シャープのプラズマクラスター技術は、プラスとマイナスのイオンによって除菌や脱臭などさまざまな効果が期待でき、シャープの空気清浄機やエアコンなどさまざまな機器に搭載されています。今回、プラズマクラスター技術によって人間の脳が活性化する可能性を確認したという記者発表会がありました。
これはシャープと九州産業大学 人間科学部 萩原悟一准教授との共同研究により、人間の作業能力が向上する効果のメカニズムを脳機能計測によって検証したものです。シャープの岡嶋弘昌氏は、「プラズマクラスター技術が人の活動に対してどのような効果効能をもたらすのか、実証を進めてきました」と始めます。
「プラズマクラスター技術は過去にも、屋内作業や自動車運転中のストレス低減、集中力の維持、運動トレーニングのパフォーマンス向上、eスポーツのパフォーマンス向上、認知機能テストの回答時間の短縮効果など、ポジティブな結果を出してきました。しかし、なぜそれが起こるのかについては、はっきりと分かっていませんでした。プラズマクラスターが集中や認知に関わるおでこ(前頭前野)の血流量に影響を与えているのではないかと萩原先生からご指摘をいただき、検証を実施しました」(岡嶋氏)
続いて、九州産業大学の萩原准教授は、2020年から2022年にかけて実施した実証実験の内容を解説します。
「同じ時間帯におけるトレーニング量が増えた。eスポーツのタイムトライアルレースで平均約2秒タイムが縮まった。認知機能テストでは回答時間が平均で約5秒短くなった。といった、行動変化が起きました」(岡嶋氏)
「プラズマクラスターがある状態とない状態の違いを検証した結果、プラズマクラスターを照射した条件では脳波における活性度が高く出ており、トレーニング量も高くなりました。トレーニングに対しての何らかの効果が認められる可能性を見いだしました。eスポーツについても、スポーツのトレーニングと同様にパフォーマンスが上がり、同様に脳波の活性度も向上しています」(萩原准教授)
認知機能における実証実験でも、回答時間が5秒ほど短縮するという結果が出ており、専門家から見ると、これはとても大きな違いとのこと。
「この研究から、プラズマクラスターが何らかの脳機能への影響があるのではないかという仮説を導き出しました」(萩原准教授)
今回は、大学生を含む20代前半の被験者24人を対象に実証試験を実施。
塗り絵をしている状態のときに、以下の合計12分間において、「近赤外線分光法(Near-Infrated Spectroscopy:NIRS)」を用いた装置によって脳の状態を調べています。より詳しくいうと、脳血流の中の酸化ヘモグロビンと脱酸化ヘモグロビンの量の変化です。
(1)送風のみ(4分間)
(2)送風のみ、送風+イオン照射(4分間)
(3)送風のみ(4分間)
「脳科学の研究はまだまだ進歩の途中なので、どのような状態だと『脳活性』が高まっているとは言い切れない状況ではあります。しかし『酸化ヘモグロビン』の量が増加し、『脱酸化ヘモグロビン』の量が減っていく状態=脳活性の状態――という可能性が多くの先行研究の中で示されています。そこで今回はその状態を脳活性と定義しました」(萩原准教授)
結果として、「送風のみ」では酸化ヘモグロビン量が減少。「プラズマクラスターイオン照射状態」では酸化ヘモグロビン量が増加して脱酸化ヘモグロビン量が減少したことで、萩原准教授は「脳活性の状態が起きているのではないかという可能性が示されました」と述べます。
同時に「マイナスイオンのみ照射」「プラスイオンのみ照射」「一般的な正負イオンを同時照射」の3条件も同時に測定したところ、±イオンの同時照射のみプラズマクラスターイオン照射と同様に脳活性の傾向が見られました。「プラスとマイナスのイオンを同時に照射することによって、人に何らかの影響を与えている可能性が明らかになりました」(萩原准教授)とのことです。
「プラスイオン、あるいはマイナスイオン単独で照射した状態での効果検証はこれまで多く行われてきましたが、プラスイオンとマイナスイオンを同時に照射して人への影響を見る研究は、ほとんどありませんでした。今回、プラスとマイナスのイオンを同時照射したときに人(脳)の状態がどう変化するか、課題遂行能力がどう変化するかを検証したことで、脳機能へのポジティブな影響がある可能性が示されたと言えます」(萩原准教授)
脳活性によって人の思考力や行動が変化することがこれまでの研究で分かってきたことで、萩原准教授は「スポーツのトレーニングや学生の学習にポジティブな影響があるのかどうか、今後は脳科学や行動科学、心理学の先生方ともにプラズマクラスターイオンの効果の可能性を見ていきたいと思っています」としました。
会見後の質疑応答では、プラズマクラスターがどのような形で脳の活性化に寄与するのか、そのメカニズムについての質問が出ました。
「血流量が変化するメカニズムにはさらなる検証が必要です。しかしマスクをした状態でも血流量の変化があったため、仮説的ですが、イオンが口から入っていくとは考えづらいのではないか。これまでの検証結果からすると、頭部などに直接何らかの刺激が加わっている仮説を立てられるのではないかと考えています」(萩原准教授)
「マスクをした状態では(マスク内では)イオンが10分の1以下くらいになるのですが、マスクをした状態、しない状態で効果に大きな変化がありませんでした。集中や認知はおでこあたりの血流量の変化が影響すると言われているので、そのあたりに何かしらの電気的な刺激があるのではないかと推定しています」(岡嶋氏)
以前の実験における行動変化について、例えば「eスポーツでの2秒短縮」はどれくらいのインパクトがあるのかという質問も。
「今回はタイムトライアルレースゲームをやりこんだ上手な人を対象にした実験でした。具体的には、だいたい1分50秒を平均的に出せる人たち。その中で平均約2秒も速くなったということです。これはかなり大きな数字で、私自身もびっくりしました」(萩原准教授)
今回の検証結果を踏まえた上での今後の展開について、シャープの岡嶋氏は「空気浄化に加わるプラスアルファで貢献したい」とします。
「今までは、プラズマクラスターで空間を浄化するといったことに重きを置いていました。今後もそれは同じですが、今回のような効果を出すためには『人に向かってイオンを当てる』という方向も可能性として出てくるため、技術の使い方が変わってくる可能性があると思っています。効果は検証できたものの、そのメカニズムや、どういうサイクルで効果が出たのかをまずはっきりと我々が言えるようにしたい。その上で、それを学習や認知などの分野に拡大していきたいと考えています」(岡嶋氏)
プラズマクラスターイオンは、除菌・消臭効果、静電気の除去、保湿効果などが実証されています。実際に、空気清浄機、扇風機、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、ヘアドライヤーなどさまざまな機器に搭載されてきました。
今回の検証では、プラズマクラスターイオンがどのようなメカニズムで脳活性を実現しているのかまでは解明されていません。しかし一定の効果が得られたことで、ネックスピーカーなどのウエアラブル機器に搭載してプラズマクラスターイオンを“体にまとう”ようなアプリケーションの可能性も広がってきました。効果をうたうことは薬機法などの関係で難しい部分もありますが、今後の製品への展開を楽しみにしたいところです。