マツダの新型SUV「CX-60」は最上級グレードのプラグインハイブリッド(PHEV)が600万円を超える“高級車”なのだが、最も安い「25S」というグレードは299.2万円と半額以下で買えたりもする。同じモデルでこの価格差! かなり気になるので25Sに乗ってみた。

  • マツダ「CX-60」

    マツダ「CX-60」の最安グレードは最上級の半額以下!(本稿の写真は撮影:原アキラ)

上位グレードは内外装と走りにギャップあり

縦置きの大排気量マルチシリンダー、後輪駆動プラットフォーム、湿式多板クラッチ採用の8速ATなど、数多くの新機軸を採用して2022年9月に登場したCX-60。マツダが「ラージ商品群」の第1弾として投入した新型SUVで、パワートレインは2.5L直列4気筒ガソリンエンジンの「25S」、3.3L直列6気筒クリーンディーゼルエンジンの「XD」、同エンジンのマイルドハイブリッド(MHEV)版「XD-HYBRID」、2.5L4気筒ガソリンのプラグインハイブリッド版「PHEV」の4種類から選べる。

さらに駆動方式にはRWD(後輪駆動)と4WDがあったり、内外装のトリムレベルにも色々と選択肢があったりして、ラインアップは計23種類とびっくりするほどの数になっている。価格は299.2万円~626.45万円。エントリーから最上級グレードまで、2倍以上の価格差があるのにも驚かされる。

これまでは6気筒ディーゼルMHEVなどの上位モデルを試すことが多かったのだが、印象としては、直列6気筒・後輪駆動ベースらしいロングノーズ・ショートデッキ(「CX-5」並みのサイズではある)のクラシカルかつ優雅なスタイルに惚れ惚れしたり、乗り込めば「マツダ車史上最高」をうたう隅々まで贅を尽くしたタンカラーやオールホワイトのプレミアムモダンな内装に思わず頬を緩めたりと、価格に見合った高級感には大いに感服していた。

  • マツダ「CX-60」
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  • ディーゼルMHEVの「プレミアムモダン」というモデルはこの高級感。「25S」との比較のためにも覚えておいていただきたい

しかし、逆の意味で驚かされたのが乗り味だ。試乗直後のメモを見返してみると「直6の回転フィールが思ったほどスムーズではない」「アイドリングストップからの復帰の振動が今時にしては珍しく大きい」「良路ではスムーズだけど、荒れた路面や少し大きな段差を通過する際にはガチガチの足から伝わるショックが盛大。特にリアからの突き上げが酷い」など、おおよそ「プレミアム」をうたうクルマにはあるまじき内容だった。

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    ディーゼルMHEVの試乗では、内外装の高級感と走りのギャップに驚いた

CX-60上位モデルの多くは走行姿勢を安定させるため、リアサスの取り付け部5カ所に「ピロボール」(金属製のボールジョイント)を採用し、ハードなリアスタビライザーを装着しているとのこと。それによるスポーツカーのような硬めの乗り味と、プレミアム感満載の内外装(発表会見もプレミアム感押しの内容だった)のギャップに驚いたというのが正直なところだ。マツダ車のファンには、欧州車のような硬めの走り味を求めている方が多いのか、購入者からその点についての「ご意見はほとんどない」(マツダ広報)とのことでちょっと安心したのだが、やっぱりこれ、気になるといえば気になる。

足回りはロードスター「990S」ばり?

聞けばディーゼルエンジン搭載グレード「XD」の2WDと4WDの一部、ガソリンの25S全グレードでは、ピロボールを使うのは1カ所だけで、あとは通常のブッシュを採用しているとのこと。さらに、リアのスタビは外されているそうだ。それなら、同社の「ロードスター 990S」(リアのスタビを外し、KPCをいかしたヒラヒラ感のある走りが特徴)を試乗した時のようなしなやかな走りを、今回も味わえるのでは……(CX-60もKPCを採用している)。そんな期待をして乗ったのが、今回の「25S Sパッケージ」である。

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  • 試乗した「CX-60」の「25S Sパッケージ」。ボディサイズは全長4,740mm、全幅1,890mm、全高1,685mm

試乗したのは299.2万円の最安グレード「CX-60 25S Sパッケージ」。「マシーングレープレミアムメタリック」の塗装代5.5万円を追加した本体価格は304.7万円だ。これに「セーフティパッケージ」「パワーリフトパッケージ」「ボーズサウンドシステム」など55万円相当のオプションが付いて、合計価格は359.7万円となる。それでも、先の上位グレード(500~600万円台)に比べたら相当にお買い得といえるだろう。

