Orbic Japanが日本向けに投入する最初のスマートフォン「Orbic FUN+ 4G」。このスマホの最大の特徴は「安い」こと。オープンマーケット向け(SIMフリー版)スマホでは最安クラスの想定価格は24,800円となっています。6月下旬より発売されます。

  • Orbic FUN+ 4G

    Orbic FUN+ 4G

Orbicってどんなブランド?

Orbicは米Reliance Communicationsが保有するブランドです。低価格帯のモバイル通信端末を得意としており、スマートフォン/タブレット/モバイルルーター/折りたたみ型携帯(ベーシックフォン)などを展開しています。

Orbicはグローバルな製品開発の体制を整えており、ハードウェアの設計はアメリカ/台湾/インドで実施。ソフトウェア開発はインドで行っています。生産は中国からインドの拠点へと軸足を移しつつあり、米中対立が進む中でも安定した供給体制を確保しています。

同ブランドで4Gスマートフォンの企画・販売を開始したのは2019年で、主に米通信キャリアのVerizon向けに低価格なプリペイド契約用端末の製造をになってきました。2021年には米国市場で初めてのインド製のミリ波帯対応スマートフォンを販売しており、2022年から2023年にかけて、海外進出を活発化させています。

  • 今回の試用機は中国製

    今回試用した「Orbic FUN+ 4G」は中国製だった

「Orbic FUN+ 4G」の主なスペック

「Orbic FUN+ 4G」は、約6インチサイズのAndroidスマートフォンです。24,800円という、オープンマーケット向けモデルの中でもお手頃な価格が最大の魅力となっています。

画面は6.09インチのTFT液晶ディスプレイで、解像度はHD+(1,560×720ドット)。チップセットはQualcomm製のSnapdragon 680 4Gを搭載。メモリ(RAM)は4GBで、ストレージ(ROM)は64GB。最大1TBに対応するmicroSDスロットを備えています。

背面カメラは1,600万画素メインカメラ+200万画素マクロカメラという構成。インカメラは800万画素となっています。物理SIMカード(nanoSIM)を2枚装着するデュアルSIMに対応するほか、背面中央に指紋センサーを搭載します。

サイズはH161.8×W73.6×D9.83mmで、重さは約192g。外部端子はUSB Type-C(USB2.0)と3.5mmイヤフォンジャックを備えています。防水防塵性能はIP54相当で、いわゆる生活防水。バッテリー容量は4,000mAhで、10Wの急速充電に対応します。おサイフケータイは非対応で、マイナンバーカードのスマホ搭載にも対応しません。

丸みがあり持ちやすさは好印象

大容量のバッテリーを搭載しているからか、ボディには結構な厚みがあります。見た目はスタイリッシュとは言いづらいですが、全体的に丸っこい形状で、温かみのある印象です。

  • 樹脂製で丸みを帯びた形状

    樹脂製で丸みを帯びた形状になっている

樹脂製でシボ加工が施された背面パネルは、ふんわりとした柔らかい手触りになっています。試用機のカラーは「ブルー」ですが、屋内光によってはブルーグリーンにも見える色合いです。

「Orbic」ロゴがある、右手で持った時に人差し指が当たる部分には、波の様な形状の彫り込みが施されていて、ポケットから取り出した時に端末の向きが自然と分かるような作りになっています。

  • 背面の「orbic」ロゴがある部分は手触りが他の場所と違う

    背面の「Orbic」ロゴがある部分はザラザラとした手触りになっていて、端末の向きを識別できる

「Orbic FUN+ 4G」を実際に手に取ってみると、持ちやすさに配慮した設計になっていることに気づきました。ちょうどよい厚さがあるうえに、重心の配置もうまく調整されており、指に負担感を与えることなく快適に持つことができます。また、端の部分がきちんと丸められているので、鋭い角が手に当たって痛みを感じるという心配はありません。

  • コーナー部分の処理

    角が丸められていて厚みがあるため持ちやすい

中身は“素のAndroid”、4G接続はスムーズ

「Orbic FUN+ 4G」はAndroid 12を搭載します。アプリ構成を見る限り、メーカー製アプリの搭載は少なく、カスタマイズは極力抑えられています。写真アプリやブラウザ、時計や電卓など基本的なアプリはGoogle製のアプリを搭載しており、俗に言う“素のAndroid”の構成です。基本的な機能はAndroidの標準アプリで網羅しており、メーカー製アプリがほぼ存在しません。モトローラ製品などが搭載するような「ジェスチャー操作」もありません。

  • 「Orbic FUN+ 4G」のホーム画面

    「Orbic FUN+ 4G」のホーム画面

“素のAndroid”をポジティブに解釈すれば、シンプルでクリーンなユーザーインターフェイスがあり、ユーザーにカスタマイズの余地が残されているといえます。あえてネガティブな見方をすれば、メーカーの独自色が見いだせず、面白みにかける点がネックといえます。

