ChatGPTは農家にアドバイスができるか?
みなさんは「ChatGPT」をご存知でしょうか。昨年末に登場して以降、さまざまなメディアで取り上げられていますので、すでに「知らない人の方が少数派」かもしれませんね。
まだ知らない方のためにまずは簡単に解説します。「ChatGPT」とは、アメリカのOpenAIという企業が開発した大規模言語モデルの人工知能(AI)です。2022年11月にリリースされて以降、世界中で爆発的にユーザー数を伸ばし、わずか2カ月で利用者が1億人を突破。英語だけでなく日本語にも対応しています。従来のAIから飛躍的に性能が向上し、正解のない抽象的な質問などにも返答してくれるのが特徴です。そのため「ホワイトカラーの仕事の大半が消滅するのでは?」と懸念する声が広がっています。
欧州では「ChatGPT」を規制する動きも出ていますが、「ChatGPT」を含めた生成AIの普及を完全に止めることはおそらく難しいでしょう。今後はさらなる進化を遂げていく「生成AI」と、いかに付き合っていくかがビジネスの成否を分けるカギになっていきそうです。
生成AIが脅威となるのは、前述したホワイトカラーが中心だとされています。ただ、農業経営にも少なからず影響を与えそうです。そこで、実際にどのような回答が返ってくるのかをマイクロソフトの検索ツール「bing」内にあるチャット機能で試してみました。ちなみにこの機能は「ChatGPT」の次世代モデルである「GPT-4」を使用したものになります。
新規就農者の心強い味方に?
「bing」のチャット機能に、タマネギの大敵である「べと病」の防除について聞いてみました。質問と回答は以下の通りです。ちなみに返答に要した時間は1分ほどです。
【質問】
玉ねぎのべと病の防除について詳しく教えて
【回答】
べと病とは、糸状菌(かび)が原因で起こる玉ねぎの病気で、葉が湾曲して黄色くなったり、小判型に変色したりするのが特徴です。感染と発病は10~20℃前後で起こりやすく、高湿度や水はけの悪い環境が好まれます。
べと病の防除には、以下の方法が有効です。
風通しをよくすること。湿度が高いと蔓延しやすいため、風通りの良い場所で育てることが推奨されます。
連作を避けること。タマネギを連作するとべと病にかかる可能性が高くなります。2年以上のタマネギ休作で、土の中のべと病の原因である糸状菌の胞子を大幅に減らすことが可能です。
マルチングで泥はねを防ぐこと。糸状菌は土の中に潜んでいます。その土が雨で跳ね上がり葉に付着するとそこから病気が発生します。それを防ぐためにマルチングをして泥はねを防ぎます。マルチはビニールマルチや敷き藁(わら)がおすすめです。
薬剤散布をすること。農薬を使う場合は適切なものを選ぶ必要があります。例えば、STダコニール1000やGFワイドヒッター顆粒水和剤などが効果的です。散布の際は、展着剤を加用してください。
いかがでしょうか。新規就農希望者が教科書的な内容を知りたいのであればこれで十分かもしれません。この機能が優れているのは、返答の根拠となる引用元まで明示されている点です。引用元のサイトにアクセスすれば、詳しい情報を確かめることもできます。プロの農家には物足りない内容ではあるものの、大まかな内容を把握したい場合には便利です。
次は、もう少し抽象的な質問をしてみましょう。新規就農者の注意点について聞いてみました。質問と回答はこちらになります。
【質問】
新規就農を考える際の注意点を教えて
【回答】
新規就農とは、自ら起業して農業を始めることをいいます。経営者としての仕事もこなしていかなければならないということです。そのため、以下のような点に注意する必要があります。
資金の確保。新規就農には多額の資金が必要です。平均的には1000万円程度は用意しておいたほうがよいでしょう。
技術の習得。農業は地域や作物によって異なるノウハウが必要です。研修やインターンシップなどで技術を学ぶことがおすすめです。
土地や設備の確保。土地を借りるには地域の人々との信頼関係が大切です。設備は新品を購入するよりも中古や共同利用のほうが費用を抑えられます。
営業活動の実施。農作物を販売するには、魅力を知ってもらうために営業活動を行う必要があります。販路の開拓やブランディングなどに努めましょう。
休暇や収入の確保。農業は休暇が取りにくく、収入も不安定な場合があります。自分のライフスタイルに合わせて、効率的な経営や収入保険などの活用を検討しましょう。
こちらの内容も、新規就農者への注意点を分かりやすく示してくれています。実際には具体的なアドバイスが必要だと思いますが、これを元に気になる部分の質問を何度も繰り返していけば、新規就農を検討する人にとって有益な情報が簡単に入手できます。
申請書類の代筆はAIにお任せ?
