「夫婦のセックスレス」という話題にしづらい問題に切り込んだフジテレビ系ドラマ『あなたがしてくれなくても』(毎週木曜22:00~)。ヒリヒリとした会話劇やハラハラしたストーリー展開で、お茶の間で見るよりも、1人の時間や移動中などに配信で見る“こっそり視聴勢”が多く、今クールのドラマ最速で放送後1週間の見逃し配信が累計2,000万回を突破した。
そんな今作をプロデュースするフジテレビの三竿玲子氏に、制作の背景や作品に込めた思い、そして反響の声などを聞いた――。
■経験が生かされたセリフ「楽な部署に異動させられる」
――夫婦のセックスレスをテーマにしたドラマを制作された背景について教えてください。
私は以前から原作漫画のファンだったんです。セックスレスというエッジの効いたテーマですが、それだけにフォーカスしているのではなく、そこに絡む夫婦の愛や問題、人間ドラマがしっかりと描かれています。なぜ妻は、セックスレスがつらいと思うのか…。それは、その行為がないことだけが不満なのではなく、日頃の些細(ささい)な不満が募っていたり、行為の先に「愛してほしい」という気持ちがあるからだ…ということ、一方で男性側は、愛していても家族だと感じてしまうとできなかったりと、いろいろな思いがあることが丁寧に描かれている。
特に面白いと感じたのが、男性側の視点がしっかりと描かれているところでした。また、主人公とは逆の立場で「妻からセックスを拒否されている男性」など、様々な人物が登場するので「このキャラクターたちをリアルで描けたら面白いな」と思ったことが企画のきっかけでした。
――三竿さんが注目しているキャラクターは、誰でしょうか?
私は“楓(田中みな実)推し”です。私自身が働いていることもあって、漫画を読んだときに「楓の言うことが全部分かる!」と思いました(笑)
女性は子供を産むと、どうしても一定の期間、仕事を休まなくてはいけません。結婚することでプライベートは充実しますが、仕事でデメリットを感じることは日本社会ではまだまだあります。「子供を産むか産まないか」「産んだら仕事に復帰できるのか」と悩んだことのある女性は多いと思います。楓が雑誌の副編集長として忙しく、生活が不規則なこともそうですし、私も家のことをやらなくて済むならそうしたいタイプなので、家のことを二の次にしてしまう気持ちがすごく分かります。
私は映画の『昼顔』(2017年)を担当したあと、出産や子育てで現場を離れており、今回が地上波ドラマのメインのプロデューサーとしては久々の作品なのですが、楓や、楓の上司の圭子(MEGUMI)の「(出産や育児を理由に)楽な部署に異動させられる」などのセリフは、私が脚本家に、「会社としては配慮なのだが、働く女性にとっては、出産や育児があっても変わらず働きたい気持ちがある」と話したことが生かされています。会社への恨み節みたいになってしまいましたが(笑)
――久々に戻ってきたドラマの制作現場は、いかがでしたか?
昔のように連日夜中まで働くということはなく、健全化していて、リモートでの打ち合わせも増えているので、働き方もだいぶ変わっていて驚きました。ドラマの観られ方も、地上波だけではなくTVerなどの配信、SNSを使った展開など大きな変化があって、そういう変化があったからこそ我々のようなドラマを観ていただける機会が増えたのだと感じました。
■原作者とキャラクターをすり合わせながら制作
――キャスティングに関しては、どんなところにこだわったのでしょうか?
漫画のイメージ通りではなくても、「この方がやってくれたら面白くなりそうだな」ということを含めてキャスティングしています。原作のハルノ(晴)先生とお話ししたとき、生身の人間が演じるので言葉の言い回しなど、ある程度変える部分があることをお伝えすると、「変えてもいいけれど、キャラクターの根幹となるところはブレさせないでほしい」とおっしゃっていました。心に持っているものが漫画のキャラクターとつながるように、今でも先生とお話ししながらすり合わせています。
例えば、三島(さとうほなみ)や楓は容姿を含めて原作とは少し違うのですが、心の底にあるものは変えないようにしています。また同時に、俳優さんに自由に演じてもらえる余地もつくっていただいています。
――実写化したことで、予想を超えて面白くなった登場人物はいますか?
漫画は漫画の良さ、ドラマはドラマの良さがあるので、どちらが…ということはないですが、ドラマの登場人物も皆、魅力的になっていると思います。奈緒さんはじめとする出演者の皆さんがキャラクターについてすごく考えてきてくださっているので…。例えば陽一(永山瑛太)は実際にいたら相当嫌なやつですよね(笑)。でも瑛太さんが演じてくださることで、「陽一の気持ちも分かるな」と思える部分が出ています。瑛太さんのお芝居によって「この人はみちに対してすごく愛があるんだな」ということが伝わってくるので、何だか憎めないんですね。
奈緒さんは、みちの“普通っぽさ”をあれだけチャーミングに演じられる人はなかなかいないと思いますし、新名(岩田剛典)は理想的な王子様だけど、それが崩れていく様を見てみたいと思わせてくれます。俳優さんというフィルターを通すことで原作とはまた違うものが作り上げられているのかなと、うれしく思います。