会計事務所勤務から農家に転身!
異業種の知識を武器に
大阪府の会計事務所に勤めていた佐藤さんが、長崎県の五島で農業経営をしようと踏み切ったのは30歳の頃。
「父が商売をしていて、私も子どもの頃からいつか自分で商売をしたいと思っていたんです。経営や会計の知識をもとに農業コンサルタントをやりたいと考えたのですが、農業経験がなかったので、まずは自分が農業経営で成功する必要があると思ったんです」
4000坪の耕作放棄地を即決購入
大規模農地を求めて競売物件を探していると、目に留まったのが、五島の「4000坪(1.3ヘクタール)の農地」の情報だったそうです。
「今思うと決して大規模農地とはいえないんですが、当時はめちゃくちゃ広くて良いと思いました。早速、連休を利用して下見に行くと、完全な耕作放棄地で草は私の背よりも高く伸びていましたし、木も生えていたくらい。でも『できるよ』というアドバイスももらい、即断即決でした」
そしていよいよ2011年8月に農業経営をスタート。現在、アグリ・コーポレーションの生産面積は35ヘクタールまで拡大しています。
「今は農業コンサルをやろうとは思っていません。想像していた以上に農業経営は面白いですよ」
高速PDCAで経営方針を決める
栽培品目を調整する
このように農業経営を「面白い」と語る佐藤さんですが、決して楽な道を歩いてきたわけではありません。
スタート当初はジャガイモ、カボチャ、サツマイモを栽培していましたが、3年目に「旬の駅」という農産物直売所を設立したことから、いろいろな品目を販売できるようにとダイコンやカブ、ニンニクなども生産し始めました。ところがそこで課題にぶつかります。
「『当たり前』に作るのが本当に難しかった。しかも品目ごとに作り方や時期が全く異なる。農業は技術職なのだなと実感しました」
さらに佐藤さんは、直売所の運営を通じて「良いものを作っても良い価格で買ってもらえるかといえば、そうもいかない」という販売課題も感じていました。何か別の施策が必要だと6次化商品の開発にも取り組みます。設立4年目に発売したのが、現在も同社の主力商品の一つであるベビーフード「おしゃぶー」です。
五島ではサツマイモを薄く切って天日干ししたものを「かんころ」と呼び、かんころをもち米に混ぜてついた「かんころ餅」という郷土料理があります。これをヒントに、適度な硬さで、赤ちゃんの「歯がため」に向いているという特徴ある商品が生まれました。
こうして6次化に取り組みながら、その原料であるサツマイモの生産に絞っていきました。
離島の輸送コスト問題
さらに2018年に有機JAS認証を取得します。
「認証取得の大きな理由は、農業経営を成り立たせるためです。離島は輸送コストが加わり、本土の商品と比べると販売面でハンデがあります。有機栽培という付加価値をつけることで、多少高い売価でも勝負できるのではと考えました」
さらに差別化を図るべく、粘質でまろやかな甘味が人気の安納芋の生産にも力を入れます。
「安納芋の肉質と甘みを出すには、暖かい気候と海からの潮風が大事です。五島も島内に潮風が行き渡っており、名産地である鹿児島県の風土と近しいと感じました。
土地を選ぶ品種でもあり、収量が少ない。ですから『収量がとれない品種』で、さらに『有機栽培』という皆がやりがたらない分野を掛け合わせることで差別化を図っています」
工場設置でメリット多数
さらに佐藤さんの挑戦は続きます。就農8年目となる2019年には食品工場を設立。
「とにかくいろいろやっていて、当時のことはあまり記憶にないんですよ。銀行から融資を受ける際に経営計画書を出すのですが、工場を作ったのは計画よりも2年ほど早かったと思います。『会社の未来をつくるために絶対にやらなあかん』と、むしろ前倒しでした」
“絶対にやらなあかん”と思った理由は、規格外品の存在でした。当時、収量約50トンに対して規格外品は1割の5トンほど出ていました。
「直売所で売ることもできましたが、規模拡大をしていけば規格外品も当然増える。そうなるとさすがに売ることが難しいので、ペーストやパウダーにする加工工場が必要だったんです」
工場を作ることで規格外品を売り物にできるだけでなく、有機栽培の弱点である「形が整わず売り先が難しい」という点もカバー出来るようになりました。さらに繁忙期と閑散期の作業差をならすことで、従業員の通年の安定雇用にもつながっています。
「閑散期や雨の日なんかはやることがなくて、作業場の掃除でもしてようかという感じでしたが、工場が出来たことで常に生産性の高い仕事を任せられています」
地域の特産品を作るために
次々とチャレンジを続けている佐藤さんですが、本記事で紹介しているのはごく一部です。
2019年には輸出商社の株式会社SAMURAI SUMMITを設立。海外市場への販売を進めています。また直近では、ECショップ「五島商店 佐藤の芋屋」や、同名のオウンドメディアを開設。オウンドメディアでは、安納芋やサツマイモ、福江島などのカテゴリーに沿ったコラムを毎週掲載しています。
ここまで精力的に活動する背景には、五島の未来を見据えた目標があります。
「五島の、この三井楽町のまちづくりをしていきたいと思っています。そのためには雇用ももっと生み出さないといけない。そこでまずは有機安納芋の産地化を目指します。安納芋といえば種子島ですが、有機安納芋はどこにもない。“有機安納芋といえば五島”と認識してもらうくらいまで認知度を上げたいです。自社工場を使って『生いも』だけでなく、ペーストやパウダーなど、いろいろなチャンネルを持ち、有機安納芋の産地化に近づければと考えています」
自社だけが成長・拡大しても、町が元気でないと継続はできない。人口が減少している多くの地域が直面している農業の課題ではないだろうか。
<取材協力>
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