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  • 価格は299.2万円から。試乗した個体はオプション込みで359.7万円だった

安いとはいえ、25Sのエクステリアはほとんどショボさを感じない。細かな縦バーのブラックフロントグリルやクロームのシグネチャーウイングは上位モデルと同じ意匠。無塗装のロワーバンパーやサイドシグネチャー、リアマフラーエンドなどは、逆にラギッドなSUVらしさを醸し出している。

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  • エクステリアはショボさを感じない仕上がりだ

一方でインテリアはかなり差がある。上質なタンやホワイトレザーの内装を見てしまったあとでは、ブラックの硬質な樹脂を使用したダッシュやドアパネル、全面ファブリックのシートなど、相当に割り切った仕様であることに気付かされる。

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  • インテリアはけっこう割り切っている。上の方にある「プレミアムモダン」の内装と見比べてみていただきたい

それでも、先入観を持たずに25Sを見れば、トータルデザインの秀逸さやテカリを抑えた各パーツのレイアウトが見事で、決して貧相な感じはしない。ちなみにメーターは上位モデルのようにフルデジタルではなく、CX-5同様、センターだけがデジタルで左右のタコメーターと燃料・水温計は機械式の丸型3眼式を採用していた。これはこれで見やすいので問題ない。

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  • メーターは中央がデジタル、両サイドが機械式の丸型3眼式

さて肝心の走りなのだが、結論からいうと、上位モデルにあったような強烈な突き上げ感はほぼ影をひそめ、かなりしなやかになっていた。先に述べた足回りの変更(ピロボールよりもスタビがないことの方が大きな要因ではないかとマツダ広報)だけでなく、2トン超えのPHEVや1.9トン超えの6気筒MHEVモデルに比べ、25Sの1.7トンという圧倒的な軽さも効いているようだ。さらに、25Sが235/60R18というエアボリュームのあるタイヤ(試乗車はヨコハマ「ADVAN V61」を履いていた)を採用していることや、試乗車が走行距離2,300kmを越えて各部がなじみつつあることなどが、走りのしなやかさにつながっているのだろう。

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  • 「25S」は軽快感があってしなやかな走りが特徴。タイヤの違いも影響しているようだ

ボンネットを開けてエンジンカバーを上げると、運転席に近いフロントミッドシップに搭載された直列4気筒の2.5L SKYACTIV Gエンジン(最高出力188PS、最大トルク250Nm)がその姿を現す。2気筒分の空間が前方にすっぽりと空いているのを見ると、特に「CX-60は6気筒が命」と思っている人などは、ちょっと残念な気持ちになるかもしれない。だけど熟成されたこの4気筒ガソリンエンジンは静かで活発で、試乗した箱根ターンパイクの登りでは5,000回転前後で快音を発しつつ楽しい走りを披露してくれた。車重に対して出力は少し非力だけれども、最終減速比をローギアードに設定しているので痛痒をあまり感じないのだ。その身のこなしはまるで「背の高いロードスター990S」、というと言い過ぎかもしれないが、近いものはある。

  • マツダ「CX-60」
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  • マツダの4気筒ガソリンエンジンは熟成が加わって完成度が高い

そしてもう少し言うと、目の前にあるのはプレミアム感を感じさせないブラック基調のシンプルな内装なので、高級車然とした滑らかな乗り味への期待も過度に高くならない。こうした心理的な動きもあってか、25Sの走りには「これはこれでいいのでは?」という割り切りが自分の中に生まれたことも確かだ。

この日は東名高速、小田原厚木道路、箱根ターンパイク、西湘バイパス、国道1号など、さまざまなシチュエーションを選んで170kmほど走り、使える場面ではACCを稼働させた。トータルの平均燃費は11.1km/Lと公称の14.2km/L(WLTCモード)に比べると少し残念な数字になったのは、「Mi-DRIVE」で「スポーツモード」を選び、アクセルを深く踏み込んでしまったターンパイクでの走りや横浜新道での渋滞が原因かも。

CX-60に燃費や内外装のプレミアム感を求めるのなら4WDの上位モデルを購入する必要があるものの、上位モデルとは異なる乗り味が楽しめる軽快なFRの25Sを選び、好きなオプションを追加して乗るのも全然あり。これが今回の結論だ。