皆さんこんにちは。将棋情報局、島田です。本日は現在予約受付中の『藤井聡太の詰み ~デビューから令和3年度まで~』の一部をご紹介したいと思います。
本書はタイトルの通り、藤井聡太竜王の実戦で現れた詰みの局面を集めて、解説するものです。藤井先生といえば詰将棋解答選手権5連覇の実績が示す通り、詰みに関して棋士の中でも群を抜いた力を持っています。 それを生かして実戦でも素晴らしい詰みを見せてくれる藤井先生。「実戦で詰将棋を作っている」と言われることもあります。
しかし、プロの将棋では詰み筋に入ったところで投了することが多いので、詰み手順は棋譜に表れません。これでは藤井先生の詰みの力を堪能することは難しい。そこで、投了図から詰みまでの手順を見てみよう、というのが本書の狙いでございます。
ちなみに、詰将棋の解説は詰将棋の最高の栄誉である看寿賞を受賞している馬屋原剛さんと岸本裕真さん、そして看寿賞選考委員でもある編集部の會場が担当しました。 素晴らしいメンバーですね。(本書の予約はこちらから)
今回は『藤井聡太の詰み ~デビューから令和3年度まで~』に収録された詰みの中でも、ひときわ長い手順のものを紹介しようと思います。藤井先生の凄さが伝われば幸いです。
では、行ってみましょう! 2021年4月16日に行われた第34期竜王戦ランキング戦2組決勝、八代弥七段戦です。
まず第1図を見てください。後手の八代弥七段が5二にいた飛車を9二に回ったところです。
次に飛車を成られる手が厳しいので、いったん▲9三歩と打つ・・・と、思うじゃないですか。そんな手を指す藤井先生ではありません。なんと、この局面から▲2二歩成(第2図)として35手で後手玉が詰んでいます。
実戦はこの▲2二歩成を見て八代先生の投了となりました。
見ている方は「えぇー?」ですよね。詰みまでの35手が省略されて終局となってしまったので、消化不良も甚だしい! ・・・安心してください。そのために本書があるのです。では、詰みまでの手順を見ていきましょう。
まず、第2図で△2二同飛としたらどうなるの?と思いますよね。それには▲同飛成から以下のような手順で詰みます。
【分岐】第2図からの指し手
△2二同飛▲同飛成 △同 玉 ▲2三歩
△3一玉 ▲2二金 △4一玉 ▲3一飛
△5二玉 ▲6一銀 △4二玉 ▲3二金(第3図)までの詰み
ということで、無事に詰みました。本線に戻りましょう。第2図から△4一玉(第4図)とするのが最善の逃げ方です。
【本線】第4図からの指し手
▲3二と(第5図)
▲3二とと、作ったと金をいきなり捨ててしまいます。これに対してまた△3二同飛と△3二同玉に分岐します。まずは△3二同飛の変化を見ておきましょう。
【分岐】第5図からの指し手
△3二同飛▲2一飛成△3一銀 ▲5三桂
△同 金 ▲3二竜 △同 銀 ▲4二歩
△同 玉 ▲3三銀 △同 銀 ▲同歩成
△同 玉 ▲3一飛 △3二飛 ▲3四銀
△同 玉 ▲3二飛成△3三歩 ▲3五金(第6図)までの詰み。
この変化も長いですが、無事に詰みました。 ということで、本線に戻りましょう。第5図から△3二同玉(第7図)が後手にとって最善です。
【本線】第7図からの指し手
▲3三銀(第8図)
▲3三銀と頭に打ち込んだところでまた分岐します。△4一玉と逃げるか△同桂と取るか。 △4一玉の詰み手順は以下です。
【分岐】第8図からの指し手
△4一玉 ▲2一飛成△3一歩 ▲5三桂
△同 金 ▲3一竜 △同 玉 ▲5三角成
△2一玉 ▲3一金 △1一玉 ▲2一金打(第9図)まで
▲5三桂と捨てて金を質駒にするのがまたオシャレな手順。詰将棋のような捨て駒が分岐手順に当然のように入っているのがすごいです。
▲3三銀に△4一玉は速く詰むので、後手は△3三同桂(第10図)と取ります。
【本線】第10図からの指し手
▲3三同歩成 △同 玉 ▲3四香 △2四玉(第11図)
第11図を見てください。攻めの主役だったはずの飛車が取られちゃいました。持ち駒も少ないです。こんなんで詰むんでしょうか?不安です。夜道の独り歩きくらい不安です。
【本線】第11図からの指し手
▲2五歩 △2三玉 ▲3五桂(第12図)
第11図の手前で▲3四香とくっつけて打ちましたが、これは第12図の▲3五桂を打つためだったんですね。実戦では「大駒は離して打て」が鉄則ですが、詰将棋ではあえて大駒や香を玉に近づけて打つことがあります。ここではそのテクニックを使っているんですね。・・・いや、凄くないですか?
第12図からの指し手
△2二玉 ▲3二金 △同 飛 ▲同香成
△同 玉 ▲4三桂成△同 玉 ▲4一飛
△3二玉(第13図)
第13図を見てください。 後手玉の可動域はかなり広いのに持ち駒が金一枚しかありません。本当にここから詰むんでしょうか? 不安です。ご飯が結構残っているのにカレーがちょっとしかない時くらい不安です。
第13図からの指し手
▲3一金 △2三玉 ▲2四歩 △同 玉 ▲3五角成△2三玉
▲4三飛成△3三金 ▲3四馬 △2二玉 ▲3三馬 △3一玉
▲3二馬(第14図)まで
尻金から歩を突く手がちょうどぴったりつながって詰みました。最後までぎりぎりでしたが、ここまでの変化を35手前の▲2二歩成の時点で読み切ってるのがすごいです。
・・・と、思うじゃないですか。実際は▲2二歩成はノータイムで指していて、藤井先生はこの詰み筋をもっと前に読み切っていたはずなんですよね。
時間の使い方から考えて、詰み筋を読み切ったのはおそらくこの場面です。
第15図で▲3四歩と指したのですが、この手に7分使っています。ここからの指し手と消費時間は以下の通りです。
▲3四歩 7分
△3二金
▲4三歩成
△同 金
▲2三歩 1分
△3一玉
▲2四飛 1分
△9二飛
▲2二歩成(ここから詰み手順スタート)
ご覧の通り▲3四歩以降はほぼノータイムです。▲3四歩が99手目で詰みの局面が141手目なので、42手先まで7分で読んだ、ということになりますね。42手読めること自体がすごいですが、詰みに至るまでの分岐の数を考えると、いったい何手読んでいるんでしょうか? あんなかわいい顔して。もう、怖いです。 もちろん、それまでに対局中に読んだ蓄積もあったと思いますが、それにしても凄すぎます。
普段我々が目にするのは盤上に表れた局面だけで、それでも十分凄いんですけど、投了図から先の指し手を知ることで、また別の角度から藤井先生の恐ろしさを垣間見ることができました。
本書はこういう局面を集めて解説しています。また、詰将棋の解説だけでなく、その対局の背景や物語も記載しています。
デビューからの対局を集めているので、日本中を興奮の渦に巻き込んだ29連勝の熱狂、トップ棋士をなぎ倒しての朝日杯初優勝、16日で終わった五段時代、緊急事態宣言明けからの最年少タイトル挑戦、棋聖獲得、王位獲得、豊島先生との十九番勝負などなど、思い出して書いているうちに胸アツになってしまった自分がいました。
しかも、いま予約していただくと、もれなく週刊将棋特別号もついてきます。 ぜひ手に取っていただければ幸いです。
島田修二
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