今回の観測期間は、2015年10月~2021年5月までの約6年間だ。同観測の結果、2019年12月周辺の太陽活動極小期をカバーする太陽変調の様子が解明されたとする。CALETで観測された電子と陽子の量の時間変化をプロットすると、2020年の太陽活動最小期に、陽子量はなだらかな四角形のピークが示されているのに対し、電子量は尖った三角形のピークが示されていた。そこで研究チームは、同観測のデータを、ドリフト効果を考慮した宇宙線輸送過程のシミュレーションモデルで再現したという。

  • CALETで観測された宇宙線電子量(青丸)と陽子量(赤丸)の変化(下図(b))。横軸は西暦年で、画像2の赤点線期間が拡大されたもの。青線と赤線はドリフト効果を考慮したモデルによる計算結果。上図(a)は同期間の太陽黒点数(黒線)と太陽磁場のカレントシートの傾き角(青点)。Physical Review Lettersの発表論文の図が編集されたもの。

    CALETで観測された宇宙線電子量(青丸)と陽子量(赤丸)の変化(下図(b))。横軸は西暦年で、画像2の赤点線期間が拡大されたもの。青線と赤線はドリフト効果を考慮したモデルによる計算結果。上図(a)は同期間の太陽黒点数(黒線)と太陽磁場のカレントシートの傾き角(青点)。Physical Review Lettersの発表論文の図が編集されたもの。(出所:茨城高専Webサイト)

その結果、観測された陽子と電子の量の変動が、同時に再現されていることが確認された。CALETによる観測結果を理論モデルで再現することで得られたこの結果は、ドリフト効果が太陽活動周期ごとの宇宙線量の変動に大きな役割を果たしていることを示す成果だとしている。

また宇宙線輸送過程のシミュレーションは、太陽活動に伴い変化する宇宙の天気をコンピュータ内に再現し、ある領域にばらまいた宇宙線が、太陽風のプラズマや磁場の影響を受けて複雑な経路を辿り地球に到来するまでの過程を追いかけるという手法で行われた。再現された宇宙空間では、実際の観測結果に基づく太陽風の速度や磁場の変動が考慮されている。また、ドリフト効果をはじめ、移流、拡散、断熱冷却といった、宇宙線が地球に到来するまでに受ける基本的な物理作用も考慮されている。このような、物理法則をベースとする、パラメータ不定性を最小限に抑えた理論モデルでCALETの観測結果を再現することで、太陽変調のメカニズム解明につながる定量的議論が実現されたとする。

なお、今回発表された研究成果は、まだ太陽活動の半周期分の結果にすぎない。今回の観測で明らかになったのは、主に太陽活動が徐々に低下する減退期における太陽変調の描像だが、今後の増進期では太陽系内の磁場構造が変わる。今後も観測を継続することで、宇宙線が太陽系内の環境の影響をどのように受けるのかがより明らかになるとした。

また今回は、宇宙線の太陽変調の荷電依存性を示す成果の速報として計数率の変動が示された。研究チームは今後解析精度をより向上させ、エネルギー・スペクトルの変動を明らかにすることで、現在や過去の太陽変調のより正確な理解と、その予測をも可能とする理論モデルの確立を目指すとしている。

  • 地球に到来する宇宙線陽子・電子の通過経路と、太陽系内のカレントシート。図中心の赤い球は太陽、そのすぐそばの青い球は地球を示す。CALETの観測期間において、宇宙線陽子は太陽系の極領域(赤矢印)を通過して地球に到来する。一方宇宙線電子は、太陽系の赤道面周辺に広がるカレントシート(オレンジ)に沿って(青矢印)地球に到来する。

    地球に到来する宇宙線陽子・電子の通過経路と、太陽系内のカレントシート。図中心の赤い球は太陽、そのすぐそばの青い球は地球を示す。CALETの観測期間において、宇宙線陽子は太陽系の極領域(赤矢印)を通過して地球に到来する。一方宇宙線電子は、太陽系の赤道面周辺に広がるカレントシート(オレンジ)に沿って(青矢印)地球に到来する。(出所:茨城高専Webサイト)