3年以上ぶりの会場開催説明会
2023年6月14日、インテルはプレス向けにインテルの現状を伝えるインテルプレスセミナーを実施しました。インテル 代表取締役社長の鈴木国正氏は、「前回が2019年末(のインテルプレスセミナーQ4/2019)以来なので、3年7か月ぶりの会場開催」と説明(手元の予定表をみてみると、その次がオンライン開催に切り替わって2020年3月に行われた5Gインフラに関する説明会でした)。
今回の説明会では、インテルが注視している領域として「ムーアの法則の継続」、「グローバルサプライチェーンの強靭化」と「AIの民主化」の3点を説明(プラスしてもう1つあるのですが、別記事で紹介する予定です)。
今年3月に亡くなったゴードンムーア氏に関し、ムーアの法則に関してIntel CEOのパットゲルシンガー氏が「インテルは、ムーアの法則に触発され、限界までムーアの法則を追い求めていきます。ゴードンのビジョンは私たちがテクノロジーの力を使って地球上すべての人々の生活を向上させるために、私たちのノーススター(道標)として存在し続けます」という発言を紹介。
従来型のムーアの法則の実現方法だった微細化に関しては、すでに「4年間に5つのプロセス世代を投入」と宣言している事に加え、IEEE International Electron Devices Meeting 2022(IEDM2022)で、密度を10倍向上させた3Dパッケージング技術の進歩等により、2030年までに単一パッケージに1兆個のトランジスタ集積を目指すとも発表したことを紹介。これらによってムーアの法則の継続を行います。
製造プロセスに関して鈴木社長は「すでにIntel 4は製品サンプルを一部顧客に提供している他、Intel 20A/18Aもすでにテープアウトして、社内のテストチップとして稼働中」と開発が順調に行われていると説明しました。
また、Intel 3の前段階であるIntel 4はEUV(極端紫外線露光)を採用している点がポイントで、Intel 3ではEUVの利用を拡大。Intel 18Aの前段階となるIntel 20Aは、原子3個分の超薄2Dチャネル素材のGAA積層ナノシート構造を使用したトランジスタと、裏面電源供給ネットワーク技術「PowerVia」を採用。この両プロセスはファウンダリー事業として外部顧客も使用するので、非常に重要な技術に位置付けられています。
Intel 18Aのユーザーに対しても言及し、ARM社がIntel 18Aから複数世代の契約となったほか、Amazon、Cisco、米国防省がインテルのパッケージ技術を採用すると紹介しました。ARM社の契約に関しては、ARMの顧客にとってもファウンダリの選択肢が広がることで強靭性が高まり、世界のサプライチェーンの安定に貢献すると説明しました。
グローバルサプライチェーンの強靭化に関しては、インテルが安定して製品を提供しなければならない社命があり、地政学的な話としても日本への力の入れ具合が高まっているのは間違いないと説明。
また、5月19日から行われたG7広島サミットに合わせるようにパット・ゲルシンガー氏が来日したことにも触れられました。日本は製造装置や素材で世界を引っ張っているサプライヤーがいると日本への注力が高まっているとして、首相官邸でラウンドテーブルが行われ、Susteinability/Next Generation Computing/Resilient Supplier Ecosystemの3点に大きく言及しました。
加えて同日、理化学研究所を訪れシリコンベースの量子コンピューター技術と量子シミュレーション技術、スパコンやAIコンピューター技術、Intel Foundry Services(IFS)社との連携よる試作に関して共同研究を加速させる連携・協力に関する覚書を締結しています。
鈴木氏はいきなり覚書を作ったわけではなく、理研とは長い間の話し合いを行っており、G7というタイミングで実現したと説明していました。
サステナビリティに関しては、社内とバリューチェーンのCO2削減ロードマップが策定されており、2040年までにScope 1(自社での燃料の使用や工業プロセスによる直接排出の温室効果ガスの排出量)/Scope 2(他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出)のネットゼロを達成することになっており、すでに製造オペレーションやオフィスビル等において、再生可能エネルギー使用率が2021年夏が80%だったのに対し、2022年夏時点91%と10%以上増加したと言います。
