成長を続けているリユース市場で最も注目を集める「買取専門店」。高価なモノはネットで売るのではなく、買取専門店に持っていく人も多いのではないだろうか。しかし、「売ったら数十万、数百万となる貴金属や時計などを持っていくまでに何が起こるか分からないので心配」、「出張買取を利用したいけど、初対面の人を自宅にあげることは抵抗がある」、そんな消費者の不安を解消するキャンペーンが4月5日より開始した。
キャンペーンは、「S.RIDE」×「買取大吉」のコラボで実現したもの。買取専門店「買取大吉」は全国47都道府県に650店舗以上展開。一方で「S.RIDE(エスライド)」は、ソニーグループのIT技術を活用したタクシー配車アプリ。全く異なる業界の2社がどのような想いで本キャンペーンの実現に至ったのだろうか。両社の代表取締役社長である、エンパワーの増井俊介氏、S.RIDEの西浦賢治氏にコラボの狙いについて聞いてみたい。
■コラボキャンペーンの内容は?
本キャンペーンの特徴は2つある。ひとつ目は、S.RIDEを使ってタクシーに乗車し、「買取大吉」の対象店舗を訪問すると、買取価格が最大20%増額されること。ふたつ目は、「買取大吉」の対象店舗にて、「S.RIDE」アプリ新規会員向けに初回配車利用に使える運賃1,000円OFFクーポンを配布しており、往路のタクシー代金として利用できることだ。「買取大吉」で不要なものや高価なモノを持っていくには、お得かつ安心のキャンペーンといえる。
ともすると接点がないように思えるS.RIDEとエンパワーだが、両社はどうやって出会ったのか。そしてこの業務提携の狙いはどのような点にあるのだろうか。
■安心・安全な買取りサービスを目指して
「買取大吉のメインの顧客層は、40~50代のブランド品に興味をお持ちの方や、シニア層の方々です。ですから、タクシー利用者との親和性が高いという想定はもともとあったんですね。そこで最初は『kmタクシー』を運営する国際自動車さまに『買取大吉を利用される方にだけ、タクシー代をサービスできるような企画はできないか? 』と相談したところ『多くの方にメッセージするなら、複数のタクシーで活用できる、S.RIDEさんと組むと良い。これからタクシー利用はS.RIDEがリードするよ』と、ご紹介いただいたのです」(エンパワー 増井氏)
増井氏は、エンパワー側の経緯をこのように話す。買取大吉には、店頭買取、出張買取、催事買取という3つの買取方法がある。だが昨今はブランド品を取り扱う買取専門店での強盗被害などの問題が発生しており、高齢者は高価なものを持ち歩くことに不安を覚えている。
また店舗や催事場への訪問が不安であれば出張買取という手もあるが、初めての買取では敷居が高い。また出張買取の詐欺事件を受け、知らない相手を自宅に上げることへの抵抗があるという意見も多い。「買取サービスを安全に利用できる手段を増やしたい」というのが増井氏の思いだ。
「出張買取は非常に伸びており、前年比1.6倍です。背景にはコロナ禍以降、高齢の方の生前整理のご相談が増加していることが挙げられてます。一方で、実はリサイクルショップでモノを売ったことがある人は3割しかいないというデータがあります。買取への不安を払拭すれば、これまで買取を体験したことのない人が新規顧客として買取大吉を訪れてくれるのではないでしょうか」(エンパワー 増井氏)
■「買取専門店に行くなら“安心・安全な”タクシー」という行動様式を
エンパワーの増井氏の発言に対して、S.RIDEの西浦氏は「非常に面白い提案だと思いました。顧客層も重なっています」と続け、コラボの実現に至った経緯を説明する。
「S.RIDEは東京に事業基盤があり、都内では約1.1万台のタクシーでサービスを行っています。毎年1~2月にアンケートを実施して課題をあぶりだしているのですが、長年“アプリの使い方が浸透していない”という大きな課題がありました。お客さまに一度でもS.RIDEを使ってみていただければ、リテンションにつながるのではないかと考えました」(S.RIDE 西浦氏)
S.RIDEが狙うのは「買取専門店に行くなら“安心・安全な”タクシー」という価値観を醸成することだ。買取価格の増額やタクシー代金に利用できるクーポンなどを通じて、S.RIDEを使うメリットを示すことでアプリを使うきっかけを作り、ひいては利用者へのサービスの定着を目指している。
こういった「移動にエンターテインメントを盛り込む」という取り組みは、近年S.RIDEが注力している分野のひとつだ。2022年には、自宅から東京ドームまで特別仕様車で送迎する「ジャイアンツタクシー」が期間限定で運行された。移動と体験を結び付けワンパッケージ化することで、より深いエンターテインメントの楽しみ方を提供するというのが、S.RIDEの方向性といえる。
■最初のハードルをいかに超えるかが両社のチャレンジ
コラボキャンペーンが開始されてから約1カ月が経過した。まだ効果は測定されていないが、両社ともすでにその効果を感じているという。買取大吉には狙い通り高齢者を中心にぞくぞくと問い合わせがあり、S.RIDEではアプリからのお知らせでお客様に本取り組みについてお伝えしている。
「今回、エンパワーさんと異業種間コラボをさせていただきましたが、増井社長の思いは『我々の世界観に似ているな』と感じました。どちらも、自分たちだけで一気通貫に事業を展開するというよりも、異業種とアライアンスを組んで客層を広げています。タクシーと買取専門店のコラボ、これをもっと発展させ、新しい行動様式を生み出したいですね」(S.RIDE 西浦氏)
さらにエンパワーの増井氏は、タクシー内の広告からの副次的な効果にも期待を寄せる。
「タクシーの後部座席にあるモニターは年々大型化され、広告効果も高いスペースです。ここに広告を出そうと思うと結構な順番待ちがあり、金額的な負担も大きくなります。今回の結果が両社にとって良ければ次の展開として、このモニターを使ったキャンペーンを打たせていただきたいと目論んでいます(笑)」(エンパワー 増井氏)
両社に共通しているのは、「まずは今回のコラボ第1弾で結果を出すことが重要」という思いだろう。それだけに、互いのサービスへ寄せる期待も大きい。
「S.RIDEの配車件数は前年同月比の約2.3倍に達しています。また買取大吉さんは同業他社さんに比べ、リピート率が倍以上と伺っています。一度体験された方には定着していただいているんですね。最初のハードルをいかにして超えるかがお互いのチャレンジだと思いますし、超えられるようにサービスを作り上げたつもりです。もし改善すべきところがあれば、お客様の声を真摯に受け止めて改善していきたいなと思います」(S.RIDE 西浦氏)
「このコラボキャンペーンは、とても画期的でシンプルなもの。タクシーに乗って『買取大吉』に行ったら、タクシー代も(1,000円分)出してくれて、モノも2割高く買ってくれる。知らなきゃ損! 是非ご利用いただきたいですね。」(エンパワー 増井氏)