのユーザーインタフェース(特にトラックポイント)を備えた2-in-1 PCを必要としているか否か」とこれもかなり明確に定まる。本体の重さが260gも異なるものの(モバイルノートPCではけっこう大きな差でこの違いは意外と体感でも分かるほど)、選択条件に合うモデルがほぼ唯一ということもあって、ThinkPad X1 Yogaを選ぶユーザーは他のモデルと迷うことはないはずだ。

ThinkPad T14またはThinkPad T14sとThinkPad X1 Carbonのどちらを選ぶかで迷うユーザーは多い。本体のサイズと重さではThinkPad X1 Carbonが明らかにコンパクトで軽い。ただ、価格が大きく異なる。Web直販における販売価格(税込み)はThinkPad X1 Carbon Gen11で31万7130円からなのに対して、ThinkPad T14 Gen4は24万4200円から、ThinkPad T14s Gen4は26万8400円から購入できる。(加えてレノボ・ジャパンのWeb直販では不定期に割引販売を実施しており、これを適用されている場合は4~5割引きで購入可能だ)。

つまり、数mmの小型化と200gの軽量化に5万~7万円のコスト増を許容できるか否かが「X1 Carbonを選ぶかT14、T14sを選ぶか」の分岐点となるだろう。

ちなみに、競合他社の14型ディスプレイ搭載モバイルノートPCと本体の重さを比べてみると、ThinkPad X1 Carbonが特別重いということはないのだが、それでも1kgを切るモデルも増えてきた今では“平均よりも重い”部類に入ってしまう。ただ、それが一概に弱点といえるのかというとそういうわけではない。なぜなら、本体の重さはキーボードの使いやすさにつながるからだ。

ThinkPadブランドの定評であるキーボードの使いやすさは、ThinkPad X1 Carbon Gen11でも同様だ。その使いやすさとはキーピッチやキーストロークといった数値で表される部分だけでは決まらない。

キートップを押し込んだときにぐらつかずに“スッ”と下がっていき、かつ、力強く押し込んでも、その力を本体が“グッ”と受け止めてくれるか、という数値では表しにくい要素も影響する。キートップを押し込んだ力を受け止めるにはキーボードパーツの下に剛性のあるパネルが必要になるが、剛性を持たせるためには“ある程度”重くなることが避けられない。この“ある程度”の重さを許容できるかが、また1つの分岐点となるだろう。

  • キーボードレイアウトは従来モデルと変わらない。キーピッチは実測で約19.0mm、キートップのサイズは実測で約16.0mm

  • キーストロークは実測で約1.5mmだった

評価機材のディスプレイの解像度は1,920×1,200ドットだった。ラインアップにはこの他にも2,880×1,800ドット、2,240×1,400ドットの解像度を用意している。なお、2,880×1,800ドットではディスプレイパネルに有機ELを採用している。

  • 選択肢としては横2,000ドット超えの超高解像度やタッチパネル組み込み、有機ELパネルも選択できるが、評価機材の解像度はベーシックな1,920×1,200ドットの液晶ディスプレイだった

1,920×1,200ドットでも1,920×1,080ドットの横縦比16対9のディスプレイと比べて16対10と縦方向の表示量が多いので特に文章作成時において見通しがいい。加えて、14型のサイズだとスケーリング設定は100%でも視認は問題ない。横2,000ドット台の高解像度でなくても、画像編集系のような機能パレットを多用するアプリケーションでなければ実質的に使い勝手はそれほど変わらない。

  • 搭載カメラでは1,080pのWebカメラの他に顔認証に用いるIRカメラ、そして、プライバシーフィルタのオンオフに用いる人感センサーも備える構成を選べる

  • ディスプレイは180度まで開く。以前、レノボ・ジャパンの中の人から「少人数ミーティングでそのまま画面が共有できるんですよ(笑)」とそのメリットを訴求してもらったことがある

本体搭載インタフェースとしては、Thunderbolt 4(USB 4 Type-C)を2基、加えて、海外PCの薄型軽量ノートPCでは載せなくなってきた、しかし日本のビジネスシーンで依然として必要とされているインタフェースとして、USB 3.2 Gen1 Type-Aを2基と映像出力としてHDMI出力を備えている。ただし、(これは初代モデルからそうだったが)有線LAN用のRJ-45は用意していない。

  • 左側面には2基のThunderbolt 4とUSB 3.2 Type-A、HDMI出力を備える

  • 右側面にはヘッドフォン・マイク端子とnano SIMスロット、USB 3.2 Type-Aを搭載する

  • 正面にはマイクアレイの穴が4カ所見える。テレミーティングで周囲の音声を明瞭に集音できるようになっている

  • 背面

無線接続インタフェースは6GHzに対応したWi-Fi 6Eが利用できるようになった。Bluetooth 5.2も利用できる。また、対応構成によってはワイヤレスWANで使う4G LTE対応nano SIMスロットも本体に用意している。

ThinkPad X1 Carbon Gen11では、CPUを第13世代の「Core i7-1365U vPro Enterprise」「Core i7-1355U」「Core i5-1345U vPro Enterprise」「Core i5-1335U」から選択できる(2023年6月中旬時点)。今回の評価機材ではCore i5-1335Uを搭載していた。

Core i5-1335Uは処理能力優先のPコアを2基、省電力を重視したコアを8基組み込んでいる。Pコアはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては10コア12スレッドとなっている。定格動作時の動作クロックはPコアで1.3GHz、Eコアで0.9GHz。ターボ・ブースト利用時の動作クロックはPコアで4.6GHz、Eコアで3.4GHzまで利用可能。TDPはベースで15W~55Wとなる。グラフィックス処理にはCPU統合のIris Xe Graphicsを利用し、演算ユニットは80基で動作クロックは1.25GHz。

