多様な意見があると思うが、モバイルデバイスと比較してPCが優れている点の1つはファイル操作だ。コンピューターの黎明(れいめい)期に誕生した「ファイル」は、これから新たな概念が生まれない限り、ファイルにデータを格納して他のデバイスと共有――といった操作はなくならないだろう。Windows上でファイルを操作するのはエクスプローラーだ。

少し年寄りの昔話にお付き合いいただきたい。Windows 95以前は「ファイルマネージャ」でコピーや移動など一連のファイル操作を行ってきた。ウィンドウ内に複数のドライブやフォルダー(ディレクトリー)を並べるMDI(マルチドキュメントインタフェース)形式だったが、DOSから移行した筆者は全面表示のファイラーに慣れていたため、有志のオンラインソフトウェアを使っていたように記憶している。

  • Windows 3.1の「ファイルマネージャ」

Windows 95以降は、メディアファイルのサムネイル表示やアイコンの高解像度化を実装し、インデックスと連携した検索は(迷走を繰り返しつつも)現在のエクスプローラーにたどり着く。ユーザーによって操作の好みは異なると思うが、エクスプローラーがタブ機能を備えても、複数のエクスプローラーウィンドウを開いてファイルやフォルダーをドラッグ&ドロップしたり、ショートカットキーを駆使したりするのはWindows 11でも変わらない。今後はエクスプローラーのタブもMicrosoft Edgeのタブと同様にドラッグ&ドロップで分離・結合が可能になり、Windows App SDKベースのUI再調整が加わる予定だが、あくまでも表面的な対応だ。

エクスプローラーはWindows体験を左右する根幹のコンポーネントでありアプリだ。コードに大幅な手を加えてUXや安定性を欠いてしまうのは、Microsoftとしても避けたいのだろう。長い歴史を持つエクスプローラーのコードは膨大かつ冗長、完全なモダン化は難しいとの意見も多く聞く。微調整にとどまるのも仕方ないところだが、まるでレガシーな基幹システムのクラウドシフトで苦労する担当者を見ているようでもある。

ただそれでも、エクスプローラー・モダン化の第一歩が始まった。現地時間2023年6月14日にリリースしたWindows 11 Insider Preview ビルド23481には、フォルダーオプションの項目整理が加わっている。公式ブログにてMicrosoftは、「古いレガシーな設定をWindows 11ユーザーが定期的に使用することはない」と理由を述べつつ、「暗号化や圧縮されたNTFSファイルをカラー表示する」など9項目をGUIから削除するという。なお、設定自体はOSに残され、レジストリエントリーで項目の有無を制御できる。

  • Windows 11 Insider Preview ビルド23481のフォルダーオプション。筆者の環境では以前のままだった

筆者個人としては、この判断は強く歓迎したい。プログラミング経験をお持ちのユーザーなら実感できると思うが、古いコードの役割を理解して、改善計画に沿って整理・更新していくのは苦痛以外の何物でもないだろう。筆者などは数年前に書いたシェルスクリプトすら見直したくない。とうとうMicrosoftはエクスプローラーのコード見直しに着手した。フォルダーオプションに並んだ設定項目の整理は細かい変化だが、今後は基本動作や検索体験など幅広く改善が広まるだろう。それを期待する。