まだ締めくくるには早いかもしれないが、COMPUTEX TAIPEI 2023の会場で見かけた変なものをいろいろご紹介したいと思う(多分ほかの現地取材記者も後追いで何かやってくれると思う)。ちなみにサーバー成分多めである。

ASRock ALTRAD8UD-1L2T

一見するとGen3 Xeon対応マザー? と思ってしまいそうなASRockのALTRAD8UD-1L2T(Photo01)、実はAmpere ComputingのAltraないしAltra MAX対応マザーである。

  • Photo01: 変態マザーボードメーカーの名を欲しいままにする同社にしては、やけにあっさりした構成だと思ったのだが、そんなことはなかった。

    Photo01: 変態マザーボードメーカーの名を欲しいままにする同社にしては、やけにあっさりした構成だと思ったのだが、そんなことはなかった。

Ampere ComputingはもともとMACOMが買収したAPM(Applied Micro)からCPU部門がファンドに売却され、独立したCPUベンダー。APM時代はArmv8のアーキテクチャライセンスを取得し、X-Geneという64bit ARMプロセッサを発売していたが、Ampere ComputingになってからはArmよりNeoverse N1のライセンスを受けて、これを利用した製品をリリースしている。といっても独自コア路線を捨てたわけではなく、今年5月18日に192コアを集積したAmpereOneを発表しているが、Altra/AltraMAXはその前世代の製品ということになる。とはいえ、Altraが最大80コア、AltraMAXは最大128コアで、しかもCCIXを使って2 Socket構成まで可能というなかなか重厚な構成である。意外とこのAlter/AlterMAXはニーズが多く、あちこちで「Neoverse N1を採用した標準的なCPU」として評価とかテスト用途だけでなく、本番機としても利用されていたりする。

そんなAltra/Altra MAXをMicroATXもどき(ASRockによればDeep Micro-ATXだそうだ)に実装した本マザーボード、DDR4×8chと4×PCIe 4.0 x16、4 SlimSASと2 OCuLink、M.2×2と10GbE×2+1GbE、USB 3.2 Gen1×2、と中々の重装備である。個人で利用するには不向きというか買ってどうするんだ? という感じではあるが、そこらのミニタワーケースに収められる128コアのArmサーバーを手軽に構築できる(?)夢のある製品(??)である。

ADATA 2題

ちょっと話が飛ぶが、今年3月にシリコンバレーのCHM(Computer History Museum)でMemCon 23が開催された。この際に発表されたのがMRDIMM(Multi-Rank DIMM)である。この発表をAMDのRobert Hormuth氏(CVP, Architecture and Strategy, Data Center Solutions Group)がLinkedInで取り上げており、AMDもこれに賛同するとしていた。

MRDIMMとは何かといえば、DIMM上の複数のRankに同時にアクセスできるようにすることで帯域を倍にするというもので、従来サーバー向けだと1 RankのDDR4-4400とかが利用されていたが、これを2 Rankにして、しかも同時にアクセスできるようにバッファチップを追加する。バッファチップとメモリチップの間は4400MT/secだが、CPUとバッファチップの間は倍の8800MT/secに高速化することで、メモリ帯域を増強するという、ちょっと凄まじい仕組みである。ちなみにこのMRDIMM、Gen 1は8800MT/sec(4400MT/sec×2)だがGen 2は12800MT/sec(6400MT/sec×2?)、Gen 3は17600MT/sec(4400MT/sec×4?)まで想定されており、2030年代にこのGen 3が出てくるとなっている。DDR6の標準化が遅れているため、それまでの中継ぎとして広帯域メモリが欲しい、ということで現在JEDECに提案中という話であった。

これだけであれば「うーん、無茶するなぁ」で話が終わるのだが、今年5月21日からハンブルグで開催されていたISC 2023でIntelも発表を行ったのだが、ここでJeff McVeigh氏(CVP, Super Computer Group)がこんな発表をした(Photo02)ことで、いきなり夢物語でなくなってしまった。MCRとはMultiplexing Combined Rankの略だそうで、要するに言ってることはMRDIMMとまったく変わらない。AMDとIntelの両社がサポートを表明し、おまけにGoogle/MicrosoftがMRDIMMの標準化作業に加わっているというあたりは、かなり本気度が高いことが伺える。

  • Photo02: このMCR DIMMをGranite Rapidsでサポートすると表明した。

という前提を踏まえたうえでADATAの展示であるが、そのMRDIMMのプロトタイプをいきなり展示していたのにはさすがに驚いた(Photo03)。MRDIMM-8400ということはDDR5-4200のチップを使っている(orバッファチップがまだDDR5-8400にしか耐えられない)のだと思うが、まだ評価用のチップすらないうちにこれを作ってしまうあたりが流石である。ちなみに説明にはさらっとGranite Rapids用とかいてあるあたりも流石である(Photo04)。

  • Photo03: パターンの感じからすると16Gbit DDR5チップをDIMMの両面に実装してトータル128GBという感じだろうか?

  • Photo04: Granite Rapidsは2024年の、おそらく後半に投入予定である。

ちなみにそのMRDIMMの隣に展示されていたのがCAMM(Compression Attached Memory Module)であった(Photo05)。CAMMというのはDellが提唱した拡張メモリの方式で、DIMMの端に信号端子を持つのではなく、DIMMの裏面全体に信号端子が配されている。なので基板にCAMMをねじ止めする格好で、DIMMソケットが必要ない。この方式の特徴は、なので高さを大幅に減らせることだ。昨今の薄型ノートの場合はDIMMソケットの高さすら確保するのが難しく、なので基板上にメモリを直接実装してアップグレード不可能、という構成が珍しくなくなっているが、CAMMを使うとメモリの厚み+CAMM基板の厚みだけで実装できるので、DIMMソケットの半分程度の高さで済む。もちろん片面を端子に割り当てているから、DRAMチップは当然片面実装になるが、それは容量の大きなDRAMチップを使うことでカバーできるというわけだ。今のところDellのみがこの方式をサポートしているのだが、ADATAはこのマーケット向けの試作品を今回展示した(Photo05)。なんか形状が独特というか、CAMMは今のところDellの独自規格に過ぎないので形状はノートに合わせて変わる格好なのだが、次世代のDelのノートにはこんなCAMMが使われるのだろうか?

  • Photo05: ちなみに次世代Laptop向けでDDR5-6400、容量は最大64GBだそうだ。

ASPEED PFR SoC

PFR(Plaftform Firmware Resilience)というのはIce LakeベースのXeonから採用が始まった、BIOS/Firmwareの改竄防止や攻撃防御などの機能を持つブート用のシステムの仕組みである。最初にこれを実装したのはLatticeのMachXO3Dで、これはIce Lake向けのもの。2020年にはSapphire Rapidsのものに対応したMach-NXも発売されている。ただこれはどちらもFPGAベースの製品であるが、今回ASPEEDはこれをSoCの形にしたAST1060を発表した(Photo06)。

  • Photo06: 右側のドーターカード上に載っているのがAST1060。

実際にはチップ単体というよりも、主要なサーバーメーカーの拡張カードの形で提供されており、実際Photo06はTyanのものだが、会場ではWistron/Lenovoのものの展示もあったほか、直接サーバーマザーボード上に実装されている例も多かった。拡張性がFPGAに比べると劣るという考え方もあるが、このあたりの仕様がコロコロ変わることは考えにくいだけに、そうなるとFPGAより安価に実現可能なこうしたSoCの方が好まれるのかもしれない。