研究チームによる分子系統解析の結果、新種はユーラシア大陸西部に分布するグループに近縁であり、夜行性の寄生性ハチ類の系統進化を考える上で重要な種であることが判明したとのこと。さらに今回の研究を通して、遺伝子の塩基配列に関する公的なデータベースに登録されているDNAバーコードの問題点や、コウベアメバチが属するグループの系統学的課題についての議論を行い、夜行性寄生性ハチ類の多様性と系統進化について、地球規模の研究を展望したとしている。
なお、今回発見されたコウベアメバチの最初の標本は、神戸大大学院 農学研究科の伊藤誠人大学院生(採集当時)により、同大学 六甲台第2キャンパスの工学部研究棟付近にある外灯の周辺で採集された。それに加え、和歌山県紀の川市からも確認されたという。
同種は、夜行性であるとはいえ、目視によって容易に識別できる体長15mm前後(触角を除く)の比較的大型な昆虫だ。研究チームは、住宅街に隣接する六甲台キャンパスからのコウベアメバチの発見は、身近な環境にもまだ認識できていない未知の生物が生息していることを示唆しているとする。新種生物の発見や生物多様性の宝庫というと、自然度の高い熱帯雨林やアクセスの難しい深海などを想像しやすい。しかし隠された生物多様性は、人々が生活するごく身近な環境にも存在している可能性があるようだ。
また、昆虫の最大の天敵の1つとして昼間に活動する鳥類が挙げられる。研究チームは、鳥類を避けて夜の世界で活動する夜行性昆虫の多様性や系統進化、ほかの生物との関わり合いについて解明したいと考えているとのことだ。
観察が難しい夜行性昆虫の研究はあまり進んでいないが、ほかの昆虫の天敵や植物の花粉媒介者として重要な働きをしていることが予想されており、その解明は食料生産や生態系管理に貢献するものと期待されるという。また研究チームは、夜行性昆虫の研究について、多くの人々が普段見過ごしている豊かで貴重な生物多様性への関心を高め、身近な自然やその保全に意識を向けるきっかけになる可能性があるとしている。