マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の金融政策について解説していただきます。


6月12日に始まる週は、重要な中央銀行の会合が予定されています。それぞれの注目点をチェックしておきましょう。

◆6月13-14日米FOMC(結果判明は日本時間15日午前3時)

米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)がFOMC(連邦公開市場委員会)を開催して、金融政策を決定します。FOMCでは昨年3月から10会合連続で利上げが行われてきました。FRBはこれまでの大幅な利上げの累積効果が時間差をもって現れるとみており、ここへきて利上げをいったん停止する可能性が高そうです。

注目ポイントは、金融市場に対してどんなメッセージを発信するか、そして3カ月に1度発表される経済・金融見通しがどうなるか。

前者に関しては、政策金利の据え置きが決定されると、金融市場では利上げサイクルがいよいよ終了し、今年後半にも利下げ方向に転換するとの見方が強まりそうです。もっとも、FRB自身は2%の物価目標達成までまだまだ道のりは遠いと判断しそう。そうであれば、「据え置き」は「打ち止め」ではなく、あくまで「スキップ(1回飛ばし)」。状況次第では次回7月の利上げもあり得るとのメッセージを伝えるのではないでしょうか。

後者について、「ドット・プロット」が重要です。これは25年までの年末時点の政策金利に関するFOMC参加者(現在18人)の予想を1人1つの点(ドット)として表したもの。あくまで各個人の予想を集計したものですが、金融市場はその中央値がFOMCのコンセンサスであるかのように受け取ります。その中央値がどんな政策金利の軌道を示すのか、興味深いところです。前回3月時点の「ドット・プロット」では、23年末の中央値は5.125%(5.00—5.25%の中心値)でした。5月の利上げによって政策金利はすでにその水準に達しており、新たな「ドット・プロット」が更なる利上げを想定した形となるのか。

なお、3月時点で24年末の政策金利予想の中央値は4.25%、25年末は3.125%でした。つまり24年と25年にそれぞれ1%前後の利下げが予想されていたことになります(あくまで中央値の事後解釈ですが)。

◆6月14-15日ECB理事会(同、日本時間15日午後9時15分)

ユーロ圏の金融政策を司るECB(欧州中央銀行)が理事会を開催します。ECBはユーロ圏のインフレの高さを強く懸念しています。とりわけ、第一次大戦後にハイパーインフレを経験したドイツやその周辺国のECB関係者は、物価安定を重視する、いわゆる「タカ派」です。現在までのところ、彼らが強い発言力を持っているようです。ユーロ圏の4月のCPI(消費者物価指数)は前年比上昇率が前月からやや鈍化しましたが、ラガルド総裁は「基調的なインフレが鈍化している明確な証拠はない」と明言して、利上げ継続の意向を表明しています。

金融市場は、6月に続いて7月の理事会でもECBが利上げを行い、その後は据え置きを続けると予想しています。6月の利上げの有無もさることながら、7月以降についてECBがどんなメッセージを発するのか、大いに注目されます。

◆6月15-16日BOJ(日本銀行)の金融政策決定会合(同、16日正午ごろ)

日本でもジリジリとインフレが高まるなか、4月9日に就任した植田総裁が金融緩和の修正に舵を切るのではないとの見方がありました。しかし、植田総裁は4月28日に開催された自身初の会合で、金融緩和を継続する意向を明確にしました。また、量的緩和(国債等の購入)やYCC(イールドカーブ・コントロール=長短金利操作)といった現行の政策手段も継続する意向です。

ただし、植田総裁自身もYCCは継続することが難しいと判断しているようです。4月会合後の声明では「政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移していることを想定している」との従来のフォワードガイダンス(先行きの金融政策の示唆)を廃止。代わって「金融政策運営について、1年から1年半程度の時間をかけて、多角的にレビューを行うことにした」との文言が追加されました。今すぐに金融政策が変更される可能性は低そうですが、金融市場は声明や総裁会見の細かなニュアンスから政策変更の可能性を探ろうとするのではないでしょうか。

どんな金融政策の方向性が示されるか

昨年は終盤まで、BOJが金融緩和を継続する一方で、FRBやECBなどの主要な中央銀行が利上げを続けるという簡単な図式でした。それが米ドルやユーロ、その他の通貨に対して円安が進行する背景となっていました。しかし、足もとではそうした図式は崩れつつあります。各中央銀行がどのような金融政策の方向性を示すかによって、為替相場も大きく影響を受けそうです。