共通ポイントの2大巨頭である「Vポイント」と「Tポイント」が2024年春をめどに統合されるのを前に、統合後の新名称が「Vポイント」に決まった。名称こそVポイントの名を残しつつ、Tポイントのロゴで使われていた青と黄色のカラーとデザインを踏襲し、Tポイントの知名度を生かしながら、Vポイントのメリットを訴求するデザインにしたという。

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    Tポイントと統合した新ポイント「青と黄色のVポイント」が誕生へ

統合によって最もメリットを受けるのは「既存の7,000万のTポイント会員ではないか」と三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)執行役員社長グループCEOの太田純氏は指摘。ポイントの貯めやすさや使いやすさなど、Vポイントが「究極の使いやすさを実現できる」(三井住友カード代表取締役社長大西幸彦氏)とアピールしている。

会員数1.46億人、巨大共通ポイントが誕生

Tポイントは、2003年10月に登場した共通ポイントの先駆けのサービス。20年に渡って利用され、加盟店数も15万店まで拡大している。「1年に1回以上利用している」「複数のTポイントカードを保有していても同じユーザーであれば名寄せする」という独自の基準で、「ユニークなアクティブユーザー数」としては7,000万会員を有している。

同じ基準でVポイントのユニークなアクティブユーザー数を算出すると1,600万会員となり、両ポイントの合計で8,600万会員になる。ちなみに、他社は「有効会員数」で算出しており、同じ基準だとTポイントは1.26億、Vポイントは2,000万、合計1.46億会員という巨大共通ポイントネットワークとなる。

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    Tポイント独自の基準による会員数は7,000万。同じ基準でVポイントは1,600万になる

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    他社の基準に当てはめると、Tポイントは1.26億人、Vポイントは2,000万となるため、1.46億人になるという

2003年にTポイントを発行開始したカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の代表取締役会長兼CEOの増田宗昭氏は「当時、ポイントは発行した店でしか使えないし、汎用性がなかった。世界的に見たら(通貨の)円のようなもので、(基軸通貨の)ドルのようなものがあればいいというのが発想の原点だった」と話す。

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    ふたりの出会いで非常にスムーズに統合に向けた話し合いが進んだという。右がCCCの増田宗昭会長、左がSMFGの太田純社長

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    23年4月にCCCとSMBCの両グループの資本・業務提携が発表され、CCCMKホールディングスへ両社が資本参加、協業して事業化を図るほか、CCCMKとSMCCでポイント事業とマーケティング事業を開始すると発表していた

結果として、15万店で使えて貯められる共通ポイントに成長したが、楽天やドコモ、Pontaといった共通ポイントの競争が拡大して環境も激変。新たな対応が必要と判断し、SMFGのVポイントとの統合を決めた。

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    ポイントとしてはTが知名度と大きな会員基盤を誇り、VがVisa加盟店で使えるオープンなポイントというのが特徴としている

VポイントはSMFG傘下のSMBCグループ各社の共通ポイントとして、特に三井住友カード(SMCC)がクレジットカードの決済で貯まるポイントとして推進。加盟店を問わず、クレジットカードで決済すればポイントが貯まることから「経済圏を問わない」ポイントと位置づけている。

特に三井住友銀行は新リテール戦略としてOliveをスタート。「金融サービスのニュースタンダード」(太田社長)であるOliveを軸としたグループ戦略において、スマホアプリを前提としたデジタル口座、証券、保険など各種金融サービスを連携させる。そうしたサービスを有機的に接続するためのミッシングリンクだったのがポイントだと太田社長。

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    2カ月で50万を突破したOlive。今後、さらにもう一段の会員獲得を目指してキャンペーンなどの施策も検討しているという

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    Oliveによるリテールビジネスをつなぐピースとして新ポイントが位置づけられる

Vポイントはあったものの、知名度の面でまだ多くの利用者に届いておらず、抜群の知名度があるTポイントとの統合で、Vポイントの知名度を高めて利用をさらに拡大していくことが狙いだ。

Tポイントは、決済手段は問わず店頭でTポイントカードを掲示するなどしてポイントを獲得し、獲得したポイントを利用して支払いが行える加盟店が15万店。対するVポイントの場合、スマホアプリ経由でVisaの加盟店で支払いに使えるため、国内750万店、世界では200の国と地域の1億店で支払いに使える。こうしたVisa加盟店でSMCCのクレジットカードを使えばVポイントも貯めることができるので、加盟店という点では圧倒的。

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    Vポイントの場合、Apple Pay、Google Pay(Googleウォレット)に登録して店頭でのタッチ決済、カード番号を使ってのネットでの買い物が可能

