ワコムは6月10日、大規模オンライン作画フェス「Drawfest4」をピクシブと共同開催しました。本稿ではYouTube Liveにて限定配信されたプログラムの中から、インディーゲーム「OMORI」を手掛けたマルチメディアアーティストのOMOCATさんが講師として登壇したStudy dayセッションの模様をお伝えしましょう。
OMOCATさんが語る「OMORI」誕生秘話
Drawfestは、毎年恒例となっている視聴者参加型の無料オンラインイベントです(事前登録制)。視聴者はStudy dayで学んだことを活かして作品を仕上げ、pixivに投稿。翌週のFeedback dayでは、そんな視聴者から寄せられた投稿作品の中から受賞作品が選出されます。
Drawfest4参加者が投稿したイラストを、各登壇者が選考し受賞作品を決めるpixivのイラスト投稿企画「Draw!Draw!Draw!」には、今年も「Wacom One 液晶ペンタブレット13」をはじめとした豪華賞品が用意されました。詳細は公式サイトを参照ください。
6月10日 9時から開催されたセッションには、OMOCATさんがVTuber姿で登場。「OMORIが生まれるまで:自分のヘッドスペースを描いてみよう」というテーマで、インディーズゲームOMORIの制作秘話を披露。OMORIをプレイしたゲームファンにはもちろん、インディーズゲームに興味があるクリエイターにとっても参考になる内容となりました。
なお、本稿にはゲームのネタバレ要素が含まれておりますので、その点はご留意ください。
まずはOMORIの紹介から。2020年にSteamにてMicrosoft WindowsとmacOS向けにリリースされたRPG作品で、2022年にはNintendo Switch、PlayStation 4などでも発売。その販売本数は100万本を突破しています(2022年12月末現在)。引きこもりの16歳の少年(サニー / オモリ)が夢と現実の世界を冒険するストーリー展開に、世界中のファンが魅了されています。
OMORIの世界観は、どのようにして生まれたのでしょう?これについてOMOCATさんは「多種多様なジャンルやテーマが入り混じっているので、説明するには複雑すぎるのですが」と断ったうえで、高校生のときに授業中に居眠りをしていたら何もない白い部屋に立っている自分に気が付いた、そこから世界が広がっていった、と明かします。
OMORIというキャラクターは、悩める若者だったかつての自分を色濃く投影したもの。やがてキャラクターの孤独感を感じ、「彼のために世界を創り上げたい」という思いで白い部屋を想像で埋めていった、と振り返ります。
イラストは、ひとつのマンガ作品に結実。短編コミック「OMORI'S Story」を描くことで、主人公には個性的な友人が増えました。そして、ついにゲーム開発の構想が(まずはOMOCATさんの頭の中で)立ち上がった、とのことでした。
ゲームは、カラフルな世界「ヘッドスペース」、悪夢の世界「ブラックスペース」、現実の世界「ハルバル町」から構成されます。ヘッドスペースは思いつきの空想を大事にしたもので、参考資料は使わずに夢の中の意識の流れに身を任せて描いていきました。
そしてブラックスペースは自分が感じている恐怖、幼少期に見た悪夢の記憶からインスピレーションを得たもので、ハルバル町はアメリカの郊外に感じる懐かしさをもとに想像した、と説明します。
OMORIの制作チームが結成されたのち、作品のコンセプトを練っていく際には、メンバー各々が自分の中の「子供」を解放するブレストセッションを行ったそう。「理由や目的を求めない馬鹿げた楽しいシナリオを作って、お互いの笑いを誘ったりしていました。そこで良いアイデアが生まれればゲームにも取り入れました」とOMOCATさん。明るくクリエイティブな現場の雰囲気が伝わってくるエピソードですね。
ゲーム音楽のほうが先に出来た、というのもファンにとっては興味深い事実。OMOCATさんはしばしば、出来たての曲をリピート再生してシナリオやイメージを膨らませていったそうです。
