令和3年簡易生命表によると、男性の平均寿命は81歳、女性の平均寿命は88歳となっています。つまり女性は男性よりもおよそ7年長生きする傾向があるということです。同い年の夫婦であれば、単純に考えて妻が7年の間おひとりさまの老後を過ごすことに。そこで本記事では、2人暮らしをしていた夫婦のうち夫が亡くなってしまったことを想定。
その際、夫が厚生年金に加入していたら、遺族厚生年金が受け取れますが、いくらもらえるのか確認しましょう。さらに、妻の働き方によってもらえる年金額が違うという驚きの事実にも注目! 現在年金生活を送っている女性だけでなく、老後はまだまだ先という女性にも知っておいてほしい年金のお話です。
■夫が亡くなった。妻の年金はいくらになる?
夫が会社員、妻が専業主婦または扶養内でパートなどをしていた場合は、夫は厚生年金、妻は国民年金となります。
令和3年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の平均受給額は14万5665円(月額)、国民年金の平均受給額は5万6479円(月額)となっています。平均額を受給している夫婦を想定すると、夫婦で暮らしているうちは、月に20万円程度の年金となりますが、夫が亡くなって、夫の分の年金がなくなると、受け取れる年金はぐんと減ってしまうと考えるでしょう。しかし、夫が厚生年金に加入していたのなら、妻は遺族厚生年金を受け取れます。
■遺族年金の仕組み
遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。「遺族基礎年金」は国民年金の被保険者または被保険者だった人が亡くなった場合に受け取れますが、受給対象者は子のある配偶者または子であり、子とされるのは18歳までなので、子どもが独立して年金暮らしをしている夫婦は、年金に加入していた夫が亡くなった場合、遺族基礎年金を受け取ることはできません。
一方、「遺族厚生年金」には子の要件はないので、老齢厚生年金を受給していた夫が亡くなった場合、妻は亡くなった夫の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の金額の遺族厚生年金を受け取ることができます。
よく勘違いをしてしまうのが、夫がもらっていた年金の4分の3をもらえると思ってしまうことです。老齢厚生年金の受給額には基礎年金が含まれているので、基礎年金を除いたものが厚生年金の「報酬比例部分」となります。この報酬比例部分の4分の3なので、「あれ? 思ったより少ない」と感じるかもしれません。
■遺族厚生年金の年金額
事例をもとに年金額を計算してみましょう。
<ケース1>妻が専業主婦だった場合
妻が専業主婦だった場合の年金額の計算
【夫】年金月額: 14万5000円(老齢厚生年金の報酬比例部分約8万円)
【妻】年金月額: 6万5000円(老齢基礎年金のみ)
夫が亡くなって妻が受給できる遺族厚生年金の月額 8万円×3/4=6万円
妻は自分の年金と合わせて、月12万5000円の年金が受け取れます。
<ケース2>夫婦共働きだった場合
夫婦共働きで、妻も老齢厚生年金を受給できる場合は、遺族厚生年金がそのままプラスされて受給できるわけではありません。遺族年金はそもそも亡くなった者に生計を維持されていた遺族の生活を守るためのものなので、生計維持関係にない場合は受け取ることができません。
この生計維持関係というのは、死亡した者と遺族が生計同一であり、かつ遺族の年収が850万円未満であることをいいます。ただ、年金生活をしていて、残された側の年収が850万円以上というのはまれだと思うので、一般的には共働きでも遺族厚生年金は受け取ることができます。ただし、支給停止になる措置があります。
「遺族厚生年金」と「老齢厚生年金」の両方を受給できる場合
老齢厚生年金を受給していた夫が亡くなって、妻が遺族厚生年金と自身の老齢厚生年金の二つを受給できる場合は、自身の老齢厚生年金が優先されます。そのため遺族厚生年金が老齢厚生年金を上回る場合は差額分のみ支給されます。つまり、自身の老齢厚生年金に相当する額が支給停止となり、遺族厚生年金が自身の老齢厚生年金を上回らなければ、支給されません。
※平成19年4月1日前に65歳以上である遺族厚生年金受給権者の取扱いは上記と異なります
夫婦共働きだった場合の年金額の計算
【夫】年金月額: 14万5000円(老齢厚生年金の報酬比例部分8万円)
【妻】年金月額: 10万5000円(老齢厚生年金の報酬比例部分4万円)
夫が亡くなって妻が受給できる遺族厚生年金の月額
8万円×3/4=6万円
6万円-4万円(妻の老齢厚生年金に相当する額)=2万円
6万円のうち4万円が支給停止となり、遺族厚生年金として2万円支給されます。妻は自分の年金と合わせて、月12万5000円の年金が受け取れます。
■働いても働かなくても年金が一緒!?
さて、ここまで見てきて気づいたでしょうか。専業主婦の<ケース1>も、夫婦共働きの<ケース2>も、夫が亡くなって、妻がその後受け取ることができる年金額はどちらも12万5000円です。夫の老齢厚生年金の額は一緒です。この場合、働いて厚生年金保険料を納めて、少しでも自分の年金額を増やしてきた妻は、その分が遺族厚生年金によって相殺され、働かなかった場合と変わらないのでは、納得いかない人もいるでしょう。
さらにいえば、遺族年金は非課税、老齢年金は課税対象となるので、むしろ働いた方が損とまでいえるかもしれません。これは専業主婦が主流だった時代を引きずったままの制度であり、時代に合わなくなっているように思います。
■それでも働いた方がいい理由
専業主婦が得するケースは早いうちから遺族厚生年金を受給している場合です。先述したように、国民年金の平均受給額は5万6479円、満額でも6万5000円程度です。平均値をもとに仮説を立てれば、厚生年金と国民年金の平均額をもらっている同年齢の夫婦は、夫が男性の平気寿命である81歳で亡くなるまでの16年間は夫婦で約20万円の年金で生活することになります。
妻が遺族厚生年金をもらえるのは女性の平均寿命から考えると7年間なので、その倍以上の期間は夫婦で厚生年金をもらえる方が老後の生活は安定するでしょう。
また年金だけを見て損か得かを判断するのも早計です。当然ながら、働けば収入が増え、日々の生活が豊かになり、老後資金も貯めることができます。キャリアを築くことができれば、年齢を重ねるごとに収入が増えていき、経済的な自立を手に入れられるでしょう。