天然鉱物のCuSは層状構造を有しており、リチウムやナトリウム(Na)、マグネシウムなどのさまざまな陽イオンの貯蔵が可能だ。また、560mAhg-1という大きな理論容量(現行リチウムイオン電池用正極材料の2倍~3倍)を有しており、イオン半径がCaと近いNaを貯蔵可能であることがわかっているため、Ca蓄電池用の正極材料として期待されていた。
しかしこれまでのCa蓄電池へのCuSの応用では、可逆性が乏しく、容量もわずかしか得られておらず、実現は困難だという見方をされていたという。それに対し研究チームでは、その理由が以下の3点にあるとした。
- CuSの粒子が粗大である場合、イオン半径が大きいCa2+が構造内へ十分に拡散しないこと
- 充放電過程において、CuS粒子同士が凝集することによってイオンパスが失われること
- 電解液がCa金属に対して十分安定ではなかったため、充放電サイクルに伴って過電圧が増加すること
そこで今回の研究では、高い比表面積を有する炭素材料の「ケッチェンブラック」と、界面活性剤「CTAB」が共存した状態での水熱合成によって、約30nm程度までナノ粒子化させたCuSをカーボン材料内に高分散に担持させた材料を合成したという。
得られたCuS炭素複合体のCa挿入・脱離反応を評価したところ、市販品CuSの50倍近い、370mAhg-1という高い容量が示された。高解像度透過型電子顕微鏡観察からは、Ca挿入・脱離反応前後においてCuS粒子同士が独立に存在していることがわかり、反応過程における凝集などが起きていないことも明らかにされた。
さらに、水素クラスターを含む水素化物電解液を用いて、金属Ca負極と組み合わせた電池特性の評価が行われた。すると、500回の繰り返し充放電でも固有の充放電プロファイルが得られ、容量維持率も90%(10サイクル目と比較)という非常に安定した特性を有していることが確かめられた。この結果は、これまでのCa蓄電池の繰り返し充放電特性と比較して、最も良いものだという。また、室温における5分の充電時間でも、1時間充電の際の50%の容量が得られ、高速充電にも対応可能であることが実証されたとする。
今回の知見を活かすことで、さらに電圧の高い正極材料への展開も期待されるという。またこの実証を契機として、さらにCa蓄電池用の正極材料開発が進展することで、陽イオンのサイズ・価数によるCuS電極に対する充放電反応の基礎的研究や、それを用いたCa蓄電池の社会実装に向けた新たな潮流が生まれることが期待されるとしている。