ディズニー創設100周年を迎える記念すべき年に公開される実写版『リトル・マーメイド』。本作で、ハリー・ベイリー演じる主人公の人魚・アリエルのプレミアム吹替版声優を務めたのが、ミュージカル女優として伸びのある歌声を披露している豊原江理佳だ。オーディションでアリエル役を勝ち取った際には、感激して号泣したという豊原が、エンターテインメントに携わる熱いモチベーションを語った。
幼少期から歌うことが大好きだったという豊原。12歳のときオーディションを受けたミュージカル『アニー』で見事主人公・アニー役を射止め女優デビューした。
「小さい頃から至るところで歌ったり踊ったりしている女の子だったのですが、それがお仕事にできるんだ……と思うとすごくワクワクしました。実際舞台の上に立って歌うと、なにか自分が開放できる感覚があり、なんでも自由にできるんだという気持ちになれたんです」
歌うこと、踊ることが大好きという思いだけで臨んだミュージカル。一方で、本格的に女優という仕事を意識したのは、高校生ぐらいの時だったという。
「ちょうどその頃、自分のルーツというかアイデンティティに悩む時期がありました。あいまいな言葉ですが“普通”になりたかったんです。そのとき、ドラマや映画、ミュージカルなどを観ていると、その時だけ時間を忘れられて『明日から頑張ろう』と力がみなぎり、作品の力によって人の心がここまで前向きになれるんだ……私もそっち側の人間になりたいと強く思いました」
思い立ったら行動……豊原はニューヨークに留学することを決意する。
「将来ブロードウェイに行きたいという思いがあったので、そのためにはしっかり英語ができないといけないと思って、留学することにしました。当時は、なんか自分はフラフラしているなと思っていたのですが、いま振り返ってみると、歩いてきた道には一貫性があるなと感じます(笑)」
帰国後、精力的にミュージカル作品に出演し、経験を積んでいくなか、本作のプレミアム吹替版のオーディションのチャンスを得た。
「ディズニー作品は小さい頃から観ていましたし、もちろん『リトル・マーメイド』も大好きな作品でした。そんななか、(アリエルを演じる)ハリー・ベイリーさんの歌声をYouTubeで聴いて、なぜかビビっと来て、『この作品にどうしても携わりたい。この役は私がやるんだ』と運命的なものを感じたんです。受かる、受からないとかいうことではなく、『とにかく私が今まで生きてきた姿を見て』という気持ちでオーディションを受けました」
強い思いで臨んだオーディション。しかし思いが強い分、空回りしてしまい、自分自身の評価は「ダメだ」と落ち込んだという。
「お恥ずかしい話ですが、気合いが入りすぎてしまって……。アフレコもガチガチで、正直ほとんど記憶がないぐらいでした。家に帰ってきてから『もう絶対ダメだ!』と(笑)。結果が出るまで、ずっと母に『どう思う? ダメかな?』って聞いていました」
しかし結果は、豊原の強い思いが通じて合格。晴れて「パート・オブ・ユア・ワールド」など名曲を含め、美しい歌声を持ち人間の世界に憧れているアリエルとして作品に命を吹き込んだ。
「本当に貴重な経験でした。オーディションを受けたときも、本編を観たときも、私にとってはもちろんですが、作品自体に時代が移り変わっていっても、ずっと語り継がれていくような、そんな大きさを感じました。本当に大きな作品に携わることができたんだなと。私がおばあちゃんになって、歌わない日が来たとしても、『アリエルを演じたんだ』という思いがずっと心の支えになってくれるような。本当に大きな宝物ができたと思います」