ズームレンズに生まれ変わった憧れの“サンニッパ”
「サンニッパ」というレンズの略称を聞いたことがある人は多いはず。焦点距離300mm、開放値F2.8のレンズを指し、高価で高級な大口径望遠レンズとして、かつてはプロアマ問わず多くのフォトグラファーにとって憧れ的存在だった。特に、80年代後半から2000年代にかけて、ポートレートやスポーツ、ネイチャーなどの分野で人気が高かった。
個人的には、カメラマンになりたての若かりしころ、必死の思いでローン購入したのがサンニッパだった。半分見栄で購入したが、仕事でもめいっぱい活躍してくれた思い出のレンズである。
しかし、その後望遠レンズの主役は、より焦点距離が長いヨンニッパや400mmを含むズームレンズへと移行し、世間的にも私的にも、いつの間にかサンニッパの存在感は薄くなっていった。キヤノンは2011年に「EF300mm F2.8L IS II USM」を、ニコンは2010年に「AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR II」をそれぞれ発売して以来、後継モデルを出していない。さらに、一眼レフ時代からミラーレス時代へと移り変わり、もはや「サンニッパ」は死語になりつつあった。
そんななか登場したのが、今回取り上げるキヤノンの新製品「RF100-300mm F2.8 L IS USM」である。つ、ついに、あの愛しのサンニッパがこのミラーレス全盛の2023年に復活したのだ。単焦点レンズではないので、正確にはサンニッパとは呼べないのかもしれない……。だが、製品名の中にはちゃんと「300mm」と「F2.8」の数字が並んでいる。これで十分。いうなれば“サンニッパズーム”だ。我が青春のレンズ再び、というわけである。
手持ちでガンガン撮れる取り回しのよさ
編集部から届いた「RF100-300mm F2.8 L IS USM」を手にしてまず感じたのは、見た目の印象よりも軽いということ。重量2,590gもあるレンズを“軽い”というのはおかしな話だが、最大径128mm、長さ323.4mmという大きなサイズの割には軽量といっていい。小型軽量ボディの「EOS R6 Mark II」に装着するとさすがにフロントヘビーになるものの、プロ機「EOS R3」に装着した時のバランスはいい。
外装は、従来の同社白レンズと同じく高品位な金属製で、高級感と剛性感に満ちている。レンズの根元部分に金属調のシリンダー「マウントコアリング」を配置したのはRFレンズならではだ。これまでに比べてより幅の広いマウントコアリングとなり、ボディ側との一体感を高めている。
さっそく屋外に持ち出し、手持ちでポートレートを撮ってみた。重量2,590gものレンズを手持ち!と聞いてあきれる人がいるかもしれないが、短時間の運用なら手持ちでも十分に使える。撮影者の体力次第といったところだ。
もちろん、スポーツやネイチャーなど、待ち構えてシャッターチャンスを狙うような撮り方なら三脚を使ったほうが当然ラクだが、人物と一緒に動き回ってポートレートを撮るようなケースでは手持ちの方が有利になる。今回の試用では手持ちを多用することで、軽いフットワークによってさまざまな構図やアングルを選ぶことができた。
動体撮影が快適になるスピーディなAF駆動
高速かつ滑らかに作動するAFも気に入った。レンズ駆動には独自の超音波モーター「ナノUSM」を2つ搭載し、駆動域がオーバーラップする複雑なレンズ群の制御を採用しているとのこと。
ほぼ無音でスーッと合焦する動作がとても心地よい。今回の被写体はなかなか言うことを聞いてくれない小学生だったが、勝手気ままに走り回る彼らの動きにもスムーズにAF追従してくれた。
ちなみにカメラ側の設定は、フォーカス動作をサーボAFに、AFエリアを全域AFに、検出する被写体をオート(または人物)にそれぞれセットした。この状態で連写をすれば、おそらく撮影者が誰であっても正確なピントと狙ったタイミングで撮れるだろう。昔とは異なり、プロカメラマンのスキルというのはあまり関係ないのかもしれない。
エクステンダーを使って超望遠ズームに変身
忘れてはならない本レンズのもうひとつの魅力は、オプションのエクステンダーと組み合わせて焦点距離の拡張ができること。「EXTENDER RF1.4x」を使えば「140-420mm F4」のレンズに、「EXTENDER RF2x」を使えば「200-600mm F5.6」のレンズに変身する。
今回は、2倍のエクステンダー「EXTENDER RF2x」を装着してサーフィンを撮ってみた。陸地からサーフィンを撮る場合、300mmくらいではまったくもの足りなく、どうしても400~600mmくらいのレンズが欲しくなる。つまり、本レンズに「EXTENDER RF2x」を装着すれば、まさにサーフィン撮影にうってつけなレンズになるというわけだ。
しかも開放値がF2.8と明るいので、エクステンダーをつけても十分実用的なF値を維持できることは、かつてのサンニッパと同じメリットといえる。
他人に一歩差をつけた写真が撮れる!
個人的にポートレート撮影といえば、ふだんは85mmや135mmなどのレンズを使うことが多く、300mm以上はここぞという時に持ち出す「飛び道具」的な扱いになっている。だが本レンズなら、レンズ交換することなく、ふだん使いと飛び道具の両方をいっぺんに味わえる点がありがたい。
今回は短期間の試用とはいえ、RF100-300mm F2.8 L IS USMの魅力を存分に楽しむことができた。魅力どころか“魔力”といってもいい。撮影ジャンルを問わず多くのカメラマンにとって、撮影領域をいっそう広げてくれる新しい武器になるだろう。
ただし、問題は価格だ。キヤノンオンラインショップでの価格は1,504,800円。うーん。「RF400mm F2.8 L IS USM」(1,724,800円)の弟分だと考えると妥当にも思えるが、「RF70-200mm F2.8 L IS USM」(396,000円)の兄貴分だと考えると結構なお値段である。自分が撮る写真にどこまでの価値を感じるかが判断の分かれ目だ。
室内スポーツを主に撮影しているカメラマンにとっては、何をおいても絶対に手に入れたいレンズに違いない。また、ポートレートやウエディングを撮る人なら、他の人に一歩差をつけた写真が撮れる可能性に夢が膨らむはず。
個人的には、かつてのサンニッパのときと同じように、再びローン計画に手を出してしまいそうな抗えない誘惑といま戦っている最中だ……。いずれにしても、世の多くのカメラマンが「買う理由」または「買わない理由」を一生懸命に考えるレンズであることは間違いない。