電気で走るスーパーカーが増えてきた。先日はランボルギーニのプラグインハイブリッド車(PHEV)「レヴエルト」(Revuelto)が日本に上陸。これでフェラーリ、マクラーレン、ランボルギーニの各社から(買えるかどうかは別にして)PHEVの量産車が出そろったことになる。ということで、比べてみよう。

  • ランボルギーニ「レヴエルト」

    PHEVスーパーカーが増えている(本稿の写真は撮影:原アキラ)

PHEVスーパーカーには2つのタイプがある

レヴエルトのシステムはエンジン+3モーターのプラグインハイブリッドシステムなのだが、考えたら既存の量産電動スーパーカーはPHEVのものが多い。マクラーレンなら「アルトゥーラ」然り、フェラーリなら「SF90ストラダーレ」と「296GTB」然りである。ということは、今時の電動スーパーカーのパワートレインとしてはPHEVが最適解なのか。発表されたメカニズムや性能、特徴などを参考に考察してみた。

上記の3社はこれまでに、限定車としてはそれぞれ「P1」「ラ フェラーリ」「カウンタック(クンタッチ)LPI 800-4」をスーパーハイブリッドモデルとして生産した経験がある。少量生産であれば、ほかにも電動スーパーカーはあった。

しかし、量産市販モデルとなると、実は我らがホンダの2代目「NSX」が3.5L V型6気筒ツインターボエンジンに前2基、後1基の3モーターを搭載し、2016年8月に真っ先にデビューを果たしていたのだ。NSXのシステム総合性能は最高出力581PS、最大トルク646Nmで、価格は2,370万円。ただし、富裕層をターゲットとしたスーパーカービジネスとしては成功に至らず、残念ながら2022年をもって生産中止となった。

  • ホンダの2代目「NSX」

    ホンダの2代目「NSX」は3基のモーターを搭載するハイブリッド車だった(この写真は編集部撮影)

さて、今回の主役となる3社の現行PHEVたちだが、流れとしては2種類に大別できる。ひとつはV6ツインターボをベースにした台数が見込める主力モデル系で、もうひとつはハイパワーなV8ツインターボやV12気筒をベースにしたフラッグシップ系だ。前者に相当するのはアルトゥーラと296GTB、後者にはSF90ストラダーレとレヴエルトが該当する。

個別の性能を見ていこう。

2021年2月に登場したマクラーレン「アルトゥーラ」はボディサイズが全長4,539mm、全幅1,913mm、全高1,193mm、ホイールベースが2,640mm、車重が1,395kg。リアミッドに搭載するバンク角120度の3.0L V6ツインターボエンジンはトルク重視のロングストロークタイプで、最高出力585PS/7,500rpm、最大トルク585Nm/2,250~7,000rpmを発生する。後輪を駆動する8速DCTトランスミッションとの間に配置したモーターは95PS/225Nmを発生。システム合計で680PS/7,500rpm、720Nm/2,250rpmとなる。WLTCモード燃費は4.6L/100km(21.7km/L)だ。

  • マクラーレンのPHEV「アルトゥーラ」

    マクラーレンのPHEV「アルトゥーラ」(この写真は編集部撮影)

同じ年の6月にデビューしたフェラーリ「296GTB」は全長4,565mm、全幅1,958mm、全高1,187mm、ホイールベース2,400mm、車重1,470kg。バンク角120度の3.0L V6ツインターボエンジンはフェラーリらしいショートストロークタイプで、最高出力663PS/8,000rpm、最大トルク740Nm/6,250rpmを発生する。搭載するモーターは167PS/315Nmで、システム合計は830PS/8,000rpmという数値。8速ATで後輪を駆動し、WLTCモード燃費は6.4L/100km(15.6km/L)だ。

  • フェラーリ「296GTB」

    フェラーリ「296GTB」

アルトゥーラはマクラーレンお得意の軽量CFPR製モノコックボディが特徴。歯切れのある低音を発生するトルク型エンジンで加速させることで、その性能は0-100km/h加速3.0秒、0-200km加速8.35秒、0-300km加速21.5秒、最高速度330km/h、200km/hからの停止距離126m、100km/hからは33mといずれも高水準だ。搭載するバッテリーは7.4kWh。電気のみで31km走ることができて、その際の最高速度は130km/hとなる。回生ブレーキはなし。

走行モードは足回りの「コンフォート」「スポーツ」「トラック」、パワートレインの「Eモード」「コンフォート」「スポーツ」「トラック」があり、メーターパネル横のサテライトスイッチで選択する。タイヤは前235/35ZR19 91Y、後295/35ZR20 105Yのピレリ「Pゼロ」。跳ね上げ式のデュヘドラルドアを採用しており、価格は3,070万円だ。

296GTBはアルトゥーラより重いアルミのスペースフレームを採用。その重量を高速域では高回転型のハイパワーエンジンで、低速域では高出力モーターで補う、という考え方で製造されている。0-100km/h加速2.9秒、0-200km/h加速7.3秒、最高速度330km/hという加速力を持ち、200km/hからは107mで停止できる。

8,500rpmまで回るV6のその音色は、開発段階から「ピッコロ12」(小さな12気筒)と呼ばれていたほどの快音を奏でる。容量7.45kWhのバッテリーにより無音で25kmを走行できて、その際の最高速度は135kmとなる。

走行モードはステアリングの4時の位置に「ウェット」「スポーツ」「レース」を選択する「マネッティーノ」、8時の位置に「Eドライブ」「ハイブリッド」「パフォーマンス」「クォリファイ(電池を放電しっぱなしにする最高パフォーマンスモード)」という電動パワートレイン制御の「Eマネッティーノ」を搭載。ドアは通常の横開き方式で、タイヤは前245/35ZR20 95Y 、後305/35ZR20 107Yのミシュラン「パイロットスポーツ4S」を履く。性能とともに価格面もアルトゥーラを上回る3,710万円だ。

メーカーが異なる2台の間に、奇しくもバンク角120度のV6ツインターボエンジンにひとつのモーターを組み合わせて後輪を駆動するという共通項があるのはけっこう面白い事実。現在のPHEVスーパーカーでは、この形式が生産面(ある程度以上の数)や販売面(富裕層にアピールしやすい価格)においてベストパフォーマンスが期待できるのかもしれない。

フラッグシップ系は1,000馬力超!

