子育て中の親御さんであれば、自分がどんな子育てをするかで子どもの将来が決まる、そんなプレッシャーを感じる人もいらっしゃることでしょう。親が子どもにどう接するかで、子どもの性格は決まるのでしょうか?
臨床心理士の杉野珠理さんと、精神科医の荒田智史さんにお伺いします。
■子育ての違いが、子の性格に与える影響は0パーセント!?
実は、親の子育てに違いがあったとしても、育てられたその子どもが大人になったときの自尊心や性格には変わりがないということがわかっています。
これは、行動遺伝学に基づく研究結果で、大人になったときの自尊心(自己肯定感)や性格について、遺伝、家庭環境(子育て)、家庭外環境(子育ての影響が及ばない友人関係など)による影響度が算出されています(参考文献1)。
家庭環境(子育て)の違いが子どもの自尊心や性格に及ぼす影響は、なんと驚いたことにどちらも0パーセント。
つまり、家庭でどんな子育てが行われようが、育てられたその子どもが大人になったときの自尊心や性格に変わりがないということです。
それはたとえば、慎重で怖がりなタイプの子に、親が「大丈夫、自信を持って!」と励まし続けたところで楽観的な性格に変わることはないということです。また、本人が「辞めたい」と言って嫌がっている習い事を無理やり続けさせることで、忍耐強い性格に矯正されるような効果もないということです。
なお、ここで誤解がないようにしたいのは、家庭環境の影響度が0パーセントだからといって、家庭(子育て)はいっさい不要だという意味ではありません。あくまで、家庭環境の「違い」による影響がないという意味です。虐待がある場合も例外で、暴力や育児放棄など不適切なかかわりがあると、当然子どもの自尊心や性格に影響が出ることが考えられます。
■性格を決めるのは遺伝半分、友人関係半分
もう少し詳しく見ていくと、自尊心(自己肯定感)において、遺伝、家庭環境(子育て)、家庭外環境(子育ての影響が及ばない友人関係など)の影響度は、約30パーセント:0パーセント:70パーセントであることがわかっています。
また、どの性格の特性(ビッグファイブ※後述)においても、遺伝、家庭環境(子育て)、家庭外環境(子育ての影響が及ばない友人関係など)の影響度は、概ね50パーセント:0パーセント:50パーセントであることがわかっています。
つまり、自尊心や性格のどちらにしても、影響を受けるのは遺伝と家庭外環境(子育ての影響が及ばない友人関係など)であって、家庭環境(子育て)ではないのです。
■性格を理解するのに役立つビッグファイブ
性格を客観視する際に役立つのがビッグファイブ理論です。人の性格は5つの要素の組み合わせで構成されるという考え方のことで、5つの要素は1.外向性、2.協調性、3.誠実性、4.情緒安定性、5.開放性です。
それぞれの特性の程度がその人の性格の個性をつくるとするもので、心理学において性格を解釈する際のベースにもなっています。
1.外向性:高い→積極的、社交的 低い→消極的、受け身
2.協調性:高い→利他的、協力的 低い→自己中心的、非協力的
3.誠実性:高い→真面目、責任感が強い 低い→自由、無責任
4.情緒安定性:高い→楽観的、鈍感 低い→悲観的、敏感
5.開放性:高い→好奇心旺盛、創造的 低い→保守的、権威的
例えば、1.外向性は高いほうが、社会生活においては有利だと言えるかもしれませんが、もともと消極的なタイプの子どもが、親による声がけで積極的になれるかというと、そう簡単にはいかないことが感覚としてわかるでしょう。
また、最近話題になるHSP(Highly Sensitive Personの略で「繊細さん」とも呼ばれる)も、心理学では4.情緒安定性の低さや、1.外向性の低さと解釈されています。
親の子育てに違いがあっても、その子が大人になったときの性格には変わりがない、という結論に、拍子抜けしてしまう親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、一方で肩の荷が下りる人もいるでしょう。
子育てをするなかで子どもの性格を心配に思うこともあるかもしれませんが、「育て方がいけないのでは?」などと自分を責めることや、親の働きかけでよい性格に改善しようとすることは、いずれも不要であることがわかります。
参考文献1/『遺伝マインド』安藤寿康著(有斐閣)2011
※本記事は書籍『臨床心理士と精神科医の夫婦が子育てで大事なこと全部まとめてみました』をベースに構成しています。
文/杉野珠理、荒田智史