5月27日、芦原温泉駅(福井県あわら市)で北陸新幹線金沢~敦賀間のレール締結式が行われた。金沢~敦賀間は約114.6km。東京駅から敦賀駅まで、約580kmの線路がつながった。そう言われると、いますぐにでも列車を運行できそうに思えるが、このあとも電気設備その他工事が続く。

  • 北陸新幹線W7系(2014年6月の報道公開にて撮影)

鉄道・運輸機構の公式サイトで北陸新幹線プロジェクトを参照すると、整備新幹線の建設は土木工事から始まり、進捗に伴って「軌道」「建築」「電気」「機械」など、分野別の建設所が順次開所されるとある。レール締結は「軌道」の完成にあたる。5段階あるうちの第2段階で、「建築」「電気」「機械」の作業が進行している。

■軌道工事とは?

第1段階の「土木工事」は最も大規模で、レールの下の部分すべてを工事する。築堤、高架橋、鉄橋、トンネル、路盤などが整って、やっとその上の軌道工事ができる。

軌道工事はどんな内容か。鉄道・運輸機構の公式サイトに「北陸新幹線軌道工事 金沢・敦賀間」というパンフレットが掲載されている。晴れやかな締結式に至るまで、大変な手間がかかっている。

軌道工事は軌道建設基地の設置から始まる。北陸新幹線では約10~20kmごとに設置された。資材置場やプレハブの作業員詰所、簡易トイレがあり、ここに製鉄所で製造されたレール、工場で製造された軌道スラブ(コンクリート板)や樹脂製まくらぎが搬入される。したがって、軌道建設基地は大型トラックの通行できる道路沿いがふさわしい。

  • 金沢~敦賀間の配線略図(鉄道・運輸機構の資料を参考に配線略図エディタで作成)

軌道建設基地に資材がそろったら、まずは測量。構造物を測り、曲線、緩和曲線などの線形を計算する。その結果から軌道建設の基準点を決め、基準器を設置する。

レールをクレーンで高架橋など本線上に降ろす。このレールは新幹線用だが、先に工事車両用として使うため、新幹線の軌道の外側に工事用軌道が設置される。工事用軌道の軌間は標準軌(1,435mm)の約2倍、3,000mmもある。

レールは長さ25mで運ばれてくる。この長さのレールを「定尺レール」という。本線上に降ろした定尺レールを8本単位で溶接して長さ200mの長尺レールとし、積み上げておく。レール送り込み装置を本線上に降ろし、積み上げた長尺レールをセットして延ばしていく。

工事現場は工事の進捗によって軌道建設基地から離れていくので、モーターカーで資材を運搬する。だから工事用軌道が必要になる。工事用軌道に工事用のモーターカーと貨車を載せ、さらにクレーンで工事用スラブを貨車に積み込む。運搬先でスラブ運搬敷設車が待っていて、路盤に軌道スラブを敷設する。コンクリート路盤に円柱状の突起部があり、これが軌道スラブ同士の連結部になる。

軌道スラブは、従来のバラスト(砂利)とまくらぎに代わって、線路を固定し、列車の振動を吸収する役目がある。交換の必要がなく、レールがずれにくく、ずれても調整しやすい。長期間安定しているため、近年の新路線建設において主流となっている。軌道スラブは平板型と枠型があり、枠型は水はけや軽量化の面で利点があるが、北陸新幹線の高架橋区間は除雪作業を考慮し、平板を採用した。ちなみに、軌道スラブを採用した軌道をスラブ軌道というので、使い分けに注意したい。

軌道スラブを敷設したら位置を調整する。基準器と測定器具を使って、左右の位置と高さを合わせる。曲線区間は線路を傾ける。これは高速道路の「バンク」と同じで、車両が曲線を安定して走行できるように、曲線の外側を高くする。鉄道では「カント」という。

軌道スラブは高さ調整やカントによってコンクリート路盤より少し浮いた位置にある。その隙間を埋めて安定させるため、CAモルタル(CAは「セメント・アスファルト」の略)を注入する。円柱状突起部は雨水浸入防止のため合成樹脂も使われる。

軌道スラブの設置が完了したら、工事用レールを軌道スラブに載せて仮締結する。工事用レールは200mの長尺レールだった。長尺レール同士を溶接して約1kmの長尺レールにする。さらにこのレールを溶接し、数km~数十kmのロングレールにする。その際、約1kmの時点で軌間などレールの位置をミリ単位で調整する。高さを調整するため、レールの下にも樹脂を注入する。

