『合理的にあり得ない』(関西テレビ・フジテレビ系)の第1回放送を見ていたら、高嶋政伸がゲスト出演していた。性根の腐った不動産ブローカー役であり、モラハラ夫である。妻と引きこもりの子どもをほったからし、秘書の女性と不倫三昧。売れる土地だと目をつければ、虚言をふりまいて我が物にする。たとえ土地を盗られた住人が懊悩しようともビクともせず……と、書いているだけで腹が立ってくるきな臭い男を演じていた。
表情はこうだ。しかめた眉と頬骨をつりあげて、したたかに笑う。睨む。ここには何の違和感も存在しない。はて。高嶋さん、いつからこんな悪役にどっぷりハマっているのだろう。「姉さん! 事件です!」と、ホテルで起きる事件に奔走、人助けをしていた時期は、いったいどこへ……?
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高嶋政伸
1990年代"困ったちゃん"の眉で好感度を獲得
元来、高嶋さんは良家ご出身の"いい人"を絵に描いたような、好感度俳優だった。辛辣な事件や、嫌味ったらしいスキャンダルがメインのワイドショーで、高嶋ご一家はオアシスのようだった。亡きお父様を囲んで「高嶋イエ～イ」と親指を突き出す、お決まりのギャグは見ているだけで和んだものだ。
お家柄の良さを裏切ることはなく、朝ドラ『純ちゃんの応援歌』(NHK総合 1988年)や大河ドラマへの出演で、着実に俳優としてステップアップ。『HOTEL』(TBS系 1990年)のホテルマンの役では、宿泊客やスタッフのために「申し訳ございません」と頭を下げまくり、かつ、役柄が世間に愛されていたと言ったら今の視聴者は信じてくれるだろうか。『ダブル・キッチン』(TBS系 1993年)では、嫁にも母にも逆らえない気の弱い夫役。
続けて『新幹線恋物語』(TBS系 1997年)の気の弱い車掌役、『こちら本池上署』(TBS系 2002年）で演じた、常に敬語の所轄署長役。未来の寅さんを彷彿させるような演技の安定感と、人柄の良さを全面的に出していた。そこのけ、そこのけ好感度が通るとばかりに老若男女、全方位から愛されまくっていた。きっと彼は心底いい人なんだろうと思う。
だからこそ2007年に彼の結婚が報告されたときは、日本中が祝福をした。冒頭に戻るけれど、日本一有名な俳優一家は、国民的親戚一家。親戚の祝い事とあれば皆が拍手喝采で喜んだ。が、暗転は2011年の離婚劇となる。
サスペンスドラマのような離婚劇が悪役の関頭に?
1990年代、ワイドショーをあれだけ和ませていた高嶋一家が、2011年はスキャンダル対象となり、各局が波状攻撃のように高嶋家次男坊の離婚騒動を報じていた。真偽はいざ知らず、元妻の奇怪な行動に元夫は離婚を申し出たが、応じられることはなく裁判沙汰になったという。元夫の宿泊先に潜入して、元妻が明け方の枕元に座っていた……という報道もあった。もう生活そのものが火サスである。
ちょうど同じ頃、高嶋さんの役柄に異変が起きていた。『DOCTORS～最強の名医～』(テレビ朝日系 2011年)では地位や名声のことしか考えていない医師役に。主演の沢村一樹さんと対するように、まるで『白い巨塔』(フジテレビ系 2003年)の財前五郎、『振り返れば奴がいる』(フジテレビ系 1993年)司馬江太郎のごとく、ヒール役を演じていた。その後も時折、いい人役が顔を出しつつも、順調に悪役の道を進んでいく。
『カインとアベル』(フジテレビ系 2016年)で演じた、我が子に偏愛癖のある経営者。『先に生まれただけの僕』(日本テレビ系 2017年)では、主人公の行手を何かと因縁をつける専務役。もう1990年代の片鱗も見えないほど高嶋さんは悪役に染まっていった。そしてこのギアチェンジが大正解で、現在の俳優としての立ち位置がある。もう彼が登場するだけで「来たよ、来たよ」とニヤニヤしてしまう迫力がある。
振り返ると、彼の悪役への分岐点は離婚劇が大きく起因しているのでは、と思う。本来は善人の男性だからこそ、燃え上がった愛にほだされて、いつ間にか意としていなかった方向に人生が転がってしまう。よく聞く話だ。でもその時に感じた感情が悪役に影響しているとしたら……?
結果論としては好転。足の引っ張り合いが激しい芸能界で、晩年に"いい人"として成功する例は多々ある。例えば遠藤憲一さん、松重豊さんがその例だ。若い頃はVシネで名を馳せた悪役が、今ではすっかりいいおじさん。このパターンがマジョリティでありながら、高嶋さんは逆パターンを進んだ。
今回は相当、自分の妄想と独断と偏見が入ってしまった。が、それほど私、高嶋さんのファンなのかもしれない。だからこそ好感度絶頂時に演じた、『ジュニア・愛の関係』（フジテレビ系 1992年)の政治家・稲葉平馬役で吐いた「（自分の代わりに）臭い飯食ってくれるか」と秘書に罪をなすりつけたシーンを未だに忘れていない……
