藤井聡太叡王に菅井竜也八段が挑戦する第8期叡王戦(主催:株式会社不二家)は、第4局が5月28日(日)に岩手県宮古市の「浄土ヶ浜パークホテル」で行われました。二度の千日手の末、この日3局目となる指し直し局を90手で制した藤井叡王がスコアを3勝1敗として防衛に成功。叡王3連覇を達成しました。
驚きの二千日手
藤井叡王の2勝1敗で迎えた本局、9時に始まった対局は序盤早々に千日手を迎えます。先手の菅井八段が三間飛車に構えたのに対して後手の藤井叡王は舟囲い調の急戦を志向。袖飛車の要領で角頭を狙ったのがうまいゆさぶりで、菅井八段が左銀を早めに中央に繰り出した手を咎めています。結局は菅井八段も妥協し、10時51分に千日手が成立しました。
指し直し局は、菅井八段の三間飛車穴熊に藤井叡王が居飛車穴熊で応じる相穴熊の戦型に。菅井八段の左金が中央につり出されているのに着目した藤井叡王は軽快な仕掛けで主導権をつかみますが、菅井八段も飛車を切り飛ばして先手陣を薄くする実戦的な攻めで対応。18時32分、この戦型特有の金銀のはがし合いが始まったところで再び千日手が成立しました。
つなぎの歩の手筋で藤井叡王が優位に
再度先後を入れ替えて開始された指し直し局で、先手となった菅井八段は三間飛車穴熊に命運を託します。この戦法は第2局・第3局と合わせて本シリーズ4度目の採用ながら、一目散に四枚穴熊の堅陣を目指したのが菅井八段の細かな工夫。後手の藤井叡王が7筋から飛車をさばいたのに応じて中央で飛車交換が生じ、局面は早くも終盤戦の様相を呈します。
ともに飛車を敵陣に打ち込み合い、5筋に作ったと金を一歩ずつ敵玉に近づけるスピード勝負が始まりました。守りの金を後手のと金にぶつけて攻め駒の一掃を図った菅井八段に対し、手番を得た藤井叡王はこのと金にじっと歩をつないで攻めの継続を目指しました。金取りを急がないこの歩打ちが好手で、この手を境に形勢の針は藤井叡王に触れ始めます。
一手勝ち読み切り藤井叡王が防衛
平凡な攻め合いではジリ貧と見た菅井八段は端攻めにアヤを求めますが、藤井叡王はここで読みの入った応手を用意していました。突き捨てられた端歩を角で取ってこの角を差し出したのが場合の好手で、相穴熊の終盤戦では盤上の香の価値が角を上回るという例外を見越しています。追いすがる菅井八段に対し、藤井叡王は攻められた1筋からの逆襲を決めました。
終局時刻は21時8分、最後は自玉の詰みを認めた菅井八段が駒を投じ、計6局の五番勝負に終止符が打たれました。3勝1敗で防衛に成功した藤井叡王は、連覇を3に伸ばして永世叡王まであと2期としました。敗れた菅井八段は、最初の指し直し局の終盤戦で千日手を打開する手段があったかと悔しさをにじませました。
水留 啓(将棋情報局)
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