駒の動かし方と基本的な戦法は分かったけど、ネット対局などで人と対戦するとなかなか勝てない‥‥なんてことありませんか? この記事では、マイナビ出版刊行の将棋に関する書籍より、対局に活かせる戦法や考え方に関する内容を抜粋して、お伝えします。この記事を読まれている皆様なら、「大局観」という言葉を一度は耳にされたことがあるかと思います。「大局観」とは、簡単に言えば、ひとつの局面における形勢をどう見るか。
正しい大局観を身につけよう
将棋情報局にお越しになる皆様なら、「大局観」という言葉を一度は耳にされたことがあるかと思います。
「大局観」とは、簡単に言えば、ひとつの局面における形勢をどう見るか。
さまざまな指標をもとに、目の前の局面は自身が優勢なのか、劣勢なのか、互角なのか。またそれぞれ、大差なのか微差なのか、まったくの互角なのか・・・
正しい大局観をもとに、局面局面において形勢を正確に見極めることができれば、その後の指し手の方針も立てやすくなり、勝率もあがることでしょう。逆に、誤った形勢評価から、本当は優勢なのに悲観して受け身になる、もしくは攻め急いでしまったり、劣勢なのにゆっくり構えて勝負手を逃してしまうようでは、勝利をものにすることは難しいでしょう。
下の第1図、第2図は、先手側から見てどちらかが優勢、どちらかが劣勢の局面です。いずれもプロ公式戦で現れた局面です。
さて、どちらがどちらでしょう? 皆様の「大局観」は、正しく働きますか?
いかがでしょうか。
それでは、以下より第1図、第2図の正しい形勢評価とその後の指し方の方針を紹介いたします。
優勢な局面・・・相手の主張を消して差をつけよう
まず、問題の解答を発表いたします。
いずれも、2005年にプロ編入試験により四段昇段を果たした瀬川晶司六段が指した公式戦で現れた局面で、
優勢・・・第1図
劣勢・・・第2図
でした。
それではまず第1図のほうから、なぜ優勢なのか、そしてその後の方針を見てゆきましょう。
形勢評価の指標は、主に以下の3つ。
1、駒の損得
2、玉の堅さ
3、駒の働き
これをもとに、第1図の形勢評価をすると・・・
「駒の損得」は桂得の先手が有利、「玉の堅さ」も、金銀が安定している先手に分があります。後手は3二金を攻められるとたちまち寄せられてしまいそうな点が懸念材料です。
しかし「駒の働き」は、飛角を持駒にしている後手がやや良いと言えるでしょう。先手の玉頭でピカピカ光る【6六歩】も不気味な存在です。
総合すると、3つの指標で【2対1】と上回り、リードを許している「駒の働き」もそれほど差をつけられているわけではないので、先手優勢といえる局面です。
第1図ではいろいろな指し手が見えるところです。直接的に寄せを狙う▲2四桂、後の△3四角(飛車取り&6六歩と連動して怖い手)を消しながら後手玉をにらむ▲3五飛・・・などなど。
しかし、▲2四桂は△3三金(参考1図)と立たれて意外と大したことがなく、また▲3五飛には△6七角の勝負手があり、以下▲同銀△同歩成▲同玉△6六歩と整然とした陣形を荒らされて、優劣はともかく先手もイヤな思いをすることになります。
では、第1図からさらに差をつけるには、どうすれば良いでしょうか。ヒントは、慌てず騒がず、「相手の主張を消す」です。
第1図からの指し手
▲5六馬 (第3図)
▲第1図は形勢評価の3つの指標が【2対1】で「先手優勢」。リードを許している「駒の働き」、つまりピカピカ光る【6六歩】の良さを消してしまえば【3対0】! 局面は優勢から大優勢に変わります。
優勢な局面から電光石火の寄せで勝つのは痛快ですが、参考2図のような危険も付き物ですし、つんのめって逆転を許してしまうことも多々あるでしょう。▲5六馬のような手厚い指し方を取り入れることができれば、取りこぼしが少なくなります。
ここでは、優勢な場合に「相手の主張を消す」方針を紹介しましたが、優勢を勝利につなげる方針はこのひとつにとどまりません。
1、決めどころを見極める
2、自分の主張を広げる
3、相手の主張を消す
