ボッシュから「スマートシステム」を搭載した新しいモーターと、電動アシスト自転車用ABS(アンチロック・ブレーキシステム)が登場する。5月19日にはこれらのユニットを搭載した新モデルなどを紹介する新製品発表会が、神奈川県横浜市旭区「トレイルアドベンチャー横浜」で開催された。
より曲線的で自然なアシストに進化
今回発表された新たなドライブユニット「Performance Line CX」。その特徴は、より細やかでスムーズなアシストの出力を調整する「The smart system」により、滑らかな漕ぎ心地を実現していること。漕ぎ出しの際など、乗り手のペダルの踏力変化に応じて、より曲線的で自然なアシストを提供する。
「一般的にパワー重視のモーターほど扱いづらくなるんですが、今回の新製品は、パワーはあるけど扱いやすいセッティング。モーターの出力がパワフルすぎず、より乗りやすくなっているので、純粋に自分の脚力が強くなったかのような感覚で乗れるところが魅力です」(ボッシュ・豊田佑一氏)
そんなモーターの進化に付随してディスプレイやコントローラー類も刷新。新たなABSも開発された。
ABSは急ブレーキの際に機能する安全装置。自動車やオードバイなどにも搭載されているブレーキングシステムだが、通常の自転車よりも重量が重く、速度が出やすい電動自転車に最適化されたABSを今回新たに供給する。
「新しいモーターがライダーの脚力をアシストするのに対し、新たなABSによって安全面をサポートするという考え方です。当社のABSは前輪がロックした状態を検知すると、自動でブレーキの強弱を調整し、前輪がロックして滑ってしまう、あるいは後輪が浮いてしまうことによる転倒を防ぎます。自転車に乗っている人がずっとブレーキを握ったままでも、自動的にロック状態を解除してくれるため、より安全に短い距離で止まれることができます」(豊田氏)
電動アシストでは、普段あまり自転車に乗り慣れていない人でも簡単に急な上り坂や長距離が走りやすくなる。安全に乗る技術の不足や、慣れない長距離を走る中で集中力が切れてしまうことなどによる急ブレーキのリスクも高まっている、といった認識がその開発背景となったようだ。
用途に応じたトレック社4モデル
ボッシュの新たなドライブユニットを搭載した自転車として、トレック社からは4つのモデルが紹介された。
「Rail 9.7」は前後にサスペンションが付いたフルサスペンションの自転車で、フレーム素材にカーボンを用いた最上位グレードのモデル。本格的な専用コースや、岩がゴロゴロしているような険しい道などでエクストリームな遊び方ができる軽さとパワーを兼ね備えている。
「Rail 5」は「Rail 9.7」の廉価版という位置付け。フレーム素材がカーボンではなくアルミニウムになっているため、重量は重くなっているものの、より手の届きやすい価格帯で本格的なライディングを楽しめる。
「Powerfly4」はフロントのみサスペンションがついた“ハードテイル”と呼ばれるタイプの自転車。「フルサスペンションは過剰品質」という人に向けたモデルで、険しい山道などは比較的苦手としているが、通勤・通学といった普段使いや週末のサイクリングを想定している人には、むしろ使いやすい万能型モデルだ。
「Powerfly FS 4」は「Powerfly4」のレジャー用途で使いやすい自転車というコンセプトを踏襲しつつ、リアにも路面から受ける振動を緩和する目的のサスペンション採用したモデルだ。ライダーの快適性重視の自転車で、アウトドアレジャーのシーンでベストマッチする。先述した3モデルは継続モデルだが、「Powerfly FS 4」は今年から新たに追加されたモデルとなる。
ボッシュの新たなユニットを搭載した4モデルのおおよその価格イメージは、最上位モデル「Rail 9.7」が約100万円、「Rail 5」は約70万円。「Powerfly4」と「Powerfly FS 4」は、それぞれ50万円台半ば、60万円台半ばを想定しているという。
スペインの老舗自転車メーカーのモデルにも
会場では同じくボッシュの新ユニットを搭載した、スペインの老舗自転車メーカー・オルベア社の「WILD M20」も紹介された。
もともとピストルを製造し、ピストルのチューブ部品の製造技術を活かし、第一次世界大戦で需要が増えた自転車製造を開始した歴史を持つ同社。ダウンヒルに適した車体と、ボッシュのユニットを採用した電動アシストで登りも下りも自由に楽しめる「WILD」シリーズを、日本のeMTB市場へ投入する。
同シリーズは全6モデルが存在し、コンパクトなフレームを採用することによる剛性感や高速域での高い安定性が特徴だという。また、グリップ部分のコントローラーは無線で、その配置などにも工夫を施している。ハンドル周りをシンプルに見せたい本格的なマウンテンバイク好きに刺さりやすいビジュアルのようだ。
日本で今年9月頃発売予定の本モデルは「E-MOUNTAINBIKE MAGAZINE」の“BEST IN TEST”にて、eバイク30モデルのテスト結果で1位となるなど、高い評価を受けている。
通常の既製品の自転車とは異なり、追加料金なしでフレームやロゴなどのカラー、タイヤやバッテリーなどの部品を選べるセミオーダーシステム「MyO」も支持されるポイントのようだ。
初心者でも楽しみの幅が広がる
これらのモデルの乗り心地を同社アンバサダーのMTBプロライダー・阿藤寛選手に聞いた。
「乗り比べると古いモデルが少しおもちゃっぽく感じるほど新しいモデルはスムーズで滑らかな乗り心地」と阿藤選手。アシストモードも新しくなり、オートモードなどは限りなく自然なフィーリングに乗れたという。「従来のモデルは少なからず乗り手側が機械に合わせに行く感覚もあったんですが、乗り手側に機械が合わせてくれる感じですね」と評価した。
「もともとマウンテンバイクって険しい登り降りや凸凹した山道もガシガシ走れるイメージがありますが、やはり乗り慣れていない方だとなかなか簡単に思うようには走れない。でもeMTB、とくに今回のモデルはマウンテンバイクに不慣れな方でもそうした乗り方を楽しめるほどのレベルに進化している印象です」
初心者でも楽しみの幅が広がるマウンテンバイクとのことだが、とくにプロの技術を取り入れられた新しいABSに、その進化を感じたそうだ。
「今日みたいな雨の日は、コースを走るのに適したコンディションではありませんが、先ほど実際のコースで思いっきりブレーキかけてみても全く滑らなかったです。僕らはブレーキングの技術を練習して身につけますが、プロレベルのコントロールとはいかないまでも、それに近いフィーリングをブレーキ側が出してくれる。バランスを崩しやすい場所でも気にせずブレーキングして楽しめるでしょうし、こうした技術の進化とともにレースの世界のライディングも今後進化していくと思っていますね」
会場ではボッシュの事業の柱でもある電動工具と自動車部品のチームが出店。それぞれの定番人気商品や自転車の整備やメンテナンスに役立つ商品を紹介していた。
コードレスエアポンプ「EasyPump」は、ロードバイクやシティサイクルなどにも適したコンパクトな電動空気入れ。自動で設定した空気圧まで空気を入れてくれる優れもの。先月発売を開始したコードレスエアポンプ「UPUMP118H」は「空気圧オートストップ設定」の機能こそないが、より多くの空気量を一気に送れるため、マウンテンバイクのライダーにオススメだという。
今年で20周年を迎えるコードレススクリュードライバーの最新モデル「IXO7」も、先端のアタッチメントを変えることで、DIYなどの幅広いシーンで活躍する人気商品。汚れた自転車のタイヤも回転用ブラシを使って簡単に綺麗にできる。