ミュージシャンには芝居の巧い人がたくさんいる。福山雅治や星野源、及川光博、ユースケ・サンタマリアなどがその代表格で、岡崎体育もそのひとりに挙げたい。大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第21回に出演した岡崎体育。彼はこれで、朝ドラこと連続テレビ小説と大河ドラマ、NHKの2大ドラマに出演を果たしたことになる。

  • 『どうする家康』鳥居強右衛門役の岡崎体育

第21回で岡崎が演じたのは、下級武士の鳥居強右衛門。武田軍に包囲され、風前の灯となった長篠城から岡崎へ助けを求めに向かい、援軍を出してくれる約束をとりつけ、再び長篠に戻る。その途中で、強右衛門は武田軍に捕まってしまう。お金をもらって武田に寝返るかと思いきや――。

強右衛門の忠義エピソードは、数ある徳川家康関連の物語のなかでも人気で、強右衛門が磔になった壮絶な姿を旗指物に描いたものも残っている。かつての大河ドラマ『徳川家康』(83年)でもこのエピソードは描かれた。

『どうする家康』はこれまで、おなじみのエピソード――例えば、市(北川景子)のあずき袋を使った伝言や、三方ヶ原合戦における夏目広次(甲本雅裕)の活躍などを、独自の物語に書き換えてきたが、強右衛門の伝説は、家康(松本潤)の娘・亀(當真あみ)との心温まる関わりをプラスした。

知恵も才も武功もなく、ろくでなしと軽視されていた強右衛門。見た目も熊のような彼に、最初は怯えた亀だったが、優しく接するようになる。それが強右衛門の心の支えになり、長篠城主・奥平信昌(白洲迅)に最後まで忠実に仕える。なにかと状況から逃げがちな人物が、人の優しさに触れて、自分でも何かをやりとげようと考える心の変化や善の芽生え。悩んだ末に決断し、磔になったときの潔い表情。他者のために苦しみを一身に受ける利他の心には、磔シーンも相まって『おんな城主 直虎』の第33回「嫌われ政次の一生」を思い出した視聴者もいたようだ。ともあれ、長く愛されてきたエピソードだけあって、人情ものエンタメとして申し分なく楽しめるものになっていた。

岡崎体育は裸に近い格好までして、水中を泳ぐシーンまで撮影し、ミュージシャンであることを活かし劇中歌を作って自身で歌うという八面六臂の大活躍となった。前述した知恵も才も武功もなく、ろくでなしと言われているという点は歌詞になっているものだ。韻も踏んでいて、さすがプロ。

そういえば、岡崎体育が初めてテレビドラマに登場した朝ドラ『まんぷく』(18年度後期)でも歌を歌っていた(自身の曲ではない既存のもの)。ミュージシャンが俳優として出演する場合、必ずしも劇中で歌を歌うことはないが、岡崎体育は朝ドラと大河で歌も披露したという点においても快挙であろう。いつか朝ドラの主題歌を歌ってほしい。

『まんぷく』では日系アメリカ人のチャーリー・タナカ役でヒロイン・福子(安藤サクラ)の夫・萬平(長谷川博己)を捕まえて取り調べる役だった。大阪弁と英語を使い分けるのだが、英語がうまいのと、ミュージシャン活動のときの陽気で軽味のあるムードとは違う、ちょっと凄みのある演技をしていた。今回も、終盤、覚悟を決めたときの表情には深みがあった。

振り返れば、表現力絶大の岡崎体育がブレイクしたきっかけになった『MUSIC VIDEO』のミュージックビデオでも、彼の歌以外の身体表現が存分に示されていた。ミュージックビデオあるあるをずらりと並べ再現してみせ、「クリエーション」という言葉を連呼する皮肉たっぷりの映像は傑作だった。ぽっちゃり系で愛嬌たっぷりだが、とても批評的な鋭い視点をもっていて、表現には隙がない。それは俳優にも必要な要素である。強右衛門の磔シーンや感動シーンなど、大河あるあるとして、王道をしっかりと見せてくれたからこそ、多くの人が感動できたのだと思う。強右衛門は岡崎体育のぽっちゃり愛らしい面と骨太な面の両方を堪能できる当たり役となった。

『どうする家康』の特徴は、連続ドラマの1話完結方式のように、各回にゲストキャラが登場し、その回のみ、独立した物語としても楽しめるようになっていることだ。主人公・家康と家族や家臣団たちはレギュラーで、言ってみれば、家康が『相棒』の杉下右京(水谷豊)のようなものだ。ただ、右京さんは毎回、事件と犯人に自ら関わるので、ちょっと違う。家康は『太陽にほえろ!』のボス(石原裕次郎)であり、家臣団が刑事たちで、若手やベテラン刑事たちが毎回、事件や犯人や被害者と関わり合う様子を、ボスが見つめているイメージのほうが近いかもしれない。

いずれにしても、各回、一期一会の出会いがあり、それが知らず知らず、家康たちの経験や思い出として積み重なっていく。それも、主として残っている名将たちの武功ではなく、下働きの女性や下級武士などにフォーカスしている。強右衛門伝説はその趣向にふさわしいもので、武将たちが中心になる大きな戦の末端で懸命に生きている人たちの生きた証を、岡崎体育も刻んでくれた。

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