局面局面において、正しい形勢評価をもとに、1、2、3のどの方針で勝利につなげるかを判断する必要があります。
劣勢の局面・・・自身の主張を死守してチャンスを待つ
続いて劣勢の第2図を見てゆきます。
この局面がなぜ劣勢なのでしょうか。判断材料は、3つの指標。
「駒の損得」は飛桂交換で先手の大きな駒損、また持ち歩の枚数で差をつけられている点もマイナス材料です。次に「駒の働き」ですが、先手は2九桂が出番を逸しており、その上、その桂が将来的に後手の2五飛に取られてしまいそう、ということで、先手は後手に大きくリードを許しています。唯一、玉の堅さは、四枚美濃+金銀3枚分の守備力といわれる馬が付いた先手が大きくリードしています。
形勢評価の3つの指標は【1対2】。「玉の堅さ」で大きくリードしているものの、他の2つでは逆に大きくリードされているため、第2図は先手劣勢の局面です。
仮に第2図で、戦力不足ながら「玉の堅さ」を頼りに攻めていくとどうなるでしょうか。
第2図からの指し手
▲5五桂 △5四金 ▲6三桂成 △同 金
▲3三馬 △4四角(参考3図)
手に乗って後手に駒をさばかれた参考3図は敗勢ともいえる局面。▲3四馬と銀を取り返すことはできますが、以下△7五桂▲9八玉△2九飛成(参考4図)まで進むと、先手の唯一の主張であった「玉の堅さ」も消えてしまいます。
では、どうするか。唯一の主張である「玉の堅さ」を死守する一手はこちら。
第2図からの指し手―2
▲7六歩 (第4図)
瀬川アマ(当時)の選択は、とにかくのちの△7五桂を打たせず堅陣を維持する力のこもった一着でした。
▲7六歩という指し手自体は善悪の判断が難しいところですが、そもそも劣勢の局面というのは自身に「いい手がない」、相手ばかりに「いい手がある」局面で、相手にミスが出ないと勝てないのです。実戦的にじっと我慢して相手のミスを待つという姿勢も時には必要になります。
実際、この対局も▲7六歩に対し後手が自陣に手を入れれば依然として先手劣勢の局面が続いたようですが、実戦は△4四角とさばきを目指したため、以下▲同馬△同金▲5一角△4三金▲5五桂(第5図)と進んで形勢混沌、最後は瀬川アマが逆転で勝利をつかんでいます。
優勢な場合と同じように、劣勢の局面でも、逆転につなげる方針は複数あります。
1、主張を残す
2、確実な攻めを見せて相手を焦らせる
3、王手のかかりやすい形にする
ここで紹介した1のほか、2や3、どの方針で逆転を目指すかを、局面によって見定める必要があります。
スラスラ読んで、じっくり並べて身につける「正しい大局観」
本稿で紹介した局面、手順は、すべて4月30日発売の『形勢評価をパターン分け! 将棋・大局観養成講座』からピックアップしました。(Amazonの書籍紹介ページはこちら)
書名、テーマを見るととても難しそうな一冊のように見えますが、著者の瀬川晶司六段が聞き手と会話する形で解説が進んでゆくため、大変読みやすい作りです。読了するのにもさほど時間を要さないでしょう。もちろん、1周ナナメ読みするだけでなく、2周、3周と繰り返し読むことで、正しい大局観、その後の方針を立てる力がより身に付くことはいうまでもありません。
実際の誌面はこちら。
目次は以下の通り。
本稿で早足に紹介した2局を含め、優勢8局、劣勢8局、そして紹介できませんでしたが、互角12局の全28局。その全ての局面で、プロによる確かな形勢評価、その後の方針、指し手、丁寧に解説されています。実際の誌面をご覧いただきますとお分かりの通り、本稿と違い、変化手順の解説も大変充実しています。
また、先に「読了に時間を要さない」と記しましたが・・・
本書には全28局の解説付き総譜が掲載されています!
・・・ので、それもあわせて活用すれば、何倍ものパワーアップが見込めます。
プロの丁寧な解説により優勢、劣勢、互角を正確に見極める眼を、さらに正しい方針を立てる判断力を手にして、たくさんの勝利をつかんでください。
執筆:富士波草佑(将棋ライター)