この大爆発の存在を示す明確な証拠を得るため、遠方宇宙の銀河や銀河間物質の観測と同時に、世界中で天の川銀河の中の年齢の高い星の観測が行われてきた。高齢の星はビッグバンからそれほど時間が経たない段階で誕生したことから、水素とヘリウム以外の重元素をわずかしか含まず、「低金属星」と呼ばれている。

低金属星の中には、ファーストスターが放出した物質を直接取り込んだガス雲から誕生した、第2世代とも呼べる星もあり、その星の元素組成はファーストスターの超新星が作り出した物質を記録している。巨大質量星が起こす電子対生成型超新星は、通常の重力崩壊型超新星とは大きく異なる元素組成を作り出すため、低金属星の組成を測ると、その痕跡を見分けることができると考えられている。

そうした中、10年もの時間をかけて、中国の分光探査望遠鏡「LAMOST」で天の川銀河の中から低金属星をいくつも見つけ出し、そしてすばる望遠鏡による細な観測で元素組成を測定するという連係により研究を積み重ねてきたのが研究チームだ。そして、その低金属星の1つである「LAMOST J101051.9+235850.2」(J1010+2358)が、電子対生成型超新星が作り出す特徴的な元素組成を示すことを発見したという。研究チームによると、これはこれまでに見つかっている中で最も明確な電子対生成型超新星の痕跡といえるもので(過去にも可能性のある超新星爆発は観測されていた)、初期宇宙で太陽の140倍以上もの巨大質量星が形成されたとする理論を強く支持する結果だという。

  • 巨大質量星の痕跡を初めて明確に示したJ1010+2358の可視光線画像(SDSSによる)。しし座の方向、地球から約3000光年の距離にある、太陽よりやや軽い主系列星で、見かけの明るさは約16等級。

    巨大質量星の痕跡を初めて明確に示したJ1010+2358の可視光線画像(SDSSによる)。しし座の方向、地球から約3000光年の距離にある、太陽よりやや軽い主系列星で、見かけの明るさは約16等級。(c)SDSS/国立天文台(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

また今回の観測では、ナトリウムなどの原子番号の奇数番と、マグネシウムやカルシウムといった偶数番の元素の組成比に大きな差が確認されたとのこと。これは電子対生成型超新星の特徴であり、J1010+2358の元素組成比は理論の予測によく一致する結果だとしている。

  • J1010+2358の元素組成比(赤丸)と超新星爆発の理論モデルの比較。(上)10太陽質量の星が起こす重力崩壊型超新星のモデルでは、測定で得られた元素組成とまったく合っていない。(中)85太陽質量の大質量星が起こす重力崩壊型超新星の場合。NaやMgのほか、MnやCoの組成が合っていない。(下)260太陽質量の巨大質量星が起こす電子対生成型超新星のモデル。観測結果を最もよく説明できるとした。

    J1010+2358の元素組成比(赤丸)と超新星爆発の理論モデルの比較。(上)10太陽質量の星が起こす重力崩壊型超新星のモデルでは、測定で得られた元素組成とまったく合っていない。(中)85太陽質量の大質量星が起こす重力崩壊型超新星の場合。NaやMgのほか、MnやCoの組成が合っていない。(下)260太陽質量の巨大質量星が起こす電子対生成型超新星のモデル。観測結果を最もよく説明できるとした。(c)中国国家天文台(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

今回、ファーストスターに特有と考えられる巨大質量星の電子対生成型超新星爆発の痕跡が発見された。ただし、ファーストスターの中でどのくらいの割合の星が巨大質量だったのかはまだわかっておらず、今後に解明すべき大きな課題としている。そのため研究チームは、さらに多数の星を観測し、その元素組成を測定する研究を積む必要があるとしている。