「ゲーム音楽はOMORIの世界を想像するうえで非常に重要な役割を果たします。そこで曲で表現してもらいたい雰囲気を伝えるため、たくさんのサムネイルも描きました。ゲーム音楽は、エリアの見え方にも影響を与えます。そればかりか、ストーリーに影響を与えたこともありました」(OMOCATさん)。たとえば『スイートハート』は当初、追加ボスとして考えていたものの、その戦闘曲があまりに素晴らしすぎたため、物語の必須要素に変更したとのことです。
「最終的にシナリオは『ありえそう』と思わせるアイデアが採用されました。これにより、物語はより恐ろしいものになりました」とOMOCATさん。OMORIはホラーゲームであるため、現実世界の私にも起こりうる話かも知れない、という恐怖を感じると口にします。
続いては、キャラクターづくりについて。『ポケットモンスター』のレッドや、『ゼルダの伝説』のリンクのような“無口な主人公”が昔からのお気に入りとのこと。本作の主人公サニーも沈黙を個性の一部とする男の子として生み出した、彼の不器用さや物腰は高校生の頃の自分であり、髪型や服装は小学校時代の友人に基づいている、と説明します。
「同様に、すべてのキャラクターは私自身や、私の人生に関わる人々からインスピレーションを得ています。OMORIの登場人物たちは、私の頭の中で長い時間をかけて進化したもの。どうやったら他の人たちにも、とても愛すべき彼らの存在を知ってもらえるのだろう、と思いました」(OMOCATさん)
ゲームの開発プロジェクトが立ち上がるまで、OMORIを頭の中でロールプレイングしていたというOMOCATさん。「カットシーンの展開、キャラクターの表情、会話内容、動きなど、毎晩のように頭の中でプレイしては修正し、ストーリーとゲームプレイが調和しているか確認していました」と語ります。アイデアが浮かんだらシャワーをしているときでもノートに書き留め、それが良いアイデアなら夜中の3時でも作業を始めたというから驚きです。
講座の最後には、「世界にはもっとユニークで素直なアートが必要です。英語には『月を目指せ。失敗しても星になる』というフレーズがあります。夢が続く限りどこまでも進み続けましょう。転んでしまっても新しい魅力的な場所にたどり着くことができるかも知れません。諦めるまで終わりではありません」とまとめました。
付け加えたい要素はある?
ライブ配信は500名を超える視聴者を集めました。コメント欄には「素晴らしい講座でした」「楽しい時間でした」「あっという間だった」「グッズほしい」「貴重な機会でした」「OMORIに出会えて本当に良かった。素晴らしい作品をありがとう」「私の人生に影響を与えた大好きな作品です」といった感想のほか、たくさんの質問が寄せられました。
「開発中楽しかったこと」について聞かれると「物語にとって重要なシーンを作り上げているとき」が楽しく充実していたと回答。また、ゲームのバグを修正しているときが辛かったと苦笑いしました。キャラクターのデザイン、個性はどのように作ってきたか、という問いかけには「現実の体験、経験などから着想を得て、それらを組み立ててきました」と答えます。
もし開発時間がもう少しあったなら付け加えたい要素はありますか、という質問には「あまりにも私のすべてをこのゲームに捧げたので、すでに頭が壊れてしまっているのかも知れませんが、これ以上ゲームに付け加える要素はありません」と回答。この作品は我が子と同然、そんな気持ちで世の中にリリースしました、と話しました。
参加者の頭の中をイラストで表現!
Drawfest4のStudy dayセッションはこれにて終了。ここで司会進行は、翌週のFeedback dayセッションに向けて、参加者の頭の中にあるカラフルな世界「オリジナルヘッドスペース」をイラストに描いてください、是非ご自身の思い出、出会った人たち、体験したことを掘り起こして、自由に作品に落とし込んでみましょう、と呼びかけました。