2030年度末の開業をめざす北海道新幹線(新函館北斗~札幌間)建設工事のうち、倶知安駅高架橋工事に本格着手することになり、5月27日に起工式が行われた。工事関係者や地元選出の国会議員らが参加し、地元の音楽団体による演奏も。工事に一層の弾みをつける式典となった。

  • 現在の倶知安駅。かつては機関区があったほか、胆振線との接続駅でもあった(筆者撮影)

倶知安駅は現在、函館本線の列車のみ停車する駅だが、北海道新幹線の延伸開業にともない、新たに新幹線の駅が設置される。現行の在来線を利用する場合、札幌駅からの所要時間は2時間程度。函館本線は小樽駅で運行系統が変わるため、快速「ニセコライナー」など一部列車を除き、小樽駅で乗換えが必要になる。

現在、函館~札幌間の鉄道利用は室蘭本線・千歳線を経由する経路(通称「海線」)が一般的。「山線」と呼ばれる函館本線長万部~小樽~札幌間は、その名の通り山間地を走行するため、速達輸送に不利という難点があった。長万部~小樽間は現在も単線非電化で、H100形をはじめとする気動車が、余市・倶知安・ニセコなど沿線の観光地へ向かう乗客や地元の学生らを運んでいる。

会場へ向かう際、小樽駅から乗車した普通列車は2両編成で、観光客と学生の乗客が多かった。筆者はロングシートに腰かけ、20パーミル前後の勾配を上るH100形に身を委ねる。途中、余市駅で多くの観光客が下車。筆者の隣に座っていた外国人から、「ニッカウヰスキーの醸造所はここで降りれば良いですか?」と英語で尋ねられ、なんとか英語で伝えた。改めて、北海道には国際色が豊かな観光地が多いと感じる。

  • 標高1,898mの羊蹄山。手前が倶知安駅舎(筆者撮影)

倶知安駅に降り立つと、眼前に標高1,898mの羊蹄山が見える。日本百名山のひとつであり、新幹線の高架橋からも眺められる予定だという羊蹄山の山頂付近には雲がかかり、雪も少し残っていた。

駅前広場の周辺を見ると、若者が好みそうなカジュアルな飲食店が多い。バスロータリーには町内および小樽駅・ニセコ駅方面へ向かうバスが発着している。北海道で働いた経験のある歌人・石川啄木が倶知安を詠った短歌の歌碑や、地元の偉人の石像もあった。

北海道新幹線関連工事にともない、倶知安駅は2021年から新ホームになっている。1面2線の島式ホームだが、1番線は行き止まり式になっており、倶知安駅発着の列車が使用。長万部方面へ直通する列車は2番線から発車する。

  • 倶知安駅の新ホーム(筆者撮影)

起工式が始まる前に、駅舎横の特設ステージで、羊蹄山麓の小中学生らで構成されるジャズバンド「Mt.Youtei Jr.JAZZ School」による演奏が行われた。聴衆から自然に手拍子が起き、フレッシュさを感じさせる演奏が好評だった様子。MCの中で、「この町にもついに新幹線がやってきます。私たちも非常に楽しみです」といった内容が語られていた。

新幹線が倶知安駅にやって来る頃、演奏しているこどもたちは高校生や大学生になっているのではないかと思う。地元を大事にしながら、それぞれの目標に向かって努力を続け、新幹線で帰って来られるようになることを願った。

  • 地元の音楽団体「Mt.Youtei Jr.JAZZ School」がコンサートを行っていた(筆者撮影)

式典が行われる特設会場に入ると、すでに多くの関係者が控室で待機している。広い会場の壁面には、起工式を主催する鉄道・運輸機構によるパネルが多数展示されており、倶知安駅高架橋や北海道新幹線関連だけにとどまらず、これまでの施工実績や西九州新幹線関連のものもあった。

北海道新幹線のトンネル掘削状況を見ると、すでに全体の64%が掘削済みだという。多くは短いトンネルだったが、全長10km以上に及ぶ昆布トンネルも完了となっていた。

  • 北海道新幹線のトンネル工事の進捗状況を示すパネル。現状は64%となっている(筆者撮影)

  • 倶知安駅高架橋の工事概要(筆者撮影)

  • 高架橋の完成イメージを確認できるタブレット端末も設置(筆者撮影)

今回の式典は倶知安駅高架橋の起工式であり、駅舎の建設は工事に含まれない。倶知安駅高架橋は本線3,160m、本線と保守基地をつなぐ保守基地線が約445m。新幹線の線路はおおむね50kmごとに保守車両が待機する保守基地を設置する必要があり、倶知安駅付近に造成することになった。

まずは倶知安駅周辺の本線高架橋と、保守基地の地盤に関連する工事を行う。最初の工程は杭打ちで、5~6月にかけて準備し、6月中旬頃から本格的に工事がスタート。完成は2027年6月頃とされ、駅舎の建設は2026年から着手予定だという。

  • 起工式で参議院議員の鈴木宗男氏が挨拶(筆者撮影)

  • 倶知安町長の文字一志氏は、町の活性化へ決意を述べた(筆者撮影)

倶知安駅高架橋の起工式は15時から始まった。鉄道・運輸機構副理事長の寺田吉道氏が挨拶した後、参議院議員の鈴木宗男氏、JR北海道代表取締役社長の綿貫泰之氏をはじめ、来賓・施工関係者らの挨拶が続く。

関係者らの挨拶が終わると、式典は神事に移行。会場は厳かな雰囲気となった。鍬入れは来賓と施工関係者の代表が行い、その後、玉串奉納へとスムーズに進む。

  • 神事が始まり、会場に緊張感が漂う(筆者撮影)

  • 起工式の出席者が鍬入れを行う(筆者撮影)

  • 玉串を奉納するJR北海道の関係者ら(筆者撮影)

  • 「くっちゃん羊蹄太鼓保存会 鼓流」による演奏。気迫のこもった2曲を演奏した(筆者撮影)

式典自体は1時間ほどで終了。16時から屋外の特設ステージで「くっちゃん羊蹄太鼓保存会 鼓流」による演奏が行われた。倶知安に勤めていた元国鉄マン「太鼓のロクさん」こと高田緑郎氏が始めたグループで、老若男女の奏者が躍動感あふれる演奏を披露。晴天の中、式典は無事に終了した。

倶知安駅付近の高架橋工事は、工事現場のすぐ横を在来線が走行する環境下での施工となる。安全および騒音、環境負荷に最大限配慮し、工事を進めていくとのことだった。

  • 倶知安駅周辺の高架橋の完成予想図。羊蹄山をバックに走る新幹線が描かれている(筆者撮影)

  • 新幹線延伸後の倶知安駅前広場のイメージ図。ホームから羊蹄山が見えるようにデザインされていた(筆者撮影)

倶知安町は羊蹄山やニセコ連峰へ向かう国内外からのスキー・登山客が多く、観光客が旅先でふるさと納税を行う「旅先納税」の納税額が、当初予想の2倍を超える約8,730万円となった。新型コロナウイルス感染症の規制緩和が進む現在、倶知安町を含む道内各地で観光需要の高まりが顕著であり、北海道新幹線の延伸が町内観光にとって大きな後押しとなることは間違いない。

取材終了後、函館本線の列車で札幌に戻ろうと思っていたが、少し早く現地を出られるバスがあったので小樽駅まで1時間半ほど乗車した。現在はダイヤが密とは言えない倶知安駅だが、北海道新幹線の延伸により、鉄道での訪問客が増えることに期待したい。