  • 「Orbic FUN+ 4G」のアプリ一覧画面

    「Orbic FUN+ 4G」のアプリ一覧。多くはGoogle製アプリ

  • 設定アプリの内容

    設定アプリにはAndroid 12の標準的な項目が並ぶ

日本向けのカスタマイズの定番となっているおサイフケータイも搭載しませんが、日本向けカスタマイズが一切ない、ということではありません。スマホの基礎となるモバイル通信の部分では、日本向けの4G LTEバンドへの対応をしっかりと行っています。NTTドコモで使われているBand 19など、日本に特有の周波数帯もサポートしており、KDDIの相互接続性試験(IOT)もクリアしています。筆者はこのスマホを検証する際に手持ちのUQ mobileのSIMを挿入してみましたが、特段の設定もなく、通信できる状態になりました。

なお、セキュリティアップデートの提供期間について、メーカーは発売後の2年間に渡って提供する方針を示しています。OSバージョンアップの方針については示していません。

動作の安定感は悪くない

「Orbic FUN+ 4G」は、Snapdragon 680という4G LTE専用のチップセットを搭載しています。この2021年に発表の比較的設計のチップセットを採用し、5Gへの対応を省いたことには、価格性能比を高める効果があると言えそうです。メモリは4GBで、2023年のスマホとしてはやや物足りなさを感じるかもしれません。

実際にいくつかの用途、具体的にはブラウザや文章中心のSNSアプリの利用、YouTubeやTVerの視聴などを試した上で第一印象は「予想以上にサクサク動く」ものでした。特に、Google アシスタントの音声コマンドや音声文字入力の認識は思いのほかスムーズで、使い込みたくなるくらいには快適だと感じました。

ただし、一週間ほど使い込むと、描画の遅さを感じる場面もありました。特にアプリの切り替えや通知の表示といった画面全体の描画が頻繁に行われる操作で描画が追いつかないという印象を受けました。

CPUの性能を測定したGeekBench 6(バージョン6.1.0)の結果は、シングルコアで417、マルチコアで1470でした。単純比較は難しいですが、このスコアは6年前のハイエンドスマホがよく搭載していたSnapdragon 835を上回る数値となっています。

  • 「GeekBench 6」のベンチマークスコア

    「GeekBench 6」のベンチマークスコア

写真共有向けストレージ「Orbic Cloud」を搭載

基本的には“素のAndroid”な「Orbic FUN+ 4G」ですが、メーカー名を冠したアプリも1つだけ搭載しています。それがクラウドストレージサービスの「Orbic Cloud」です。このサービスは、米ニューヨークに本拠を置くスタートアップMiMedia社が運営するクラウドストレージをベースにしています。

  • Orbic Cloud

    「Orbic FUN+ 4G」が唯一搭載するOrbicブランドのアプリ「Orbic Cloud」

このストレージは操作の簡単さを特徴としており、家族や友人との写真共有が簡単に行えることを売りにしています。写真を簡単に編集したり、写真を集めた「コレクション」を作成したりすることもできます。また保存した写真からランダムに選んで壁紙に設定するという機能も備えています。

Orbicのスマートフォンやタブレットを購入した人には5GB分のストレージ容量が無償で提供されます。有料プランについては「Orbic FUN+ 4G」の発表時点では提供されていませんが、Orbicは「今後、提供を検討する」としています。現状のままでは容量の制約も厳しく、大容量データの保存場所としても適していないでしょう。

  • 写真の一覧画面

    「Orbic Cloud」は写真と動画に特化したクラウドストレージだ

  • コレクションの作成

    写真を選んで「コレクション」を作成できる

  • 編集機能

    簡単な写真編集やアレンジも可能

  • ランダム壁紙の設定機能

    クラウドに保存した写真を壁紙としてランダム表示する機能も備える

共有された写真は、iPhoneや他社製のAndroidスマートフォンからも閲覧できます。ただし、共有された写真をダウンロードしたり、コレクションにコメントを付けたりする際は、MiDriveアプリのインストールとアカウントの登録が必要となります。

「Orbic Cloud」でアルバムを作成して共有する操作は確かに手軽ですが、ストレージの容量が少なく、共有された写真の閲覧方法はやや煩雑で、使い勝手がよいとは言えません。率直に言うと、写真の保存や共有に関して、プリインストールされているGoogle フォトを使わずに、あえて「Orbic Cloud」を利用する意味は筆者には見いだせませんでした。

液晶ディスプレイの見栄えが物足りない

2万円台という価格を実現するため、「Orbic FUN+ 4G」にはスペックや搭載する機能の厳密シビアな取捨選択が行われているようでs。スペック上で気になる点としては、以下が挙げられます。

