続いて研究チームは、一般に再生医療で多用される皮膚由来コラーゲンとHCヒト心筋組織の成熟度の評価を行い、コラーゲン非含有のヒト心筋組織(以下「CNIヒト心筋組織」)と比較された。
まずは遺伝子解析において、HCヒト心筋組織では心筋関連やチャネル関連などの成熟に関わる遺伝子の発現が上昇することが確認された。網羅的遺伝子発現解析では、こうした成熟化の促進が機械的刺激に伴う経路や各種イオンチャネル関連、心臓発達に関わる経路の変化も伴っていることが明らかになったとする。
次に、電子顕微鏡で心筋筋節の構造が比較された。すると、HCヒト心筋組織では横紋構造の成熟化が認められ、細かい筋原線維のレベルで成熟が促されていることがわかったという。細胞代謝機能解析では、HCヒト心筋組織はミトコンドリア呼吸機能が高いことが判明。これらの結果から、心臓由来コラーゲンは皮膚由来コラーゲンよりも構造的、機能的に成熟化を促進することが示唆されたとしている。
さらに、心臓から抽出されたコラーゲン全体を用いたヒト心筋組織と、純化した型別のコラーゲン(I型、III型、V型)のみを用いたヒト心筋組織との比較を行ったところ、収縮能を示唆する収縮距離がI型を用いた場合に大きくなり、拡張能を示唆する拡張時間/収縮時間の比率がIII型を用いた場合で小さくなることが明らかにされた(一般的に、拡張時間/収縮時間の比率は小さいほど拡張能が良い)。
また遺伝子発現の比較では、型別のコラーゲンを用いたヒト心筋組織よりもコラーゲン全体を用いたヒト心筋組織での成熟が良い傾向が示された。これらの結果から、収縮に強いI型と拡張に強いIII型のバランスが成熟化には重要であることが示唆されたとする。
最後に、皮膚由来のI型、III型を用いたヒト心筋組織と、それらを混合させたヒト心筋組織、さらに心臓由来のIII型、V型を添加したコラーゲンを用いたヒト心筋組織とで遺伝子発現の比較が行われた。その結果、皮膚のコラーゲンにおいても、コラーゲン組成を調整して心臓コラーゲンの比率に合わせてI型とIII型を添加することで成熟化が促進されることがわかったという。そして、心臓由来のIII型、V型の添加も成熟化を促進することが確認された。一方で、コラーゲン比率を揃えても皮膚コラーゲンの性能は心臓コラーゲンに及ばないことから、臓器ごとの特性も何らかの重要な役割を持つことが示唆されたとしている。
研究チームによると、今回の発見は、これまで開発されてきたほかの成熟化の手法や薬物添加との併用も可能であり、成熟化したヒトiPS細胞由来心筋組織として創薬や疾患モデルの研究への応用が期待されるという。さらに、こうした組織・臓器の分化・成熟に関する知見は、今後、他臓器の分化・成熟誘導、臓器作製研究への応用も期待されるとした。