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    Visa加盟店で使えるので、世界で1億店以上の加盟店で利用できる

そうした使い勝手の良さから統合を決めた増田会長。「20年間、Tポイントについてはかなりつうっ良い愛情はあるが、お客さんにとっては(国内)750万店、世界では1億店で貯まるサービスとしてお客さんに伝えるには、Vポイントの名前を借りた方がいい」と判断したという。名称はVポイントではあるが、「慣れ親しんでもらった青と黄色のロゴを使うことで新ロゴを作った」と増田会長は言う。

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    結果として、Vポイントの名前とVの文字を残し、ロゴのデザインと色をTポイントと共通化した新しい青と黄色のVポイントという名称にした

究極にシンプルに自由度の高いキャッシュレスライフ

そうして誕生する新Vポイントだが、SMCCの大西社長は、ポイント利用者にとって3つの魅力があるという。1つ目が「Visaで使える」という点で、「ひとことで言えばポイントを使う際のストレスがなくなる」と大西社長。

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    SMCCの大西幸彦社長

日本はポイント大国と言われており、決済でポイントが貯まれば嬉しいが、反面「ちょっとしたストレスがある」と大西社長は指摘する。それは使える場所が決まっていることに起因する、という。

例えばAモール(具体的に言えば楽天市場など)のAポイント(楽天ポイント)が貯まったからAポイントの使えるAモールで家電を買った、という場合でも、値段自体はBモール(PayPayモール)の方が安かったというケース。

また、Cポイントの有効期限が近かったので、Cドラッグでいつでも使える消耗品をポイントで買った、というケース。大西社長はこの両ケースについて「損をしているわけではないが、実はポイントに行動を誘導されている。知らず知らずのうちにポイントやポイントを運営する企業に行動が操られているという風にも思える」と話す。

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    ポイントに行動を誘導されるのはストレスになる、と大西社長

こうした点で感じるストレスを、「Vポイントは完全に解消している」と大西社長は胸を張る。使える店舗に関しては世界中のVisa加盟店。どの店でも、どのオンラインサイトでも利用することができる。

リアル店舗では、Apple PayやGoogleウォレットに登録することで、Visaのタッチ決済対応店舗で利用できる。カード番号が発行されるので、オンラインショッピングでもカード番号を使って利用可能。

世界に比べて遅れ気味だった日本のタッチ決済だが、国内でも対面決済に占めるタッチ決済に比率が2割近くになった。「諸外国の例を見ると、このタッチ決済比率が20%を超えたあたりから一気に利用率が上がっている」と大西社長。このことから、「今後間違いなくカード利用はタッチ決済が主流になる」(大西社長)。

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    世界ではVisaの対面決済の70%以上がタッチ決済という国も増えている

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    日本ではほとんどのVisaカードがタッチ決済に対応。利用率も2割近くまで達っている

2つ目の魅力が「キャッシュレス」。Tポイント会員にとっては、三井住友カードやOliveを利用することで、決済や金融サービスの利用でさらにポイントが貯まるようになる。例えば三井住友銀行を給与受取口座にすれば年間2,400ポイント、大手コンビニのタッチ決済利用で決済金額の7%還元などがある。

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    Oliveとの組み合わせで様々な金融サービスでもポイントが貯められる

さらに、新サービスも準備する。T(新V)ポイント加盟店におけるカード掲示で0.5%、クレジットカードのタッチ決済で0.5%のポイントが貯まる加盟店で、条件次第でさらに0.5~1%のポイント還元を上乗せる施策を提供する予定。

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    さらにポイントが貯まるような施策も検討

もう一つが、ポイントカードを提示し忘れても、カード明細からポイント申請してポイント還元が受けられる「あとたま」機能。こうしたサービスも用意し、Tポイント会員がさらにポイントを貯められるようにしたい考え。

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    ポイントカードの出し忘れ問題を解消するサービスも

3つ目のメリットが、「従来のポイントという枠を超えた進化」(大西社長)。現在、決済アプリとポイントアプリが乱立する日本市場。スマホアプリにも複数のアプリがインストールされていることが多い。

Vポイントアプリは、決済アプリとしても利用でき、クレジットカードや銀行口座から残高をチャージしてVisa加盟店での決済に利用できる。ポイントが中途半端でもチャージすればポイントを無駄なく使いきれるため、「究極の使いやすさを実現」と大西社長はアピールする。

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    ポイントアプリと決済アプリを1つにまとめられるのがVポイント

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    ポイントを含む複数の手段で残高をチャージしてVisa加盟店で支払える