フェラーリのルーツであるモータースポーツ部門「スクーデリア・フェラーリ」(SF)の創立90周年を記念した「ストラダーレ」(公道仕様)をネーミングの由来として2019年にデビューしたのが「SF90ストラダーレ」だ。

  • フェラーリ「SF90ストラダーレ」

    フェラーリ「SF90ストラダーレ」(画像はフェラーリのメディア向けサイトより)

一部にカーボンを使用したアルミニウムシャシーを採用したボディは全長4,710mm、全幅1,992mm、全高1,186mm、ホイールベース2,650mm、車両重量1,570kg。リアミッドの低い位置に搭載するのは最高出力780PS/7,500rpm、最大トルク800Nm/6,000rpmという強力な4.0L V8ツインターボエンジンだ(伝統の12気筒ではなくなった)。フロント左右に135PS/85Nm、リアには204PS/266Nmという合計3基のモーターを搭載し、システム合計で1,000PSを発生する。トランスミッションは8速DCTで、フル電動走行が可能なe-4WDシステムを採用している。WLTCモード燃費は6.0L/100km(16.7L/km)だ。

ランボルギーニの創立60周年の年となる2023年4月、同社初の量産電動化モデルとして登場したのがフラッグシップの「レヴエルト」だ。日本では6月6日にお披露目となった。

  • ランボルギーニ「レヴエルト」
  • ランボルギーニ「レヴエルト」
  • ランボルギーニ「レヴエルト」
  • ランボルギーニ「レヴエルト」

3種類の異なる成形方法を採用した「モノフュージレージ」と呼ぶCFPR製シャシーを採用したボディは全長4,947mm、全幅2,033mm、全高1,160mm、ホイールベース2,779mm、車重1,772kg。今回の4台の中では最大だ。カウンタック(クンタッチ)以来ずっと採用してきた「LPレイアウト」を180度ひっくり返して搭載した自然吸気の6.5L縦置きV12エンジンは、最高出力825PS/9,250rpm、最大トルク725Nm/6,750rpmを発生。フロント左右に150PS/250Nmのモーター、エンジン後方に150PS/150Nmのモーターと横置き8速DCTを配する3モーターの電動4WDハイブリッドシステムで、合計出力はSF90ストラダーレを凌駕する最高1,015PSを発生する。パワーウエイトレシオ1.75kg/PSを誇る同システムをランボでは、PHEVではなく「HPEV」(ハイパフォーマンス・エレクトリファイドビークル)と呼んでいる。

その性能を比べてみると、まずSF90ストラダーレは0-100km/h加速2.5秒、0-200km/h加速6.7秒、最高速度340km/h、100km/hからの停止距離29.5mとすばらしい。走行モードの「マネッティーノ」と「Eマネッティーノ」を備えるのは296GTBと同じで、それよりわずかに大きな7.9kWhのバッテリーを後席背後に置き、電気だけで25km(最高速度135km/h)の走行を可能にしている。WLTCモード燃費は6.0km/100km(16.7km/L)。タイヤは前255/35ZR20 97Y、後315/30ZR20 104Yのミシュラン「スポーツカップ2」を装着する。ドアは横開きで価格は5,340万円。さらに570万円を追加すれば、カーボンパーツなどを多用したスポーツ仕様の「アセットフィオラーノ」モデルが手に入る。

デビューしたばかりのレヴエルトは0-100km/h加速2.5秒、0-200km/h加速7秒以下、最高速度350km/h以上とこちらも魅力十分。走行モードはフル電動の「チッタ」(Citta)をはじめ「ストラーダ」「スポーツ」、ハイエンドパフォーマンスを実現する「コルサ」など最大13通りをステアリングの2つのダイヤルで選べる。

これまではトランスミッションの場所であったセンタートンネル内には3.8kWhという比較的小型のバッテリーを搭載。EV走行距離は10km程度とされる。タイヤは前265/35ZRF20、後345/30ZRF21のブリヂストン「ポテンザスポーツ」(ランフラット)で、同じサイズのチューブレスタイヤもパフォーマンス版として用意。また、冬用として専用設計したブリヂストン「ブリザック」の設定もある。ドアは伝統のデュヘドラルドアを採用。価格は6,500万円オーバーと聞いている。

この2台の共通項は圧倒的な動力性能だ。どちらもパワーは1,000PSオーバー、0-100km/h加速2.5秒前後、最高速度が350km/h前後を誇る。新世代のフラッグシップと呼ぶにふさわしい性能だが、これは強力なエンジンに3モーターを組み合わせるPHEVシステムだからこそ実現できたものでもある。

ランボルギーニにはフェラーリ296GTBに対峙すべく、「ウラカン」のPHEVモデルが控えているはずだ。エンジンがV10、V8、それともV6になるのかは不明だがそちらも楽しみ。フル電動のスーパーカーが登場する前に、エンジンサウンドが満喫できるこうしたPHEVスーパーカーがしばらく主役を務めていくのだろう。