かねてから噂のあったリコーイメージング(ペンタックス)のモノクロ専用デジタル一眼レフが「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」(以下、K-3 Mark III Monochrome)として4月下旬に登場しました。「K-3 Mark III」をベースに、モノクロ専用のイメージセンサーを搭載し、モノクロしか撮ることのできない“尖った”カメラに仕上がっています。プライベートではデジタルのモノクロ写真を撮ることが多い私、大浦タケシが早速使ってみましたので、その写りなど報告いたします。
モノクロ専用APS-Cセンサー搭載、階調豊かな描写が得られる
モノクロ写真は古くさい、過去のものと感じる人がいる一方で、積極的に楽しむ写真愛好家は一定層存在しますし、モノクロ写真に挑戦したいと考える潜在的な層も少なくありません。モノクロしか撮れないデジタルカメラもあり、ドイツのライカは2012年8月にレンジファインダーモデル「ライカM モノクローム」を発売して以来、いくつかのモノクロ専用デジタルカメラをリリースし、熱烈な支持を得ています。そのような状況から、今回ペンタックスもモノクロ専用デジタル一眼レフのK-3 Mark III Monochromeをリリースしたものと思われます。
カラーで撮れる通常のイメージセンサーを搭載したデジタルカメラでも、仕上がり設定でモノクロで撮ることは可能です。しかしながら、K-3 Mark III Monochromeは、カラーの撮れるイメージセンサーではなくモノクロしか撮れない、モノクロ撮影に特化した専用のイメージセンサーを搭載しています。
そのメリットとしては、カラーフィルターを必要としないため画像の先鋭度が向上することに加え、階調の豊かさが増すことにあります。特に後者は、通常のイメージセンサーによるモノクロの仕上がりではRGBのいずれかの画素情報をもとにモノクロへと変換するのに対し、モノクロ専用のイメージセンサーではすべての画素情報がモノクロの輝度情報であり、ダイレクトにモノクロ画像の生成が可能で、より階調豊かなモノクロ写真が得られるのです。
実際、撮影した画像を見ると、グレーのトーンが豊かであるうえに、ハイライトからシャドーまでメリハリある写りが得られます。銀塩のモノクロ写真では、階調豊かなプリントを作ろうとすると知識と技術、そして経験を必要としていたものですが、本機はカメラ任せで楽しめます。モノクロ写真の好きな人、あるいは興味ある人には、それだけでも購入する価値のあるカメラのように思えます。
もちろん、モノクロの画像データでしか記録されませんので、たとえRAWフォーマット(DNG)であってもカラーへ生成することはできません。「カラーで撮っておけば」と思ってもそれは後の祭り。モノクロ縛りで写真撮影を楽しむカメラであり、それは前述した“尖ったカメラ”と喩える理由でもあります。
センサーサイズは、ベースとなったK-3 Mark IIIと同じAPS-C。有効画素数も同じ2573万画素となります。5軸対応のイメージセンサーシフト方式の手ブレ補正機構を搭載しているのも同じです。ベース感度はカラーフィルターを搭載していない分アップしており、ISO200となります。最高感度はISO160000で、感度を上げればノイズもそれに応じて発生しますが、それがフィルムの粒状感のようなイメージとなることもありそうなので、あえて高感度で撮影する手もあり。1/8000秒の最高シャッター速度、12コマ/秒の最高コマ速、「SAFOX13」によるAFなどもK-3 Mark IIIと同じです。
カスタムイメージやデジタルフィルターを継承
ペンタックス一眼レフの絵づくり設定であるカスタムイメージは、モノクロ専用機に応じたものとしているのも特徴。選べるイメージはデフォルトの「スタンダード」に加え、「ハード」と「ソフト」の3つ。「ハード」は「スタンダード」に比べコントラストの強い描写が特徴で、メリハリある写りが得られるため、一度使うとクセになってしまいそう。実際、作例の撮影ではこのイメージで撮ってしまうことが多く、あわてて「スタンダード」で撮り直すこともありました。「ソフト」はその真逆で、その名のとおり柔らかい写りが特徴となります。被写体によってはちょっと物足りなく感じますが、ポートレートなどでは効果的なイメージと述べてよいでしょう。なお、いずれもパラメータを備えており、調色/キー/コントラスト/コントラスト(明部)/コントラスト(暗部)/ファインシャープネスが好みに応じて調整が可能です。
フィルター機能であるデジタルフィルターもK-3 Mark IIIと同様に搭載しています。ただし、モノクロ専用機であるため、その内容に若干の変更があります。フィルターの種類は、トイカメラ/レトロ/ハイコントラスト/シェーディング/ネガポジ反転/ドラマチックアート/粒状感モノクロームとなります。K-3 Mark IIIではあった色抽出/色の置換え/ソリッドモノカラーは当然のことながら未搭載です。なお、K-3 Mark III Monochromeには、銀塩フィルムのような粒状感を施す機能は単独では備わっていませんが、どうしても粒状感が欲しいときは「粒状感モノクローム」を選択する手もありますので、覚えておくとよいかもしれません。
モノクロフィルムよりも手軽にモノクロ撮影が楽しめる
実際に使用した感じでは、ファインダーがEVFのミラーレスとは異なり、本モデルは光学ファインダーなので、撮影者は被写体がモノクロとなったときを想像しながら撮影する必要があります。そのため、仕上がりを予測するにはある程度慣れを必要としそう。もちろん、液晶モニターによるライブビュー撮影ではモノクロで表示されるので、状況によってはそちらで撮影に臨むとよいかもしれません。また、カラーでもいえることですが、光学ファインダーは露出の状況がリアルタイムに確認できないので、露出を追い込んだりすることも勘が頼りになります。
生成される画像については、前述したとおりエッジのキレはとてもよいものです。ペンタックスのレンズは、どちらかといえば解像感よりも階調再現性に重きを置いた描写特性のレンズが多いように思っているのですが、それでも合焦部分はキレッキレの画像が得られます。線の細さも圧倒的で、繊細な写りが楽しめると述べてよいでしょう。階調再現性も文句の付けどころがなく、特にグレーの階調の豊かさは特筆すべきところ。個人的には、過去銀塩モノクロフィルム時代ではなかなか思い通りのグレーが出ずに苦労しましたが、K-3 Mark III Monochromeではカメラ任せで楽しめそうです。黒の締まりも上々で、ハイライトもよく粘っているように思えます。インクジェットプリンターによるモノクロプリントも大いに期待できそうです。
K-3 Mark III Monochromeは、一般の小売店などで扱う通常モデルのほかに、直販サイト専用モデルとして外装塗装をマットブラックとした「K-3 Mark III Monochrome Matte Black Edition」も用意します(価格は通常モデルと同じ、数量限定無し)。いずれのモデルも発売以来たいへんな人気で、手に入りづらい状況が続いているようです。今後、このイメージセンサーを使ったリコーGRシリーズの登場にも期待してよいかもしれません。
リコーイメージングは新宿のギャラリーの閉鎖や、CP+2023に参加しなかったことなど、カメラファンとしてはちょっと寂しい状況が続いていました。このカメラで奮起してもらい、さらに刺激的で意欲的なデジタルカメラを出してほしいと思わずにはいられません。