  • 5Gへの非対応:日本では4G LTEのみ対応、各社プラチナバンドはサポート
  • おサイフケータイへの非対応:マイナカードのスマホ搭載も非対応
  • 防水性能:生活防水かつ防塵(IP54相当)
  • ディスプレイ:有機ELではなく液晶ディスプレイ

液晶ディスプレイの表示性能は物足りなさは特に気になりました。6.09インチのTFT液晶ディスプレイで、画面解像度はHD+(1,560×720ドット)とそれなりですが、最高輝度が低く、色味も全体に青色が強調されすぎていて、数年前のミッドレンジモデルの水準と感じられました。上下の画面枠(ベゼル)が大きく没入感に欠ける点や、インカメラ部のノッチ(切り欠き)が大きめで目立つことも気になります。現在主流の有機ELディスプレイと比べると、大きく見劣りする印象を受けます。

カメラは暗所撮影に極端に弱い

背面カメラは1,600万画素の広角カメラ+200万画素マクロカメラのデュアルカメラを搭載、インカメラは800万画素です。撮影アプリにはAIによる被写体検出やHDR撮影などオーソドックスな撮影機能を備えており、撮影モードとしてはぼかしを表現する「ボケ」モードや夜景撮影用の「夜」モード、ISO感度やフォーカス領域を主導で設定できる「プロモード」などを搭載しています。

  • 背面カメラは広角+マクロのデュアルカメラ

    背面カメラは広角+マクロのデュアルカメラ

今回は、オート撮影を用いて、さまざまな被写体で撮影してみました。結果としては、全体的にホワイトバランスがうまく調整され、適切な露出により白飛びも最小限に抑えられる写真を撮ることができました。

  • カメラアプリの撮影モード

    カメラアプリには「ボケ」「夜」や「美しさ」といったある種独特なネーミングの撮影モードが並ぶ

しかしながら、夕暮れ後の曇り空のような状況で、高感度が必要とされる場面ではシャッタースピードが大幅に遅く設定されてしまうため、被写体がわずかに動くだけで被写体ブレが生じてしまいます。また、環境光が少ない室内での撮影も厳しく、少し動くだけで手ブレが生じてしまいます。さらに、2~3枚ほど続けてシャッターを切ると、「保存中です」という英語のエラー表示が現れます。少なくとも、気軽に撮影できるカメラではなく、きれいに撮るにはある程度の設定と心構えが必要だと感じました。

  • 処理待ちの表示

    シャッターを3回ほど連打したら、処理待ちの表示が現れた

なお、今回のテストは発売直前の評価用端末で行っています。一般的に、スマホのカメラ画質は発売後にソフトウェアアップデートを通して改善していくことが多いですから、「Orbic FUN+ 4G」についてもアップデートによる改善に期待したいところです。

  • 日中/屋外の撮影例

    日中の屋外で撮影

  • 日の入り直後/雨の撮影例

    日の入り直後+雨の撮影。こういう悪条件下では、オート撮影モードでは厳しい。「夜」モードを積極的に活用するべきだろう

  • 広角レンズ/料理の撮影例

    広角レンズで料理を撮影

  • 広角レンズ/花の撮影例

    広角レンズで花を撮影

  • マクロレンズの撮影例

    マクロレンズで撮影

まとめ:価格最優先で選ぶなら一考の余地あり

「Orbic FUN+ 4G」は、基本的な機能を備えたリーズナブルなスマホを低価格でユーザーに提供するというコンセプトの下に作られています。価格を重視し、かつ機能的な制約を理解した上で2台目のスマホを探している人なら、一考の余地がある製品といえます。

このスマホはキャリアの調達力に頼れないオープンマーケット向けのスマホでありながら、2万円台半ばという価格設定を実現しています。その価格を実現するため、大胆な機能の取捨選択が行われています。この点を理解した上で製品を評価することが重要です。

日本市場で中~低価格帯の国内メーカーが相次ぎ撤退を表明している中で、Orbicの参入表明は歓迎すべきことだと筆者は考えています。

しかし、初投入モデルとなる「Orbic FUN+ 4G」が、日本市場の全てのニーズを満たしているわけではありません。なかでもディスプレイの表示品質やカメラの性能が高くはないことや、おサイフケータイ非対応であり、そして5Gもサポートしていないことは、この製品を購入する前に慎重に考慮するべきでしょう。メーカーとしては、まずは4G対応でしっかり最適化された製品を投入し、知見を積んだ上で5G対応モデルを投入したいという考えかもしれません。

筆者としては、Orbicがユーザーからのフィードバックを取り入れ、日本市場のニーズに応える製品を今後も投入してくれることを期待しています。