もう一つ試してみましょう。農家の中には「申請書の作成が面倒だ」という人も少なくないでしょう。僕の周りでもこういった声をよく耳にします。そこで、これをAIに丸投げしてみたらどうでしょうか? 事業計画書の作成をお願いしてみた結果は、以下の通りです。
【質問】
以下の内容を基に、農業の5カ年の事業計画用の文章を500文字程度で作成してください。
・初年度50万円、2年目100万円、3年目300万円、4年目600万円、5年目1000万円、作物はタマネギ、新規就農者として地域を盛り上げていきたい。
【回答】
農業の5カ年の事業計画用の文章を500文字程度で作成しました。ご確認ください。
私は、タマネギを栽培する農業を始めました。タマネギは、日本で広く消費される野菜であり、需要が安定しています。また、タマネギは、耕作放棄地や荒れ地でも育てやすく、地域の環境保全にも貢献できます。私は、新規就農者として、地域の農業振興にも力を入れていきたいと考えています。
私の事業計画は、以下の通りです。
初年度:50万円の売り上げを目指します。自宅近くの1反(約1000平方メートル)の畑を借りて、タマネギの苗を植えます。収穫したタマネギは、直売所や近隣のスーパーに卸します。
2年目:100万円の売り上げを目指します。畑を2反に拡大し、タマネギの品種や栽培方法を工夫して、品質や収量を向上させます。また、インターネットやSNSを活用して、タマネギの魅力やレシピなどを発信し、顧客とのコミュニケーションを強化します。
3年目:300万円の売り上げを目指します。畑を5反に拡大し、タマネギ以外にもニンニクやネギなどの関連作物を栽培します。これにより、作物の多様化や収入の安定化を図ります。また、地元の農協やJAなどと連携して、タマネギや関連作物の加工品や特産品などを開発・販売します。
4年目:600万円の売り上げを目指します。畑を10反に拡大し、有機栽培や無農薬栽培などに挑戦します。これにより、タマネギや関連作物の付加価値を高めます。また、農業体験や収穫祭などのイベントを開催して、地域住民や観光客との交流を深めます。
5年目:1000万円の売り上げを目指します。畑を15反に拡大し、タマネギや関連作物のブランド化や認証制度への参加などに取り組みます。これにより、タマネギや関連作物の知名度や信頼性を高めます。また、地域の農業団体や行政などと協力して、新規就農者や後継者の育成や支援などに貢献します。
私は、この事業計画に沿って、タマネギ栽培を通じて、自分自身と地域社会の発展に努めていきたいと思います。いかがでしょうか。年間の売上目標と今後の目標を簡単に入力しただけですが、それっぽい事業計画に仕上げてくれました。申請書類のような文章の作成はChatGPTの得意分野だと思っていましたが、案の定、かなりの精度の文章ができあがりました。これだけ精度が高ければ、あとは数字などを若干手直しするだけで十分に使える文章になりそうです。
スマート化が進む中で小規模農家はどう生き残るべきか?
インターネットの登場によって情報が民主化され、これまでは一部の農家しか知りえなかったような栽培技術も広く一般に知れ渡るようになりました。この流れはChatGPTの登場によってさらに加速していくと思われます。また、自律的に考えるAIが登場したことで、野菜の画像を自ら診断したAIが過去の情報に基づいて農機やロボットを制御し、ほとんど農作物を自動で作る、といったこともそう遠くない未来にやってきそうな気がします。
農地の取得条件が徐々に緩和され、本格的に農業へと参入する企業が増えてきています。すでに機械化が進んでいる作物においては、「資本力」がモノをいう状況に拍車がかかりそうです。これから新規就農を考えるのであれば、早期の大規模化を図り、資本力のある経営体と互角に渡り合うのか。それとも、ニッチな分野で独自色を打ち出していくのか。どちらを目指すべきなのかを早期に決断することがより一層大事になると思います。
これは多くの業界でいえることですが、すでに製品の「機能」で差別化を図れる余地は非常に少なくなっています。身近な例として飲食店を考えてみてください。今はチェーン店を含めてどの店もそれなりにおいしい。味(=機能)だけで他を圧倒するのは難しい状況です。電化製品などもそうです。どれだけ安価な製品でもそれなりの性能は担保されています。
農業にも同じことがいえます。味や品質で勝負する余地はどんどん減っていく。糖度などを競う勝負にも限界があります。AI自身が学習を繰り返していけば、そのうち人間には太刀打ちできない味と品質を実現していくことも考えられます。そんな未来がやって来たら、小規模農家はどうすべきなのか。
価格で勝負すれば、厳しい戦いが待っています。価格勝負は、大手が最も得意とする戦い方だからです。取るべき戦略は、AI化・機械化ができない領域にポジションを取ること。最も有効な手立ての一つが「農家自身を売る」こと。「あの人だから買いたい」という顧客を獲得することです。
もちろん簡単ではありません。顧客との信頼関係は一朝一夕で築けるものではありませんから。ただ、技術の進歩は待ってくれません。未来を見据えて少しずつでも「人」を売る経営へとシフトしていくことが今後はますます大事になりそうです。