Vポイントを決済で使う新機能としては、「ワンオペレーション」を提供。従来、決済時にポイントのバーコードを掲示してから決済アプリで支払うが、Vポイントで支払う場合、バーコード提示と決済の双方を一度で完了できる機能。Vポイントでの決済時限定だが、Tポイントカードを掲示しなくて済む。

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    ポイントを貯めるためにバーコードを見せなくても、Vポイントでの支払いなら一度にポイント獲得も可能に

ポイントの送金機能も準備しており、Vポイントを相互にやりとりできるようになる。大西社長は割り勘時の送金などでも活用できるとして、「Vポイントは世界中のVisa加盟店で使えて、チャージして足して使えるので、使い道に困ることはない」と話す。

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    ポイント送金機能も

3つ目の新機能としては、「家族のお金の見守り機能」として、特に親から子どもに対してVポイントや残高を送金して、子どもがポイントを使った決済、ポイントの獲得をできるというもの。利用ごとに通知が来るため、子どもの利用が把握できる。

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    子どもにポイントを付与して、そのお金の流れを見守れる機能

「貯めるポイントをVポイントに、決済アプリもVポイントにすることで、究極にシンプルに自由度の高いキャッシュレスライフを過ごせる」(大西社長)。

加盟店にもメリット、プライバシー保護は最優先

利用者側だけでなく、加盟店側にもメリットがある。まずは会員基盤の拡大で、Visa加盟店が追加されることで加盟店が拡大。使える場所、貯まる場所が増えることで会員規模の拡大が期待できる。

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    200以上の国と地域、1億店以上で使えるVisaの加盟店という巨大ネットワーク

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    加盟店の拡大によってユーザーも拡大、集客も増加するとしている

Tポイントではモバイル対応を進めており、2016年からモバイルTカードサービスを提供してきたが、コロナ禍での直近3年間では利用率が350%以上と急増している。アクティブ会員の4人に一人がモバイルTカードを登録しているということで、これを利用者100%に近づけることが目標。

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    モバイル化を進めることで利用率は向上する

「加盟店にとって事業を支援するインフラでありたい」とCCCMKホールディングス代表取締役社長兼CEOの髙橋誉則氏。使える場所が増えて、ポイントの総量が増えることで、加盟店にとって送客が拡大。これによってマーケティングが進化して売上が上がる――そうした好循環を生み出す支援をすることが同社の狙い。

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    好循環を生み出すインフラを目指す

現状のTポイント加盟店は15万店だが、さらに上新電機、ベネッセ、ほっかほっか亭などが参加する予定で、「さらに参加を検討している企業も多数ある」(髙橋社長)という。こうした加盟店拡大も両社で協働して進めていく。

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    既存の加盟店

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    さらに複数の事業者が参加予定

Tポイントはマーケティングツールとしても活用されてきた。その基盤となるのはTポイント7兆円規模のレシートデータ。これに加えて三井住友カードが保有するクレジットカードなど30兆円規模の購買データがあり、Tポイントの「深いデータ」とSMCCの「拾いデータ」を有効活用して、新たなコンサルティングサービスやマーケティングサービスなどを提供していくという。

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    TポイントとVポイントのデータを活用した様々な加盟店向けサービスも提供

こうしたデータの活用に関しては、利用者の情報をどのように使うか、「しっかりとしたコミュニケーションを行って伝えていく、説明していくことが最も重要」と髙橋社長は指摘する。

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    CCCMKホールディングスの髙橋誉則社長

年内をめどに、オンラインのプライバシーセンターを立ち上げる予定。利用者自身で、自分の情報がどのような目的で使われているかなどを確認できる環境を用意するという。加えて第三者機関として、有識者を集めたアドバイザリーボードを設置し、幅広い意見を集めて個人情報、プライバシーの保護を最優先した形で取り組んでいく考えだ。

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    利用者から信頼を得られる環境構築にも努めるという

髙橋社長は、「モバイル上でポイントとキャッシュレスが融合するサービスをスタートして、約5年後をめどにモバイル利用率100%を目指す。そのためにお客様にとって使いやすい便利な環境を用意していきたい」と強調する。

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    モバイル利用率100%を5年後にも達成することを目指す

共通ポイントは、楽天ポイント、dポイント、Pontaポイントに加えてPayPayが算入しており、Tポイントはやや押されていた状況だった。金融サービスとの連携においてポイントが重要な鍵になると判断したSMFGが、知名度とユーザー規模で勝るTポイントを取り込むことを決めた格好だ。

各共通ポイントも、決済単独ではなく金融サービスとの連携を重視しており、今後の主戦場として競争がさらに激化してきそうだ。