「500」(チンクエチェント)などコンパクトカーのイメージが強いフィアットが、大柄で背の高いマルチパーパスビークル(MPV)の「ドブロ」を日本で発売した。同じステランティスグループのプジョーやシトロエンにも似たような車種があるが、フィアットならではの個性とは? 試乗してみた。

  • フィアット「ドブロ」

    大きなフィアットが日本に! 「ドブロ」ってどんなクルマ?

「ムルティプラ」以来のフィアットMPV

ステランティスグループがドブロの日本導入を決めた。フィアットのMPVといえば、個性的なフォルムと前後3人掛けの6人乗りというパッケージングで一部のクルマ好きから注目された「ムルティプラ」が2000年代にあったので、それ以来の日本上陸となる。

  • フィアット「ドブロ」

    フィアット「ムルティプラ」

輸入車にくわしい人はドブロの写真を見た瞬間、何かに似ていると思っただろう。そう、同じステランティスのプジョー「リフター」およびシトロエン「ベルランゴ」と基本設計を共通としているのだ。日本車でいえばトヨタ自動車「bZ4X」とスバル「ソルテラ」、日産自動車「サクラ」と三菱自動車工業「eKクロスEV」のような関係なのである。

  • フィアット「ドブロ」
  • フィアット「ドブロ」
  • 左がプジョー「リフター ロング」、右がシトロエン「ベルランゴ ロング」

これら3つのブランドによる共同開発は今回が初めてではない。「フィアットプロフェッショナル」という商用車ブランドの「デュカト」(日本でも販売中)には、初代が登場した1980年代からシトロエン版、プジョー版があり、欧州で売られている。ステランティスが結成される2021年よりかなり前から、3社にはつながりがあったのだ。

ただしドブロに関しては、初代と2代目についてはフィアット独自の設計だった。その後にステランティス結成となり、コンポーネンツの共用化が進む中で、通算3代目となる新型は、リフターやベルランゴと基本的には共通のボディやメカニズムを持つことになったというストーリーだ。

欧州はもちろん、日本でもプジョー・シトロエンとフィアットの販売店は、どちらもステランティス発足以前から存在していたので、別々だ。基本設計が同じ車種を複数のネットワークで販売するメリットは、上に紹介したように、日本メーカーも実施しているわけで、多くの人が理解できるだろう。

道具感の強いあっさり仕立て

では、ドブロとフランスの兄弟車たちとの間には、どんな違いがあるのだろうか。

最大の違いはフロントマスクだ。フランス勢に比べると全体的にシンプルな造形で、ヘッドランプの間はプレーンなパネルにフィアットのロゴが入る程度。そしてバンパーは、リア同様ブラック仕上げだ。

  • フィアット「ドブロ」
  • フィアット「ドブロ」
  • 「ドブロ」は全体的にシンプルな造形

リフターとベルランゴのライバルが、欧州でも日本でもルノー「カングー」であることはいうまでもない。そのカングー、今年上陸した新型では、ブラックバンパーの「クレアティフ」とボディ同色バンパーの「インテンス」を用意している。

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    ルノー「カングー」の「クレアティフ」

なのでドブロには、カングーのクレアティフ対抗という意味も込められているのではないかと思った。つまりレジャーユースだけじゃなく、ワークユースにも似合いそうな気がした。

また、フィアットはデュカトでキャンピングカー市場に入り込んでいるので、ドブロはミニキャンパーのベースとしても注目を集めるかもしれない。いずれにしてもフランス生まれの2車種より、素材としての魅力を前面に押し出したキャラクターに映った。

サイドやリアはベルランゴに近いが、サイドモールは「エアバンプ」と呼ばれるアクセントがないなど、さらにシンプルだ。ちなみにリフターはサイドモール、リアコンビランプなどが異なり、フェンダーアーチが加えられるほか、車高がやや上がり、タイヤは台形になるなど、SUVらしさを強調した仕立てになっている。

  • フィアット「ドブロ」

    「ドブロ」のサイドはさらにシンプル

2列シート5人乗りと3列シート7人乗りが用意されることも、リフターやベルランゴと同じ。車名は前者が「ドブロ」、後者が「ドブロマキシ」だ。

今回乗ったドブロマキシのボディサイズは全長4,770mm、全幅1,850mm、全高1,870mm。トヨタのミニバンでいえば幅は「アルファード」と同じだが、長さや高さは「ノア」に近いので、それほど大きいわけではない。

リーズナブルな価格も個性?

インテリアはブラック基調で、ドアのグリップ部分やシートのステッチにブルーのアクセントを控えめにあしらう程度。ここでも素材感が際立つ。少なくとも500のようなキャラクターづけはなされていないが、かつては日本にも輸入されていたフィアットのミドルクラスセダンは、こういうデザインテイストだった。

  • フィアット「ドブロ」
  • フィアット「ドブロ」
  • フィアット「ドブロ」
  • 「ドブロ」のインテリア

エンジンは全車、ディーゼルの1.5リッター直列4気筒ターボで、8速ATとのコンビで前輪を駆動する。最高出力や最大トルク、ATのギア比、タイヤサイズ、車両重量などのスペックはベルランゴのロングボディと同じなので、加速感はそれと変わらない。

  • フィアット「ドブロ」

    「ドブロ」のエンジン

ただ、乗り心地とハンドリングについては、試乗車の走行距離が短いこともあってか、記憶の中にあるベルランゴのロングボディとはけっこう違った。乗り心地はゆったりした揺れがシトロエンらしいベルランゴと比べると、ドブロは路面の感触を伝えながら走る感じ。一方のハンドリングは、長い車体を感じさせない軽快な身のこなしが印象的だった。

ちなみにリフターは外観が示しているとおり、乗り心地もハンドリングもややSUV的。3兄弟の中では、デザインもそうだが、道具としてサクサク使い、キビキビ走るのが似合うクルマだった。

インポーターがドブロを導入する理由としては、フィアットのアイコン的存在であるコンパクトカーの500からステップアップするクルマとしての役割を担わせたいとの思いがあるようだ。でもドブロに実際に触れると、キャラクターが明確な500とは対照的に、自分でキャラクターを描いていく大きなキャンバスのような存在なのではないかと感じた。つまりフィアットでいえば、歴代「パンダ」に近い立ち位置のクルマなのではないだろうか。

標準ボディでは400万円を切るドブロは、同カテゴリーの輸入車では割安なクルマとなる。価格も含めて、素材の良さをいかしてセンスよく使いこなすのが楽しいクルマなのだと思う。