今後は半導体製造に使用する化学物質の代替技術の開発や製品とプラットフォームの電力効率向上による顧客のサステナビリティを目標として掲げており、一例としてデータセンターで4年前のプロセッサーから第4世代Xeonスケーラブルプロセッサーとインテルのツールを使用することで今後4年間に最大35%の削減が可能と説明していました。
AIの民主化でAIはメインストリームに
AIの民主化に関しては執行役員 経営戦略室長の大野誠氏が説明。すでにAI利用は広がっており、多くの産業で利用されている事やChatGPTやStable Diffusionといった生成系AIでAIが身近な社会現象になっています。
一方でディープフェイクに代表されるAIの悪用や、入力したデータのプライバシーやプライバシーが不安となっている現状を紹介。また、数千億というパラメーターを使用した現在の超大規模AIの学習に使われる電力やCO2排出が深刻な問題になりかねないと懸念を示しました。
インテルは「すべての人類にとって広くアクセスできるAI技術を提供する事=AIの民主化」というビジョンを掲げており、そのためには責任あるAIと広範なAIプラットフォームとソリューションの提供が必要だと言います。
責任あるAIの実現に関しては、インテル社内にAI諮問委員会を設置。インテルが使用しているAIの人権、信頼性、プライバシー、公平性が守られ、監視に使われていないことを確認しています。また分散型AIのプライバシーと信頼性を強化するテクノロジーの発展と開発を目標に掲げている、プライベートAI共同研究機関を設立。さらにDARPA(米国防高等研究計画局)と共同でAIの脆弱性を軽減する研究を行っています。
成果としては、ディープフェイクを検出する「Fake Catcher」を開発。インテルは人の顔に流れる血流に着目し、これを使う事で現在検出率96%までディープフェイクを発見可能だとしています。また秘密計算に必要な認証サービス「Project Amber」は現在パイロット版を提供。Intelが提供するAIツールキットOpen VINOの中に説明可能なAIツールが含まれていると紹介しました。
すでにインテルはXPUとして、各種のハードウェアに加えてoneAPIをはじめとした幅広いソリューションを展開。大野氏は「第四世代インテルXeonスケーラブルプロセッサー(Sapphire Rapids)で追加されたAMX(Advanced Matrix Extension)アクセラレーターが学習効率を飛躍的に向上させている」と紹介したほか、HPCやデータセンター向けのIntel Datacenter GPU MAXを紹介。
また、現在のAIがクラウドによる集中型に対し、今後は遅延の低下やプライバシーの強化、そしてコストの観点からエッジ、クライアントに移行すると予測。
今年後半に正式発表するとみられる「次世代Coreプロセッサ(Meteor Lake)」ではAIエンジンとしてVPU(movidius)をすべてのSKUに搭載するとアピールしていました。大野氏はビデオ会議で従来CPUが行っていた背景ぼかしや動的なノイズ低減などにVPUを使う事でCPU負荷(と消費電力)の削減が行えるだろうと説明していました。
最後に大規模言語モデル(Large Language Models、LLM)の民主化を体現する事例として経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)と共同開発したLLMについて紹介しました。
これはBCGが持つ50年の業務データを使用した独自データで訓練された、ドメイン特化型の基盤モデルで、Gaudi2をアクセラレータとして使用して作られました。BCGの社員は既存のキーワード検索ソリューションから今回作成したチャットインターフェースによる情報検索サービスを利用することで、複数のテキストに埋もれた情報をセマンティック検索によって取得、要約できるようになったとのこと。
本番環境での生成AIアプリケーションを使用したことによって社員の満足度は41%増加、結果の関連性が25%向上、作業効率が39%増加と目覚ましい改善が出ています。
「生成系AIは『AIの民主化』によってメインストリームになる」とインテルのパット ゲルシンガーCEOはコメントしていると大野氏は説明しています。