同プロジェクトにより、これまで未調査だった赤外線バブルの縁にある大質量原始星周辺の温度分布が初めて得られたという。その結果、赤外線バブルの縁であろうとも、天の川銀河のほかの大質量星形成領域の観測から得られた結果と変わらないことが示されたとしている。つまり、大質量原始星は周囲の星間ガス雲を加熱するが、その影響範囲は、どこでも変わらずわずか10光年程度と限定的であることがわかってきたという。

  • (左)FUGINプロジェクトによって得られた一酸化炭素分子(CO)の強度分布。黄色の枠で示されているのが、野辺山45m電波望遠鏡でアンモニア分子の観測を行った範囲。中心の白い点線で囲った場所に赤外線バブルN49が位置している。黒く太い等高線でフィラメント状分子雲が示されている。(右)スピッツァー宇宙望遠鏡によって得られたN49の3色合成画像。

    (左)FUGINプロジェクトによって得られた一酸化炭素分子(13CO)の強度分布。黄色の枠で示されているのが、野辺山45m電波望遠鏡でNH3分子の観測を行った範囲。中心の白い点線で囲った場所に赤外線バブルN49が位置している。黒く太い等高線でフィラメント状分子雲が示されている。(右)スピッツァー宇宙望遠鏡によって得られたN49の3色合成画像。(出所:NAOJ 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

さらに、今回のNH3の観測結果と、FUGINプロジェクトによって得られたCOの空間分布を比較したところ、視線速度の異なるフィラメント状分子雲の重なった場所で、まさに高密度分子ガスが存在することが明らかになったとする。なおFUGINプロジェクトとは、2014年~2017年にかけて、野辺山45m電波望遠鏡を用い、天の川銀河の分子ガス雲の広域観測を行ったプロジェクトのことだ。

  • (左)今回の研究で観測されたアンモニア分子の反転遷移の模式図。窒素原子(N)が3つの水素原子(H)で作られる平面をすり抜ける際に生じるエネルギー差によって、波長1.3cm(周波数23GHz)の電波が放射される。(右)野辺山45m電波望遠鏡で観測されたアンモニア分子の空間分布。カラーと等高線で電波強度の違いが示されている。

    (左)今回の研究で観測されたNH3分子の反転遷移の模式図。窒素原子(N)が3つの水素原子(H)で作られる平面をすり抜ける際に生じるエネルギー差によって、波長1.3cm(周波数23GHz)の電波が放射される。(右)野辺山45m電波望遠鏡で観測されたNH3分子の空間分布。カラーと等高線で電波強度の違いが示されている。(出所:NAOJ 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

この結果は、この領域の先行研究で提案されている2つの分子雲の衝突によって高密度分子ガスが作られ、そこでバブルの縁にある若い大質量星が形成されたシナリオを支持する観測結果だという。このことから、フィラメント同士の衝突によって大質量原始星が誕生し、周囲の10光年程度の狭い範囲の星間ガスを加熱するシナリオが予想できるとする。またバブルの縁にある若い星の形成については、バブル自身の膨張運動による影響は受けにくいと考えているとしている。

  • (左)アンモニア分子の観測データを解析することで得られたN49周辺の分子ガスの温度分布。十字が若い大質量星の位置を示している。(右)FUGINによって得られた13COの2つの視線速度成分(88km/s、95km/s)の強度分布に、赤い等高線でアンモニア分子の分布を重ねている。

    (左)NH3分子の観測データを解析することで得られたN49周辺の分子ガスの温度分布。十字が若い大質量星の位置を示している。(右)FUGINによって得られた13COの2つの視線速度成分(88km/s、95km/s)の強度分布に、赤い等高線でアンモニア分子の分布を重ねている。(出所:NAOJ 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

今回の研究では、N49の温度分布が明らかにされた。研究チームでは今後、NAOJも参加する史上最大級の国際電波望遠鏡計画「SKA」や、合計263台のパラボラアンテナを北米全域に分散して設置し最大約9000kmの口径の電波望遠鏡を実現する次世代大型電波望遠鏡計画「ngVLA」など、低周波をカバーする次世代電波望遠鏡による高分解能観測を行うことで、星間ガスからの大質量星の誕生と、その後周囲の星間ガス雲に与える影響範囲を、さらに詳しく調べることができると考えているとした。