レールは鋼鉄だから、温度によって伸縮する。そのため、定尺レールの継ぎ目は夏の膨張に備え、少々間隔を空けている。これがいわゆる「ガタンゴトン」という音のもとになっている。ただし、数km~数十kmのロングレールが膨張することを考慮すると、継ぎ目の隙間が大きくなってしまう。そこで、レールの端を重ね合わせた「伸縮継ぎ目」が使われている。内側のレールが伸びた場合は外側のレールを押し広げ、外側のレールが伸びても軌道の外側に伸びていくしくみになっている。ロングレール同士の伸縮継ぎ目については、温度差による調整も行われる。こうして「ガタンゴトン」という音のしない線路ができ上がる。

なお、分岐器は部品が多く可動部もあるため、軌道スラブには向かない。そこで、樹脂製まくらぎを路盤に直接取り付けている。まくらぎを漢字にすると「枕木」で、かつては木製だったが、現在は耐久性の高い樹脂やコンクリート製が使われているため、「まくらぎ」と表記することが多い。

これで軌道工事が完了した。夏場は炎天下のコンクリート上、冬は風が吹きすさぶ中、大変な作業だったことだろう。工事に携わった皆様、お疲れ様でした。

■駅の発車メロディーも決まっていた。

硬い材料の話が続いたので、やわらかい話もしておこう。

さかのぼって今年3月10日。北陸新幹線の延伸区間に開業する6駅の発車メロディが発表された。YouTubeでも紹介されている。

小松駅は吹奏楽による力強いマーチで、作曲は松任谷正隆氏。自身も出演している番組『カーグラフィックTV』のオープニング曲の音色を連想する。加賀温泉駅はギターと弦楽の協奏曲で、温泉旅館のそぞろ歩きに似合いそうな風雅な調べ。松任谷由実さんが作曲を手がけた。

芦原温泉駅はシンセサイザーによるデジタルな音色で未来と力強さを感じさせ、駅の発車メロディらしい曲に。作曲はあわら市出身の堀田庸元氏。あわら市誕生5周年を記念し、あわら市民憲章に曲を付けるなどの縁があるようだ。

  • 北陸新幹線福井駅の駅舎。すぐ隣に高架化されたえちぜん鉄道の駅舎が建つ

福井駅はヴァイオリニストの葉加瀬太郎氏か作曲した「悠久の一乗谷」のイントロ部分を採用。福井市が葉加瀬氏に製作を依頼し、2015年に制作された楽曲だという。主旋律のヴァイオリン演奏パートはすでに在来線の発車メロディで使われている。

越前たけふ駅も、発車メロディらしくウキウキしながら旅立ちたい気持ちになる。オルゴールのような音色は、700年の歴史を持つ鉄器制作「越前打刃物」の打撃音を音響合成技術によって作り出されたという。現代音楽作曲家の細川俊夫氏が制作した。

敦賀駅は公募作品から選ばれた。タイトルは「来い来い敦賀」。原曲は2012年に制作された盆踊りの歌で、「敦賀祭り」でもおなじみ。作曲は敦賀在住の佐淡(さわ)豊氏。この曲のテンポを速めて疾走感を高めている。

ちなみに、公募ではnao氏(元「I WiSH」メンバー)のオリジナル曲「扇の要」の得票が最も多かった。しかし僅差で2位の「来い来い敦賀」が選ばれた。投票結果を見ると、「扇の要」はインターネット投票が圧倒的に多く、書面投票は3票。「来い来い敦賀」は書面投票が403票だった。どちらが地元の票か、わかりやすい結果だった。

  • 北陸新幹線敦賀駅の駅舎。整備新幹線で最大規模(高さ37m)の駅外観だという

北陸新幹線金沢~敦賀間の開業予定は2024年春。これは2023年度末という意味で、毎年恒例のJR各社ダイヤ改正に合わせるとすれば、3月中旬の土曜日と予想できる。2024年3月16日が有力と考えられるが、例外として北海道新幹線新青森~新函館北斗間の開業(2016年)は3月下旬の土曜日、3月26日だった。そのことを考慮に入れると、2024年3月23日も予備候補になる。

開業までにまだまだやるべきことが残っているものの、レール締結式はわかりやすい大きな進捗で、開業に向けた大きな節目となった。沿線地域のビジネスと観光の取組みが大きく動き出しそうだ。