次に、両分子雲から放射される光が詳細に調べられた。すると、一般的に密度の高い分子雲から放射されるような光が含まれていることが判明。それにもかかわらず、分子雲からの複数の放射光に関する情報を組み合わせた解析に基づくと、この分子雲は典型的なものと比べて密度が低いという結果が得られたという。これらの矛盾する結果に対し、研究チームは、この分子雲が今回の観測の解像度では分解できないような、より小さな分子雲の粒が集まって塊のように見えているものとする説が提案された。

解像度よりも小さい分子雲からの放射に関する情報は、観測によって平均化されてしまうため、解析すると本当の分子雲の密度よりも過小評価されてしまうことが起こるという。すまり今回発見された分子雲も、画像に見られるような大きな塊ではなく、実際にはもっと小さな分子雲が集まっている可能性があるとした。

先行研究では、宇宙ジェットは周辺に存在する低密度なガスを圧縮して高密度にすることで状態遷移を引き起こし、分子雲を作ることができると考えられてきた。しかし、そのプロセスで今回発見された分子雲を形成すると考えるのは現実的でないという。特殊な状況下以外では、分子雲が作られるまでに要する時間が、SS433から噴出する宇宙ジェットの年齢よりも長くかかってしまうためだ。

そこで新たな説として、周辺に元々存在していた即座に星になる程の質量は無い小さな分子雲の粒が、宇宙ジェットで掃き集められたとするものが考え出された。周囲に散らばっていた分子雲の粒を、宇宙ジェットでかき寄せて集めるイメージだ。このような状況を考えれば、今回発見された分子雲の特徴である、「より小さな分子雲の粒が集まっている」という解釈とも一致するとしている。

  • 宇宙ジェットで周辺に散らばっている小さな分子雲の粒を掃き集めているイメージ。

    宇宙ジェットで周辺に散らばっている小さな分子雲の粒を掃き集めているイメージ。(c)国立天文台(出所:国立天文台Webサイト)

研究チームによると、もしSS433からの宇宙ジェットで分子雲の粒を掃き集めて今回の2つの分子雲を形成したのだとすると、宇宙ジェットは太陽質量の約6000倍のガスを運べるほどパワフルだという。このように、宇宙ジェットで直接星間物質を圧縮して分子雲を作り出す以外にも、まとまった質量を持つ分子雲を作り出す方法もあることが、今回の観測で提案された。

研究チームは今後、これらの分子雲をさらに詳細に観測することで、宇宙ジェットが分子雲の形成・進化に与える影響を解明できるものと考えているとする。また、SS433以外の活発なX線連星から噴出する宇宙ジェットとその周辺の星間物質の研究も、現在国内外で進められている。将来的にはX線連星が天の川銀河の形成・進化にどのくらい、どのように寄与しているのか全貌が明らかになることが期待されるとしている。