  • CPU-ZでCore i5-1335Uの仕様情報を確認する

処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、試用機のシステムメモリはLPDDR5-6400を採用していた。容量は16GBでユーザーによる増設はできない。ストレージは容量256GBのSSDで試用機にはUnion MemoryのRPETJ256MKP1MDQを搭載していた。接続バスはNVM Express 1.4(PCI Express 4.0 x4)だ。

評価機材の主な仕様 ThinkPad X1 Carbon Gen11
CPU Core i5-1335U
メモリ 16GB (LPDDR5-6400)
ストレージ SSD 512GB(PCIe 4.0 x4 NVMe、RPETJ256MKP1MDQ Union Memory)
光学ドライブ なし
グラフィックス Iris Xe Graphics(CPU統合)
ディスプレイ 14型 (1,920×1,200ドット)非光沢
ネットワーク IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax対応無線LAN、Bluetooth 5.2
サイズ / 重量 W幅315.6×D222.5×H15.4mm / 約1.12kg
OS Windows 11 Home 64bit

Core i5-1335Uを搭載したThinkPad X1 Carbon Gen11の処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Time Spy、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:暁月のフィナーレを実施した。

なお、比較対象としてCPUにCore i5-1235U(4+8スレッド:P-core 2基+E-core 8基、動作クロック:P-core1.3GHz/4.4GHz、E-core0.9GHz/3.3GHz、L3キャッシュ容量:12MB)を搭載し、ディスプレイ解像度が1920×1280ドット、システムメモリがLPDDR4-4266 16GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 4.0 x4接続、MZVL2512HCJQ SAMSUNG)のノートPCで測定したスコアを併記する。

ベンチマークテスト ThinkPad X1 Carbon 比較対象ノートPC(Core i5-1235U)
PCMark 10 5202 4689
PCMark 10 Essential 9720 7850
PCMark 10 Productivity 6662 6604
PCMark 10 Digital Content Creation 5901 5398
CINEBENCH R23 CPU 8931 6874
CINEBENCH R23 CPU(single) 1731 1532
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Read 3920.32 6796.87
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Write 2284.49 4567.22
3DMark Time Spy 1500 1438
FFXIV:暁のフィナーレ(最高画質) 3460

今回の評価機材も比較対象ノートPCもモバイル志向を重視したノートPCで、共に“U”シリーズのCoreプロセッサーを搭載したモデルだ。プロセッサー・ナンバーの後半がともに「35U」ということで、ラインアップにおける位置づけも同等だ。システムメモリも同じ容量ながら評価機材はLPDDR5-6400を、比較対象ノートPCはLPDDR4-4266をそれぞれ載せるなど、システム構成的には「モバイルノートPCの2023年モデルと2022年モデルのガチ比較」といえる。

その視点で見てみると、「たった1年といえど新しいモデルはやっぱ速いんだなあ」と感嘆することになる。もちろん、実売価格は発売年数に応じて下がっていくので「そこは費用対効果でしょう」という意見は正しい。

なお、ストレージデバイスの転送速度を測定するCrystalDiskMark 8.0.4 x64のスコアだけは比較対象ノートPCは圧倒的に速い。これは、比較対象ノートPCがSAMSUNG Electronicsのラインアップでも上位モデルのMZVL2512HCJQを採用しているためだ。評価機材のスコアも2023年のスコアとしては標準レベルを保っている。

また、バッテリー駆動時間を評価するPCMark 10 Battery Life Benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは9時間25分(Performance 7619)となった。ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定している。なお、公式データではJEITA 2.0の測定条件で最大28.5時間となっている。内蔵するバッテリーの容量はPCMark 10のSystem informationで検出した値は58990mAhだった。

軽量でコンパクトなモバイルノートPCで常に気になるのが、ボディ表面の温度とクーラーファンが発する騒音だ。電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。

表面温度(Fキー) 35.1度
表面温度(Jキー) 31.6度
表面温度(パームレスト左側) 29.3度
表面温度(パームレスト右側) 29.2度
表面温度(底面) 49.7度
発生音 44.7dBA(暗騒音36.4dBA)
  • 底面で最も表面温度が高かったのはスリットから奥寄りのエリアだった

ユーザーの手が触れて使用感に大きく影響するキートップとパームレストの表面温度は、最も高いFキートップでも35度台、その他は30度前後に抑えている。実際に触れている感覚としても「んー、ちょっと温かいかな?」とすら感じることはなかった。一方、底面では奥中央のやや左寄りが熱を帯び、測定値としては50度近くまで(条件がそろっていない予備測定の段階では50度を超すこともあった)熱くなっていた。

クーラーファンの音は測定値としてもそれほど高い値ではない。さらに、発する音の高さも「フーン」といった感じの低めの音なので、図書館や静かなカフェでも隣席に迷惑をかけることはないだろう。

14型ディスプレイ搭載ノートPCは本当に軽くなった。1kgを切るモデルが当たり前にある。この状況で、ThinkPad X1 Carbonは市場で一番薄くて軽いよね、と言い切ってしまうのはちょっと無理がある。

とはいえ、「軽いしキーボードもタイプしやすいよね」といえるのはやっぱりThinkPad X1 Carbonだ。「タイプしやすいといったって、キーピッチもキーストロークも他のモデルもそんなに変わらないじゃない」という意見も聞こえてくるが、スッと押せてグッと支える」のような数値に表れにくいところにこそThinkPad X1 Carbonの価値がある。

ここで、「あのキーボードとTrackPointの組み合わせこそ最大の魅力なんだよー」と力を込めて語りたいところなのだが、思いっきり長くなりそうなので、その話はまた別の機会ということで。