初期化処理ではまず、初期化したい量子ビットの状態を量子非破壊測定で測定する。次に、任意波形発生器がその測定結果に依存した波形を出力して、量子ビットの操作回路中のスイッチの状態を決定。その結果、量子ビットは測定結果に応じて量子操作を受け、元の状態によらず特定の状態に初期化されるという。
この初期化処理は、測定から結果に応じた反転操作までにかかる時間(treset)が、スピンの散乱時間(10ミリ秒程度)よりも十分に短くなければ成功しないという。そこで今回は、FPGAによる高速データ処理と、シーケンサーによる任意波形発生器の制御の組み合わせにより、スピン散乱時間の100分の1のtreset(0.1ミリ秒程度)を実現し、初期化操作に成功したとする。
ごく最近、フィードバック操作による初期化処理の実現が報告されたが、初期化の正確さについては低い値にとどまっていたとのこと。そこで、初期化が失敗する原因についての理論的に考察したところ、フィードバック操作のもととなる測定の正確さが確かに重要な役割を果たすことが確認されたとしている。
量子非破壊測定は、その性質上、繰り返し行うことで量子ビットの状態をより正確に見積もることが可能だ。研究チームはこの性質をフィードバック信号生成にも利用するため、初期化処理に複数回の測定を組み込む手法を開発した。同手法を用いて量子ビットの初期化を行ったところ、単発の測定よりも大幅に正確に初期化を実行することができたという。
今回の研究で達成された正確さは、単発の測定から期待されるよりも高いことから、今回の研究で開発された手法は、デバイスが不完全で正確な測定が困難な場合でも、必要な量子操作を正確に実行するための処方箋を提供しているといえるとする。
シリコンスピン量子コンピュータでは、最近実現された高精度スピン制御の実現や量子誤り訂正の実証などによって、重要な要素技術が確立されつつあるという。今後については、産業界との連携によって、シリコンスピン量子コンピュータの大規模化に向けた研究が加速することが期待されるとしている。