マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、トルコの金融政策について解説していただきます。
トルコ中銀の大幅利上げ後にトルコリラは下落
6月22日、TCMB(トルコ中央銀行)は利上げを実施し、政策金利を8.50%から15.00%へと引き上げました。6月9日に就任したばかりのエルカン総裁が高インフレやリラ安を止めるために思い切った措置に踏み切った結果でした。ただし、金融市場は20.00%への利上げ(レンジは14.00~40.00%)を予想していたので、トルコリラは下落しました。
後述するように、最近のリラは「管理相場」の様相を呈していましたが、自由取引の相場へと変化する可能性が出てきました。リラは今後、金融政策や経済ファンダメンタルズの変化を反映して変動する「普通の」新興国通貨に生まれ変わることが期待されます。
エルドアン大統領の再選後にトルコリラが急落
トルコのエルドアン大統領は、5月14日の第1回投票、同28日の決選投票を経て、再選を果たしました。そして、再選が決まったころから、リラは急落しました。もともと、トルコは高インフレにもかかわらず、エルドアン大統領が「金利を下げれば、インフレは鈍化する」という非正統的な持論を展開して利下げを要求。TCMBはカブジュオール前総裁のもとで、利下げを繰り返してきました。
トルコリラは「管理相場」から自由取引の相場へ?
そうした状況下で、トルコリラはTCMBや国営銀行によるリラ買い(≒為替介入)、リラ預金の保護策などにより下支えられてきました。そして、対米ドルで非常に変動が小さい中でジリジリと値を下げる、クローリング・ペッグ(※)のような管理相場の様相を呈していました。
(※)当局が為替介入を行うなどして、秩序だった、ゆっくりした通貨安を誘導すること
しかし、エルドアン大統領の再選後に指名された新しい経済チームのもとで、リラの支援策を含む非正統的な政策が巻き戻されるとの観測が市場で強まったことで、リラが急落したのです。新経済チームの中心となったシムシェキ財務相は、就任にあたって正統的な経済政策への回帰を訴え、エルドアン大統領の了承を得たとされています。
利上げ幅が「中途半端」だった理由は?
今回の利上げ幅は6.5%と、市場予想に比べれば「中途半端」だった感が否めません。TCMBの声明では、「インフレ見通しが大幅に改善するまで、金融引き締めはタイミング良く、かつゆっくりとしたペースで必要な限り強化される」と宣言されました。TCMBの利上げ後も実質金利(=政策金利-インフレ率)は依然として大幅なマイナスに沈んでいます。声明通りならば「必要な限り」「ゆっくりとしたペースで」利上げは続けられる可能性が高そうです。
一方で、低金利を志向するエルドアン大統領への忖度(そんたく)からTCMBが大幅な利上げを躊躇した可能性もあります。もしそうであれば、今後は利上げを続けることは難しいかもしれません。インフレを抑制することは難しく、トルコリラは下落圧力を受け続けるかもしれません。
トルコリラが上昇するための条件
トルコリラは、エルドアン大統領の非正統的政策のもとで管理相場が続くのか、それとも正統的政策へと回帰するなかで自由相場となるのか、その岐路に立っています。トルコリラが自由相場になるならば、経済ファンダメンタルズを反映した適正な水準を模索してしばらく下落が続くかもしれません、しかし、一方で、経済政策や金融政策次第では、底打ちから反転上昇する可能性もあるでしょう。そのためには、新経済チームによる経済運営が上手く行くこと、TCMBがインフレ抑制のために適切に金融政策を運営すること、そしてエルドアン大統領が経済政策や金融政策の運営に不必要に口出ししないこと、などの条件がそろう必要がありそうです。